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こりすま日記  作者: らいどん


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鏡花読書~光籃

光籃(こうらん)』(大正十三年七月)


青空文庫

https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/48404_35157.html


 ある地方を巡業中の安来節(やすぎぶし)の一座が、大入りの興業を終えた夜のこと。土地の船頭を雇って、潟で船遊びに繰り出そうとする彼らは、市内を流れる川の流れから(ざる)で何かを(すく)う動作を繰り返している少女を見た。ドジョウすくい踊りのプロである一座の者たちが、黙って見過ごすべくもない。

 座長は少女の色白に目を留めて、なんなら一座に加えるかという腹づもりで同行を誘う。すなおに着いてきた少女は、月影を掬っていたのだと、おかしなことを言う。

 船遊びの船に乗り込むにあたって、少女が船の舳先(へさき)にスッと座ったことについて、


 ▶実は、(これ)は心すべき事だった。……船につくあやかしは、魔の影も、鬼火も、燃ゆる燐も、可恐(おそろし)き星の光も、皆、ものの先端へ来て掛るのが例だと言うから。◀


 と警告する作者の語りかけで、物語は一気に怪奇の相を帯びる。

 案の定、(おか)に戻った少女は、雨に降られて一同が駆けこんだ飯屋のなかで、笊で掬った月光を撒き散らし、

「ほゝゝ、可恐(こわ)いの?」

 と笑いながら、斧の形をした(かんざし)で光を刻み、壁に十七日の月を懸けてみせると姿を消した。


 女神出現の奇跡を目のあたりにした一座の女たちは、少女の真似をして、斧の形の簪を髪に挿すのだが、夜になると七転八倒の痛みに襲われる。ただ一人、何も芸のない無能な年若の娘だけには何事も起こらず、簪が放つ光にきらきらと飾られた。



 ちょっと恐い、けれども破格に美しいイメージを伴った、不思議な民話のような短い物語。

『泉鏡花事典』では謎めいた結末を「民話の末子幸運譚を思わせる」と解説している。


 無垢なものが禍を退ける先例は鏡花小説において、たとえば『高野聖』の次郎は、白痴であるがゆえに魔の女の術を免れ、亭主としてかしずかれている。作者の真意を読みとりがたいこの小品の結末は、当時大流行したらしい安来節に辟易した鏡花が、その俗っぽさに聖なる無垢を対比させてはどうかと、ふと思いついて書かれたのかもしれない。

 あるいは最後に特権を得た無能な娘は、寒山には拾得、蝦蟇(がま)仙人には鉄拐(てっかい)仙人と、賤が貴に転じる神仙キャラクターたちがペアで語られがちなことに習って、月を掬う女神から相方候補として選ばれたのではないか、ちょうど『きぬぎぬ川』のような女神選抜の物語につながりそうにも思えるのだし……などと、想像がふくらむ。


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