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後編

 グノーのおっちゃんの紹介で、曰く『会ってもらいたい子』とやらとの対面にて、一言。


「あ、『鞭』じゃん」

「――っ、これが何かお分かりになるのですね…!」


 ぱああっと喜色満面に立ち上がったのは、いわゆるお姫様風な美少女。成長すれば女王様風か。


 ーーもうちょっと別のチョイスなかったんスかね、女神様や。


 思わずオレが思うのは、何でかってこと、現代っ子はきっと分かってくれるよね。




     ◆




 改めてご挨拶して頂きました。


「お初にお目にかかります。ヴィングルム領領主の娘、『フェルトルト・アル・ヴィングルム』でございます」

「こちらこそ、お初にお目にかかります。商業ギルド『バルドルド』グランブルク城下支店所属、『カイン・バルドルド』です」

「ーーいや、驚けよ」

「驚いとるわッ」


 ツッコミなんざ入れられたら返すしかないだろう。グノーおじさんはオレに何を求めているんだ。


「…いや、というかオレの耳にも、どっかの領主の娘さんがハズレ武器だったって話は入って来てるし…」

「まぁ、だろうとは思ってたけどな」

「――ぶっちゃけると、おっちゃんらにバラした理由の1つも、商人なら他のハズレ武器所持者情報を見つけたり、あるいはオレの話を密かに他のトコにもバラまかれたりしてそれに惹かれた人集めてくれるんじゃないかなー、っての込みだから」


 ハズレだ不遇だクソ食らえがオレの人生モットーなんでね。いつものようにやり取りしていると、領主の娘さんーフェルトルト嬢も緊張が解れたか、くすくすと笑ってる。


「この通り、丁重しゃべりはできなくもないですけど、根が庶民なモンでご容赦あれ」

「ええ、構いません。私は、領主の娘としてカインさんにお会いに来たのではなく、「ハズレ」「不遇」とされる神器持ちとして、希望を賭けてこちらに伺ったのですから」


 おお、ユーモアのある娘さんじゃないですか。


 とはいえ、そうなるのも無理からぬ所、だろうな。

 フェルトルトお嬢様は、聡明で何より容姿端麗、幼くして引くて数多の少女だった。それが、6歳の時の神器がハズレなモノであったばかりに、婚約者を探すにも断られ、母は泣かれ庇われつつも心労から寝たきりになり、父はガン無視。領主宅では肩身が狭くなり息をひそめるように生きて来たとか。クソだな。

 元々、第二夫人の子だとかで不遇な立場にはあったそうだ。なので、領主の血筋からは半ば除外され、いずれはどこぞの、それでも良いと思うようなーのは、好色な愚弄しかいないー所に嫁ぐのが関の山扱い、だそうだ。


 などなどを、オブラートに包みまくった説明をされるが、ひっぺがしたそれをざくっと言い切った末の、結論。


「よし、見限れ。家族だろうが血のつながりがあろうが、貶めて平然としている連中はタダのクソだ」

「…お前、ホントこれに関しちゃ情とか無いよな」

「『無償の愛』は美談でも『有償の愛』だと分かったモンはただの悲劇だって実体験者なので。グノーのおっちゃんが味方してくれんのも利益ありきだろ? いつでも見限られる準備は万全だぜ」

「他人を悪徳商人扱いするのはやめろっつってるだろうが、クソ坊主」


 知っている。知っているので見限ってないじゃないか。でもちゃんと利益は出すけどな。


「じゃあ、オレ何すれば良いのさ?」

「えぇと…、その、カインさんであれば、私の神器についてご存じではないかと思いまして――」

「ーー名前は『鞭』。ひし形の方が先端で、ちょっと太めの方が持ち手。んで、こう振り下ろすように振ると、しなって遠くの対象に打撃を与える武器ってのは、何となくな」


 身振り手振りで説明する。つっても、その位しか言えない。


 鞭ってなぁ、エロ系の御仕置道具ってイメージだし。ああでも、武器ってことなら、どっかのチート級軍人さんが使ってたっけか。いや、あれ魔法の武器ちっくだったような…。こう、振り下ろすと、クソ固いモンでも壊すし、何か、対象をオートで追尾してバチンバチン叩くとか、そういう…。あやふや過ぎるなぁ。


 とりあえず、実際に使ってみるのが一番だろうとのことで、商業ギルド裏手にある庭へ。


「ええと、振り下ろせば良いのでしょうか…?」

「最初っから大振りだと、どこにどうなるか分からないし…、とりあえず、しゃがんでくれます?」


 こうでしょうか、とスカートっぽいドレスを抑えつつしゃがむ様は、しゃがんでいるのに優雅だ。貴族ってすごいな。というか、不遇ながらもそういうのちゃんと身に付けてるって、凄い。


「扱いに慣れる方が先かな、と。…あー…、こう、地面につけた上で、左右に振れます?」

「こう、ですか?」

「あ、もうちょい早めに、細かめに」


 はい、と素直なお姫様なので、即できました。縄跳び遊びの横にょろにょろ。蛇っぽくなるやつ。ってかあれ名前知らん。


「…クルネールみたいですね」

「ですね。じゃ、今度は横じゃなく、縦に」

「はい! ――何だか、ちょっと面白いです」


 まぁ、現代日本的には縄跳び遊びだし。

 そしてそれを、今度は大きく、ゆっくりで。そこから、中腰、そして立ってやってもらう。


「…音が、大きく…」

「手から、山なりの動きをしてしなった力は先へ行く程大きくなって、非力な力でも強力にして、時に岩さえ砕きます」

「やって、みます」


 いきなり? と思ったが、お嬢様は庭の片隅にある岩を狙いに定めている。


「私は、この鞭で、あの岩を砕ける」


 さながら呪文のように。自らに言い聞かせる様には、信用があって。

 そして――ヒュ、としなった鞭は確信の通り、その先端を岩に押し当て、そしてそれを粉々にしたのだ。


「お見事。……つか、凄いですね。一発成功とか」

「カイン様のご指導のおかげです。動くイメージが、コツが、つかめたと言いますか…。これがどういうものか、分かった気がするのです」


 見ててくださいませ、と頬を紅潮させた後のお嬢様ったら、凄かった。

 鞭を自在に操り、そして絶対に自分にも他の面々にも当てない。こんなこともできるんですよ、と知識を披露すれば、遠くに置いた瓶を鞭で絡めとり取るなんて技まで披露してのけた。


「…世間的なハズレ神器って、実は女神様的にアタリなんしょうか…?」

「……私も、今はそう思います。これだけの使い勝手の良さといい、他の神器に比べての利便性といい…」


 ですが、とフェルノルト様―フィー様で良いそうだーは、オレに言ってくれた。


「カイン様のように、それが何かを理解し、どういう使い方ができるものかご指導して下さらなければ、不遇に終わってしまうのでしょう。私は幸運でした。――カイン様のおられる時代にあって、そして、カイン様が不遇にあっても折れずにいて下さったおかげで、巡り合えましたもの。本当に、感謝致します」

「お役に立てて何よりです。――で、どうします? 見返します? それだけのモノがあれば、バカにしてた連中、見返すのなんざ訳ないでしょ」


 どうするかは、お任せだ。

 まぁ、領主の娘がこんなチート武器と能力持ってて使えるかどうかは知らんけど、少なくとも、不遇でないことを証明はできる。スカっとするのもありだろう。


「身に余る力とも思いますし、色々と考えてみます。後日改めてご挨拶に伺いますね、カイン様」

「え、カイン呼びでお願いします」

「では、カイン。――また、ね」


 ふふ、と笑うフィー様は憑き物落ちた感じで、さすが美少女らしく、綺麗に笑う。

 どうすんのかなー、父親とかぎゃふんさせて母親安心させて、んで、ゆくゆくは王様に見初められたりすんのかな。


 ーーって、思ってた時期がオレにもありました。


「お久しぶりです、カイン」

「……あー、えー、御貴族様でもモンスター狩りを嗜まれるので御座いましょうか…?」

「違います! ――私、領主の娘枠から除外されました。放逐です。酷い人だと思いませんか? それでグノーさんにご相談したら、こちらの教会が立て直し予定で、1人働き手の女性と娘が住まうにはちょうど良いし、腕のたつ専属狩猟官と組んではどうかと言われまして」

「………教会に引っ越して来るハズレの娘と親って、やっぱフィー様でしたかー…。んん、まぁ、ユメルばあちゃんも年だし、面倒見てくれる人いたらとは思ってたけど…、貴族様ができんの? 生活様変わるよ?」


 そんな俺の心配に、にこやかな笑顔でお答え下さったのはお母さまだった。


「ご心配なく、カインさん。私これでも元魔術師で神殿付きの見習い神女だったのです。それをあのクソが見初めやがって、しかも娘を孕まされたので家に入りましたけど、肩身は狭いし、可愛い娘の女神の神器を疑われまくるわ貶めるわで、腹が立ってたものですから。市井育ちでも構いませんし、元々むしろこちら産まれですからね。教会の後継にも相応しいと思いませんか?」

「――お母様、カッコ良過ぎません!?」

「ふふ、ありがとう」


 惚れそうになるわ。結構しんどい身の上だったろうに、娘の為にって頑張ってたのか。いや、それならイケるだろ。


「あー…。なら、立て直し計画に手加えるか…。――グノーのおっちゃん。あの辺りの敷地って、商業ギルド管轄だよな?」

「ああ、そうだが……買うのか?」

「情報バラまく範囲広げれば、ハズレだ不遇だっての他にもいるだろうし…。そういう連中引き取ったりっての考えると、教会とは別に住居スペース確保は必須かな、って。イメージは簡易宿屋で、一部屋に2人だな。教会に食堂とか広間併設しといて、そこでメシ食ったりする感じで。とりあえず、試しに宿屋1つ作って、そこにお2人を最初の住民としてみるってので」

「…まぁ、アイデアとしては良いが、それをやるとなると…、1億はかかるぞ?」

「でしたら、私も寄付しますわ。慰謝料代わりに頂いたものもありますし、いくらかは出せますもの」

「ありがとうございます。ですが、将来の為にとっておいて下さい。オレも今後、どこまでどうできるか、分かりませんし。ーーつー訳で、とりあえず半分の5000万な。見積りきっちり出してくれたら、ちゃんと払うわ」


 ブーメランに収納しといた金貨袋をおっちゃんに渡す。


「…いつの間にこんな稼いでやがった…」

「グノーのおっちゃんが、都のオークションに連れてってくれたじゃねぇか。あん時紹介されたウェルガさんに、出品お願いした奴の報酬。オークションだから跳ね上がりまくって、締めて50億なり」

「…そのような…、カイン様、何を出品されたのですか?」

「『グランディアルヴァール』の『虹色幻玉』」

「そ…! それ、国でもトップクラスの逸材たちがパーティで討伐するモンスターですよね!? しかも…、虹色幻玉は、中でも希少な…ッ」

「いやぁ、どこまで無双できるモンかと思って。ちなみに討伐してないぞ? 群れがいたからブーメランぶん投げてみたら、何かソイツらがくれた。これやるから見逃せってことかと思って、了承してもらった。ちなみに、ソイツらに好敵手認定されたらしくて、たまに呼び出しくらって行って、模擬戦やってる。御礼にって羽くれるからそれも入ってるけど、これはこれで1枚1億するんだっけか? さすがに相場とか色々壊しそうで自重してる」

「……すでに色々壊してるから自重…、その前に無茶をするなと何回言えば分かるんんだこのクソ坊主!!!」

「虹色幻玉から作れる治療薬が、とあるやんごとなき方の治療に必要っての教えてもらったし、それで恩売っとけばハズレ神器への意識改革加えて王国が持ってるハズレ神器者情報もらえるかなと思って! あと、王国の後ろ盾もらっといた方が、これからそういう人たち集めるのに、ここの領主の変な横やりとか入らないかと思って!!!」

「………カイン。お前、マジメに色々考えてちゃんと自重してやってんだから、フツーにマジメにちゃんと説明しろ」

「はーい」


 いつものやり取り終了。


「カインくん。ちょっと、お願いがあるんだけど?」

「何でしょう? ーーちなみに、フィーを嫁にもらって欲しいとかは本人次第なんで勧められても困ります。フィーが良いなら別ですけど、救世主扱いで心酔されるような恋心だと長続きしなさそうなので、ひとまずこれから色々やらかそうとしてるオレの様子とか諸々踏まえて見定めて、その上で心変わりなければってことでどうぞ」

「か、カイン!!?」

「ちなみに、オレ的にはフィー様は今の所好みドストライクですね。あとは一緒に暮らして、それ次第で結婚ですかね」


 うん、これはマジで。

 いやぁ、だって滅茶苦茶可愛いし。あと、潔い感じが最高。

 …まんざらでもなさそうって反応見ると尚更だね。


「ではそれで行きましょう。ふふ、良かったわね、フィー」

「……お前さん、ブーメランなんざなくても、そんだけ色々やれるなら十分過ぎるだろ」

「世の中そんな甘っちょろくないっしょ? ――ま、オレはオレのやりたいようにやるさ」


 その結果がどうなるかなんて、それこそ、カミサマのみぞ知る、だし。

 ホント、女神様にも、それを信じてる連中にも、いつか大声で言ってやりたいね!


「どこかハズレだってーの。これ、めっちゃ最高じゃん!」


= 完 =

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