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鏡花読書

『青切符』(明治三十五年)


 東海道線新宿→品川間の二等(青切符)車中で見かけた十七、八歳の娘の言動をスケッチした小品。

 こんなにまじまじと女学生を見つめて、おやおや、鏡花も田山花袋と同じ『少女病』にかかったのかと思ったら、最後には――でも彼女が可憐でないのは、入学成績が一番だったから、なんて、いつもの、才女ぶった女の全否定をかまして終わる。

 そういえばフランク・ザッパは、娘のムーンが学校で聞いたギャルのスラングをコラージュして名曲「Valley Girl」を書いたのだった、と思い出したのだが、発想は似通っても、鏡花のはちょっといただけない。





『やどり木』(明治三十五年)


「やどり木」といえば穏やかにも思えるが、もっと気味悪く「寄生虫」と言いかえてもいい。のらくら者のたとえではなくて、いつの間にか体内に巣くうような気味の悪さを表したタイトル。

 怪奇な妄想がふくらむ内容からして、大蔵貢の新東宝で映画化でもされてたらと、つい妄想してしまうのだけれど、そうなっていたら『残酷吸血女化猫』とでも改題されていたかもしれない。実際には化猫男だけど。

 あえて内容には触れないが、キャラ設定も構成も、そして結末の切れ味も優れた、エロティック・ホラーの傑作だった。


 調べてみたら平凡社ライブラリーの「龍潭譚/白鬼女物語 鏡花怪異小品集」に収録されている。文章難度は黒岩涙香レベルでとても読みやすいので、その手の作品が好きな未読の方は、ぜひ。





『お留守さま』(明治三十五年)


 別題『花菖蒲』。

 深川の材木問屋か何かなのか、はっきりとは書かれていないが裕福な家に嫁いですぐに夫を亡くし、それ以来旦那のことを訊かれると「あの今留守なの」と答える未亡人の哀しく美しい姿が点描される。


 ――そんな内容を普通に書けばただの人物スケッチに過ぎないのだが、「おるすさん」という姉様人形が彼女に似ているから、それを見せて皮肉を言ってやろうと訪ねてきた、若くて遠慮のない従弟(いとこ)の、ややシニカルな目を通してさらりと描かれるから、よけいにその未亡人の哀れが余韻を残す。

 短いながらも構成の妙があり、練達の筆致を感じさせる好編。





『親子そば三人客』(明治三十五年)


 夫婦者とその娘で商売をしている、壱岐殿(いきどの)坂下のおやこ蕎麦という店での一場。三人の客のうち、一人は盗賊、一人は捕方で、最後は古風な捕り物になる。

 飲食代のかたに店に預けた羽織を、夜間に受け取りがてら強盗を働くという犯罪の手口が眼目で、それ以外は盗賊の情けも含めてありきたり。


 壱岐殿坂は、今も同じ名で呼ばれている、文京区本郷にある坂。

 鏡花の自筆年譜には、「新文芸に載せたる『親子そば三人客』は、本郷壱岐殿坂の蕎麦屋に時雨の夜の実景なり」とあって、蕎麦屋で見かけた一場面から芝居めいた空想を拡げた小品のようだ。

 タイトルの「親子/そば」を角書きにしていることからして、わざと絵草紙ふうに仕立てたのだろう。


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