耳ぴく
耳を動かせるのは千人に一人、片耳ずつ動かせる人は一万人に一人、というネットの記事を今日初めて読んで驚いたのだけれど、これはさすがに適当な数字じゃないか。私も右耳、左耳、両耳と自由に動かせるから、といっても、動かすのを人に見せたり、動かせるかどうか人に聞いたりするわけでもないから、まあ、十人、二十人いればそんな人もいるという程度だと思っていた。
先代の中村勘三郎(今の勘九郎の祖父)だったかが、耳を動かせなきゃいい役者になれねえ、みたいなことを言っていたような覚えがあるし、練習すれば誰でも動かせるものだから、そんな馬鹿なことを練習したように思われたら恥ずかしいという気もあって他人に言うことも少なかったのだが、珍しいことなのだろうか。
なんの意味もない特技(?)なのだが、最近はよく活用している。
というのも音楽を聴くのに、エティモティック・リサーチ社のちょっと特殊な形状のカナル型イヤフォンを使っていて、これは耳の穴奥深くまで、ユーザーからは三段きのこと呼ばれているイヤーピースを挿入することを前提に作られているので、公式では耳の上端を引っ張り上げて差しこむことを推奨している。差しこむ耳と反対側の手を頭の後ろに回して耳を引っ張り上げながら……という面倒な動作が必要なのを、耳を動かして引っ張り上げられた状態にしてから挿入すれば、片手で簡単にできてしまう。ああ便利。
練習もしないのになぜかできてしまったことには、りんごの皮を剥くというのもあって、子どものころにザ・ベストテンという番組を見ていたらたのきんトリオがりんごの皮むき競争をやらされて全然できないのを笑われていたから、自分もやってみたらスルスルと長ーく一本にむけてしまったので、なぜこんなことに苦労しているのか不思議だった。
これが音楽の才能とかだと、なんの苦労もなく楽器が弾けたり、楽譜が読めたりという人は確かにいて、たとえばロストロポーヴィチは皆が苦労してチェロの練習をしているのに、自分は何もしなくても弾けてしまうことが悩みだったという。本当に天才だったロストロポーヴィチはともかく、そういう才能のある人は、自分は天才か、とときめくのだが、さらに努力して藝大に入ってみると周囲がみんなそんなふうなのでがっかりするそうなのだけど。
しかしまあ、そういう立派な能力ならともかく、耳を動かせるとかりんごの皮を上手にむけるとか、クソみたいな天性のものを与えられてもなあ。