三話 前世
スマホのアラーム音で目が覚める。
今の時間は七時半、きょうはきちんと起きられて良かった。
適当に料理を作り食べ、その後服装を寝巻から普段着に着替え暇を潰していた時にインターホンがなる。
恐らくアリーチェさんだろう。
玄関に行きドアを開ける。
「よっ、遊びに来たぜ!」
「帰れ」
ドアを閉めゲームをするためにリビングに戻る。
インターホンの音が何度も何度も鳴り響く、インターホンを連打しているのだろう、しかも相当速く、インターホンを壊されては困るので玄関に戻りドアを開ける。
「見たか俺のどこぞの名人並みの連打力」
「壊れてたら弁償な」
「大丈夫壊れていないから」
「今日は用事ある、帰れ」
「友達一人の君にどんな用事があるんだ?」
「最近好きな人が出来た」
「なら仕方ねえが、何処で出会った、お前みたいなやつが、異性と何処でどう知り合ったんだ?」
「浜辺で話しかけられた」
「取り敢えず死ねと言っておく、なんで話しかけられたんだ?」
死ねとは本気で思ってる訳では無いのだろう、ただリア充にはそう言っておかないと気が済まないだけだろう、こんなことをいうが根は良いやつだと思う、誠にはよく分からない問題とかを聞いてる、その時は快く教えてくれたりした。
「夜遅いから迷子にでもなったのかと心配されて」
「その後は?」
「勉強教えて貰ったり遊んだ」
「おけ、その人と約束があると、取り敢えず四回ぐらい死ね、なら邪魔しちゃ悪いな今日は帰るな、また適当に来る」
「スマホがあるだろ、連絡してから来い」
「嫌だね、暇なときに適当に来る、じゃあなまた今度」
誠が帰っていった。
リビングに戻りゲームを再開する。
考え事をしながらゲームをしていると三十分程度経った頃にインターホンが鳴る音が聞こえたので玄関に行きドアを開ける。
「おはよう」
アリーチェさんがドアの前に立っていた。
「おはよう、用意を部屋から持ってくるからリビングで待ってて」
「分かった、お邪魔します」
自室に行き勉強道具と財布、ネックレスが入った鞄を持ってからリビングに行く。
「持ってきたよ」
アリーチェさんが立ち上がり言う。
「私の家に行こうか」
いつ渡すかだな家に着い時か帰る直前だよな、どうするべきか、夜の方が雰囲気は出るだろう、でも速めに言って緊張を解きたい、それに変なところでボロが出ても嫌だな、何より時間を置きすぎるときっと緊張に怖気づいて渡せなくなってしまう、ならば着いたときにしよう。
アリーチェさんの家に着いた、家は山をちょっと登った所に一軒だけぽつんとあった、道中に何を話していたか覚えていない程に僕は緊張していた。
言ってしまうと関係が終わってっしまうかもしれない、そう考えると言わないほうが良いのかもしれないと考えてしまうたかが二日過ごしただけかもしれない、でもこの気持ちは本物だ、だからここで逃げたらずっと後悔して生きていくのだろう覚悟を決めろ、そう自分に言い聞かせる。
「アリーチェさん」
「どうした?」
もう引き返す事は出来ない、息を整え言う。
「好きです付き合ってください」
帰ってきたのは数秒の沈黙。
「悪戯では無く本心だよな」
「うん」
「分かった、取り敢えず家に上がって」
言われた通り家に入る。
緊張しすぎたからかネックレスを渡し忘れていた。
「ここで待っててくれ、色々考える」
考えるか失敗かな、まだ本人からきちんと結果を聞いてない以上希望を捨てるのには速いかな、あとネックレスどうしようか。
色々考えて時間を潰しているとアリーチェさんが来た。
「こっちに来てくれ庭に行くよ」
アリーチェさんに着いて行く。
「まずは感謝をしよう、こんな私を好いてくれて、短かったが一緒にいてくれて、ありがとう、でも付き合うのは無理だ、でも伝えなければならない事がある、今から言う事は信じがたい事だろう、でも私を好きになってその意思を伝えてくれた優輝には伝えなくてはならないと思う、じゃないと優輝も私が振ったのを納得できないだろう」
無理だったか、理由はこれから教えてくれるらしい、それを受け入れられるかは別として聞くべきだろう。
「まずは質問をさせてもらう、私は何歳だと思う?」
「二十代前半位?」
「違う、次の質問、私は人間か?」
「当たり前じゃ、なんの質問なの」
「ちがう、私は人間じゃない」
そう言うと同時にアリーチェさんの背中から何かが生えてくるのが見える。
蝙蝠の様な翼を生やしたアリーチェさんの姿は、僕の目にはなぜか神秘的に映った。
「私は吸血鬼だ、人間じゃない」
吸血鬼、確か外国の妖怪で人の血を吸うという、驚きはしたがそれ以上何もない。
「何で逃げない、何で怯えない、何で恐怖しない、目の前にいるのは、化け物なのに」
自分を自ら化け物と形容しているアリーチェさんは少し前まで見ていたアリーチェさんよりも脆く弱くか細く脆弱に見えた。
「違う、今僕の前にいるのはアリーチェさんだ、化け物なんかじゃない」
思ったことをそのまま言う。
「人なんて簡単に殺せる様な化け物だぞ」
「人だって簡単に人を殺す、吸血鬼だから付き合えないと言うなら僕は納得しない」
そうだ僕は納得しない、吸血鬼だからなんてちっぽけな理由で振られるなんて、付き合う気が無いと言われた方がマシだ。
「なら、優輝は私が人間だと認めてくれるのか?」
当たり前だ人よりも少しばかり力が強くて、人よりも少しばかり長生きしていて、羽が生えているだけだ、人間だ、ただの人間。
「うん」
「吸血鬼の私でも好きでいてくれるのか?」
吸血鬼だろうとゾンビだろうと幽霊だろうと、僕の気持ちは変わらない。
「うん」
「何で」
「好きになったか」
そうだ好きに理由なんていらないだろう、強いてあげるならば好きだから好きそれだけ、たったの一つもルールなんて無い。
気付けばアリーチェさんは涙を流していた。
さっき渡し忘れたネックレスは今渡すべきだろう。
鞄からネックレスを取り出しアリーチェさんに一言を添えて渡す。
「付き合ってください」
「ありがとう」
泣いているアリーチェさんに何をしてあげられるか、今すべき事はアリーチェさんを安心させるべきだろう、そのために今出来る事と言えば、たとえば抱きしめるとかだろうか、恥ずかしいがそれ以外にやってあげられる事も無いだろう。
アリーチェさんを抱きしめると、アリーチェさんが心の中の何かが決壊したように、今まで我慢していた物を一気に解き放つ様に声にならない様な声を上げながら泣いていた。
何分経ったか分からないがアリーチェさんは泣き疲れた子供の様に寝てしまった、どうしようか外で寝かせ続ける訳にはいかない家の中に運ぶべきだろう。
家の中に運び寝室を探しに行く。
部屋の数は六部屋と多いが使われていないのが殆どだが綺麗に掃除はされていた。
見つけた寝室のベットにアリーチェさんを寝かせる、涼しい方が良いだろうから窓を開け換気しておこう。
起きるまで勉強でもしておこう。
どれくらい時間が経ったか分からない時にベットから物音が聞こえた。
アリーチェさんが起きたのだろう、立ち上がりアリーチェさんの様子を見る。
「寝てしまったか、ベットまで運んでくれてありがとう」
「優輝には話しておかなくてはならない事はまだまだあるから、聞いてくれ、まずこの家は誰も住んでいない家を勝手に使っている、国籍がない以上契約は疎か働く事すら叶わない、次は食料についてだ、基本病院に話をして廃棄する輸血パックを貰っている」
純粋な疑問、未知にたいしての興味、ただのその疑問が出てきた。
「生きている人の血の方が美味しかったりするの?」
「うん、生きた人の方が美味しいけど、血と同時にもう一つ吸うことになるんだ、魂とでも言うのかな、魂は人格と記憶が入ってるであろう物だ、まあ私が色々調べた物を勝手に魂と言ってるだけだ、その魂が血液の中に入っているからかそれとも血液と共に魂も吸っているのか、血を吸ったやつの記憶まで私の中に入ってくるんだよ、しかも私が魂と言った理由は前世の記憶も入ってくるんだ、もしそれが戦争を経験した記憶だとしたら、そう考えると」
戦争か塹壕戦とか惨かったと言う、それすらもアリーチェさんは見てきたのかな。
「僕の飲んでみる?」
「良いのか?」
「前世とか気になるし」
まあ前世なんて興味ないが、好きな人には出来る限り美味しい物を食べてほしいし飲んでほしい。
「じゃあ、頂きます」
アリーチェさんに抱きしめられ、首に採血の様な痛みを感じ、十秒秒程度経ったらアリーチェさんの口が僕の首から離れる。
「ありがとう」
吐き気がしてきた貧血だろうか。
「どうだった?」
そう問うた、多分感想を言ってくれているのだろう、だがその言葉は僕には届か無かった。
優輝が倒れた。
何か持病を持っていたのだろうか、ただの疲労だろうか、色々な可能性が頭の中をかき回す、そんな中一つの結論にたどり着いた私が吸いすぎて貧血になったのだろう取り敢えずベットに寝かせよう。
救急箱から絆創膏と消毒液を出し吸血の痕を消毒した後絆創膏を貼る。
さっき見えたのは本当なのだろうかそれならどんな確率だ一垓分の一とかそのレベルじゃないだろうもっと天文学的な数字になりそうだ。
最愛だった人、私を置いて先に逝ったあいつの生まれ変わり、私が好きになったのは優輝なのだろうか優輝の前世のあいつをまだ好きなだけじゃないのか、無意識に何かを感じ取って私が愛したあいつを感じ取って、そいつを未だに好きでいるだけじゃないのか、もしそうなら私は優輝を見ていないことになる、それは優輝も私も幸せにはなれない、ただの偽物。
いやこんな自問答は無意味だ私が優輝を好きと思った時は生まれ変わり何て事は知らなかっただから優輝が好きってことで良いはずだ。
謎の懐かしさの正体はこれだろうな。
好きな人が近くにいる方が安心したりするのだろうか。
優輝を抱き枕にして寝てやろう、起きたらどういう反応をするかという好奇心もあるが。
久しぶりに人の温もりを感じる事が出来たその幸福感からか直ぐに寝てしまった。
前世の話を掘り下げる為にこの修正版を書いたまである、期待しておいてください