(笑)
文末につけて "(笑)" を意味する "w" 、つまり "芝" あるいは "草" 、 "藁" 、 "ワラ" の起源は、ネットで探せばいくらでも出てくるのだけれど、そもそもの記号である "(笑)" って、昔の文章で見かけることはないですよね。
では、いつごろから使われはじめたのか、御存じでしょうか。
……という話を書こうと思って、何か知らないことが載っていないかと Wikipedia で "(笑)" を調べてみると、その起源についてすでに書いてあった。
もともとは講演録や座談録での発言に添えられたト書きの一種で、かなり古い時代(引用例では太平洋戦争終戦直後)から使われていたらしいのだが、それが普通の一人称叙述文のなかで使われた例は、たぶん、1970年代後半より前にはなかったと思う。
80年代に入って軽薄文体が流行した頃に広まった表記で、Wiki によると山崎春美が「一人称の文体で最初に使用したと公言している」のだそうだ。
▶山崎春美は1970年代後半から1980年代前半にかけて『Jam』『HEAVEN』『フォトジェニカ』『宝島』『月刊OUT』『遊』『Billy』『ウイークエンドスーパー』『FOOL'S MATE』『ロック・マガジン』などの雑誌やロックバンド「ガセネタ」「TACO」で活動したライター・ミュージシャンである。◀(Wikipedia)
上に挙げられた雑誌は(『フォトジェニカ』だけは知らないけれど)みんな読んだことがある、あるいはよく読んでいた、というのはなんの自慢にもならない、むしろ恥ずかしいことに違いないのだが、要するにあの頃の雑誌文化にどっぷりで、「TACO」なんかもアルバムを予約して手に入れたものだった。
地の文に "(笑)" を使うというのは、なんだこれ、と目を疑うほど斬新で、見ただけで笑いころげるようなインパクトがあり、かつ一度目にすればすぐに使い方がわかる記号だから爆発的に流行したのだろうけれど、発祥から十年くらいは、ふざけた文章だなという印象だったと思う。
そうか、山崎春美だったのかと初めて知ったのだけれど、同時期に目にしていたのは詩人の荒川洋治の文章中の "(笑)" で、1980年頃の雑誌『現代詩手帳』に載せた文章でよく使っていた記憶がある。こちらは、現代詩の堅苦しさを挑発するレトリックとして、多分に戦略的に使われていたのだった。
本の山の奥底に埋もれて見つけられないけれど、荒川洋治のエッセイ集『詩は、自転車に乗って』(1981)あたりに用例が見られるかもしれない。
思い返してみても前後関係は曖昧で、じつは Wikipedia を見るまでは "(笑)" を初めて地の文で使ったのは荒川洋治で、それを周囲が真似たのではないかと思っていた。
はたして "(笑)" は、自販機本文化発祥のレトリックを荒川洋治が借用したものだったのか、それともそれぞれから別個に発生したものだったのか。
ご本人に確かめるしかないのだけれど、今や日本芸術院会員に自販機エロ本読んでましたかと手紙を書いたりする勇気はないよ。




