鏡花読書~月夜、祇園物語、杜若
今年も鏡花で暮れていく。
『月夜』(明44)
故郷の金沢に帰省して従姉の家に泊まっている男が、深夜の川岸を散歩しながら、子ども時代に見た同じ風景を懐かしむ。『由縁の女』のどこかに挿入されていても違和感がないような小文。
蛍のおぼろな光と、妖怪めいたフクロウの話が中心。
『祇園物語』(明44)
初出時タイトル『笹色紅』。明治四十三年二月の京都訪問に取材した『楊柳歌』の、使い残した材料で書いたような中編。
芸妓、舞妓を引きつれてお大尽遊びをする酔っ払いが、若い旅僧を呼び止めて酒宴に招く。酔っぱらいが惚れていた芸妓が、旅僧に惹かれて……という話。円熟期の充実した筆致で描かれるから、何が書いてあっても読みごたえがある。
……のだけれど、あまりにもいつものオチで、ちょっと拍子抜け。
『杜若』(明44)
おそらく各種アンソロジーにも収録されたことがない、それなりに量のある短編なのに、まったく評判を聞かない珍しい作品。しかし、なかなかの怪作だった。
鉄扇で戦う女柔道家とか、仕掛けのある昆虫採集の網が必殺武器の混血児の不良学生とか、香港の空手映画の珍品みたいなキャラが出てきては消えていく。
尾崎紅葉夫妻の幻、師に許されない芸者との恋の末に心中に向かう男、妖しいのぞきからくりの老人が導く放火事件……。
夢だった、と思ったら現実になった、いったいどこまでが? という不思議な物語。
鏡花小説をかなり読み慣れていないとついていけない内容のうえに、文章の省略が過ぎて、読むのが一苦労。
マニアック鏡花作品。




