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リリィ 思いつくままに書きとめたささやかな覚書と一切の崩壊。無力な愛、ひとつの不幸、ただ愛を愛とだけ欲したある価値の概念  作者: 夜行(やこう)


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66 前夜と、

まぁ、なんて美味しそうなご飯!見た目は上品とは言い難いですが、まろやかで香ばしくって、このしなびた感じが衰退期の食事のようでとてもそそられます。

名前はなんというのですか? イワシのスボシ? スボシとは素に干すと書いて? 簡潔でより好ましいですね。


なんと龍下の祝膳に供されたこともあると? 卑しい物を口になさるのを止めた司祭を諭したという逸話がある? それはそれは納得の、いいえ食べます、食べますとも! あぁ、お下げにならないで、御主人お許しください。思ったことが隠せない性質ということはご存知でしょう? あぁ、めそめそ……そうなのです、苦労が多いのです…めそめそ、え、なんですかランディくんどうして濡れてない顔を拭いてるのかって? それは、ふふ。御主人、煙草とかって、お持ちでは。


今日の食事は今度の教会主義同盟の大会にもお出しする? 確かに豊かな海により発展した都市ですから、美魚尽くしの御膳となるのは納得ですね。


はい、ホープくん。挙手ありがとう。発言をどうぞ。………きょーかーしゅぎ? 発音は正しく。お口のものは飲み込んでから。机に肘もつかない。食べ物を口にする時は背筋を伸ばしていただくのですよ。喉につかえたら、それは神様の与えた罰ではなく、己の怠惰ですからね。はい、ティティさん。素晴らしい姿勢ですね。ホープくん、貴方も…あぁ、できると思っていましたよ。このイワシのスボシ差し上げます。たんとお食べなさい。


大会について知りたい? ソーダくんはいつも質問をしてくださいますね。勤勉で私はとても嬉しいです。御主人! ご子息の未来は明るいですねえ! お耳に届いておりますか? そこの食前酒試飲させていただいても? そう、その樽です!


はい、では教会主義同盟についてお話ししましょう。

十二節に一度、芽吹の節に開催される特別議場のことで……難しい? ソーダくん? 早くありませんか? いつも難しい? ソーダくん!? ちょっとそのカニを置きなさい。ほら、そんな風に美しく食されないカニさんのお気持ち考えたことありますか。ないでしょう、あるわけないでしょう。罪を積んでしまいましたのでお祈りを捧げましょう。ほらカニを。置くのです。そう、足を揃えて。はい、お祈りの言葉をホープくんどうぞ。


(奇怪な発音の、所々言葉の足りない祈りの言葉)


気持ちがこもっていて神様も喜んでくださるでしょう。でもちょっと明日お話しましょうね。それで、ソーダくん先程の質問はまだ心にございますか? …ある、素晴らしい。貴方に神様のご加護があるよう祈ります、念入りに。御主人! ご子息が! あっ、いただきます。ありがとうございます。うふ。お酒あったまりますねぇ。


さて、まずは皆が知っているお話からしましょう。この国の一番偉い方は神様です。龍の神様ですね。私たちの敬愛する神様はずっとずっと昔、貴方たちも私も生まれるもっと前ににんげんに食べられて、この星の中に御隠れになりました。


そのあと神様を癒すために祈りを捧げた方がいらっしゃいました。最初の尊いお方、それが龍下さまです。龍下さまの元に集っていた人々が集落を成し、村を成し、国を成しました。それが私たちの国、アクエレイルの始まりですね。


国がどんどん大きくなると、龍下さまの目が届かない場所を見守ってくれる人を探しました。それが四人の大主教さまです。アクエレイルは四つの地域に分けられました。

そして龍下や大主教さまの元には、同じように国を愛し、神を愛する者が集いました。そう、教会の司祭さまですね。私みたいな旅の神父もそうです。


では、私からも質問です。皆さんが司祭さまから神さまのお話を授かる時、どこの教会でも同じお話をきくことができるでしょうか。

四人の大主教さまが「神様」と口にした時、思い描いている御姿は同じなのでしょうか。


同じですか? でも誰も神様を見たことがありません。誰も見た事も会ったこともないのに、どうしてでしょう。


――――――その通り、すべての答えは聖典にあります。


聖典は、龍下さまがお持ちの、この世に一冊しかない特別な本です。

その本には神様のお話、神様の御姿、神様が残された大地のこと、空とその向こうの星空のこと、海の奥底、たくさんのお話が記されています。

龍下はそのお話をみんなの前で詠いました。そうして得たお話の数々を、みなさんに届ける役目が私たち教会人にはあるわけです。


教会主義同盟の大会では、龍下さまを始め教会人が一堂に会して、聖典のお話をします。

そしてもうひとつ。この地にはたくさんの種族、たくさんの人が住んでいます。昔よりたくさんの人が住んでいるので、みんなの為に考えた規律が正しいものか、また未来の為に新しい規律は必要ないか、聖典に記載してある規律は古くなっていないか、みんなで考えなくてはなりません。


たくさんの人が知恵を合わせて、多くの人たちが幸せに生きていけるように考える。そういう場所が「教会主義同盟」なのです。


はい、ソーダくん、発言をどうぞ。

たった一冊しかない本をみんなで覗くのかって? ふふ、龍下さまのお持ちの聖典は一冊しかありませんので、かつてはそうしていたでしょう。もっと人も少なく、限られた人しか参加することができませんでしたから。


けれど今は、私たちが編集できるように聖典を写した写本があるのです。聖典のすべてを写したものではありませんが、神様についてや綱領など……必要な事が記載されています。


教会にいくと司祭さまが持っている小さな本があるでしょう? そう、それが「聖典の写し」私たち教会人のあいだで「エゲリア写本」と呼ぶものです。

これはかつて最初に写本をした女性の名を………え、カニを食べながら聞いてもいいかと? はっ、話が長い? うぅ! 御主人! お聞きになりましたか!? ご子息が私のお話が長いとおっしゃる! 貴方もそう思ってる!? えぇ!?


「神父様もお話し合いに参加されるのですか?」

「えぇ、そうですよ。龍下さまにお目に掛かれる機会はそうないですからね。それに私のような地区教会に属していない巡礼神父にとっては公然と家に帰れる唯一の節ですから、里帰りも兼ねる者も多いのです」

「おうちに帰るのですね」

「残念ながら、私に帰るおうちはありませんがね」

「あー! やっぱり! だから色んな人のうちに泊まってるんだ! そういうのコジって言うんだよ。俺といっしょ」



     ―――――とある巡礼神父の一宿一飯の和やかな会話から抜粋






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