断片
風疹の抗体検査というものを受けた。
結果は抗体値107。抗体値20以下であればワクチン接種が必要になるのだそうで、つまり抗体が充分ということらしい。ワクチンを打つ機会がなかったと思われる年代に向けて、市が検査のクーポン券を配布しているらしいが、自分の場合はなんらかの機会に打っていたのか。接種していなかったとすれば、いつの間にそんな抗体が身体のなかにできたのだろう。
結果を知らせてくれた、マスクをした先生のことを、頭髪の量からしてその病院で大先生と呼ばれているおじいさんだと思っていたのだが、後で聞くと大先生はすでに引退しているのだそうで、その先生はずっと前に同じマンションに住んでいて何度か、気まずい会話を交わしたことがある、二代目の先生なのだった。
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家内がジョン・レノンとオノ・ヨーコが出ている、最近編集されたドキュメンタリーを、めずらしく録画して観ている。べつにビートルズがどうのという感慨があるとも思えないのに、なぜそんな番組を観ているのか不思議に思えた。
そうか、どうやら、自分の身近にいた人の、むかし奥さんだった人が、その後どうなったかという興味で観ていたらしい。
見終わってから、
「あの先生があの人と結婚していたって、信じられない」
と言っていた。
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指に火傷をしてしまった。
電子レンジで人参を蒸して、ラップをめくったときに噴きだした蒸気が左手の人さし指の背にあたったので、すぐに冷やしたからその場ではなんともなかったのだけれど、丸一日経つとやや赤黒く腫れて、軽いかゆみを感じるようになった。
そんな自分の指の、火傷をした部分を見ているうちに、なんとなく過去に見た誰かの指の同じような火傷の跡を思い出したのだが、それは家業の料理店を継ぐと言っていた女の子だったかもしれないし、子供のころに見た叔母さんの手だったかもしれないし、もうこの世にいない母の手だったかもしれない。
火傷の跡が消えるまでは、誰の手だかわからない手のままでいる。




