春昼別刻
昨日のページで『爪びき』(明44)が、裏側から見た『春昼』だと書いたけれど、鏡花ではない作家も『春昼』と同じ土地を舞台にした物語を書いている。
鏡花より一世代下の作家、橘外男(1894 - 1959)で、この人も鏡花と同じ石川県の生まれで、怪談をよく書いていたようだ。
本人も鏡花を意識していたのかどうか知らないのだが、『逗子物語』という短編は『春昼』と同じ、岩殿寺が主な舞台になっている。慶應義塾大学文学部助教授のピーター・バナードさんの動画で知った(この方は『春昼』が好きすぎて来日したそうで、鏡花とラブクラフトが専門のようだ)。
青空文庫『逗子物語』
https://www.aozora.gr.jp/cards/001397/files/49869_69323.html
……読んでみると、寺の名前は変えているけれど、たしかにこれは岩殿寺だ。そして、それなりにきちんと書かれた小説なのだが……。
読んでいるあいだはそれなりに楽しかったとはいえ、あまりにも普通の怪談で、なんとももの足りない。
いや、『春昼』が別格すぎて、他の小説と比べるのが愚かなのか。
近ごろは鏡花の小説を読み慣れすぎて(あいかわらず読むのは大変だけれど)、普通の小説では満足できなくなった気がする。




