思い出話
うちの大学のカフェテリアに限っては頭の悪いことに5時に閉まることになっているのだが、2人して5限の後にここに来て雑談なんかに勤しんでいた。
まだ入学して半月も経っていないが、今俺の隣りにいるFとはもう幾分の時間を過ごしたのだろうか。こいつは背はそんなに高くないが体つきがよく血色の良い顔付き、少し茶色に染めた髪に、いつ見てもジャージなところを見るとまさに大学生というような印象を受ける。しかし、顔にはどこかあどけなさが残るところはまだ中学生のようにも見える。そんなFは俺と違って、都会育ちなためか、やることがまた一段と冴えている。
ある時は、巷で話題の文章生成AIのパチモンをばら撒き学校中にサボり魔の断末魔を響かせ、5月のS大との定期戦では裏で用意されてた祝勝会用の花火を3倍に増やし会場を混乱させた。その壮大でどこかしょうもないそのイタズラの数々は俺がまさに求めていた青春そのものだった。
まぁそんなことは置いといて、3倍の花火の火力のせいで盆栽が燃えたなどと苦情が来たので謝罪をしに行く日取りを決めなければならない。俺も浮かれすぎて建築科学の教科書をバックごと花火の餌食にされたというのに、高々盆栽のひとつやふたつ惜しむなど隠居は暇を持て余してるようで結構。
「お前、水曜の3限は?」
手の上で3色ボールペンを回しながら聞かれる。
「ドイツ語だな。」
「なるほど。」
仕方ないという顔をしてもう一回し
「んじゃ、5限は?」
「空いてる。」
俺も一緒してペンを回そうとするが、あいにく筆箱は先の花火で灰になったのを思い出した。
「お前も回すか?」
「いや、やめとく。」
おもむろに伸ばしていた腕を引っ込める。
「今度は何する?」
流石としか言いようがない。俺にとってはこの4ヶ月弱の出来事だけでも十分刺激的だったと言うのに、Fはまだ満足していないというのだ。
「狙い目は夏祭りだろ。」
「だよな。他にもめぼしいイベントはあっけど、1番準備に時間かけたいしな。」
「今までは何してきたんだよ?」
不意にFの手が止まった。
「実はなぁ。あんまり言いたくないんだけど、いや、言うか。そうしよう。」
なんだかFらしくない素振りをするので興味が湧いた。。
「いいぜ。なんでも聞いてやんよ。」
そう言うとFはようやくペンを置いて、窓を見つめた。
「実はよ…
俺という人間はどうも生まれた時から変わり者として思われているようで、周りはどこか俺に期待を寄せていた気がする。こいつなら何かやってくれる。いや、別にいきがってるとかなんて思われたくないせいか、当時は矛盾するような言動が多かったから余計変なやつだと思われただろうな。そう、なんだかんだ言って俺は普通の人間なんだよ。
中学ん時は引きこもりがちで、今はこう痩せてはいるが、これでも当時は80kgはあったんだぜ。で、その引きこもった原因が、夏なんだ。
中2の時期なんてのは第二次性徴なんて言うように、俺も恋をしてたんだ。小学校からの幼なじみにな。そいつは誰にでも気さくなやつで絵に書いたような人気者だったんだ。だから進級していくうちに俺なんかが一緒にいていいのかって。本当はもっと相応しい奴がいるんじゃないかって。そしたら俺の事情をこっそり聞いた奴が幼なじみに俺の気持ちを言ってたんだ。その話題をきっかけに仲良くなろうって腹さ。そんでもってそいつは俺に罠を仕掛けたんだ。
俺はまんまと引っかかった。そうさ。夏祭りで。俺はあの日、あの場所で…。
それで俺の純情は粉々になった。
その日から俺は自分が許せなくなって気がついたらベットから起き上がれなかった。だいたいあの日どうやって帰ったのか、俺の防衛機制が働いて思い出そうともしなかった。うちは片親だから母親は大層心配してたみたいだが、ありがたいことにそっとしてくれた。そのうち、あいつまで心配して家まで来てくれたんだが、追い返した。誰も顔なんか見たくもないさ。
そっから学校に行かなくなって3ヶ月だよ。俺はすっかりテレビゲームとパソコンにベッタリ。すっかりダメな引きこもりになったのさ。飯は毎回ドアの前に置いてもらって食べたら無言で返すだけ。あとはヘッドホンをつけてまた自分の世界に戻ってく。
それでも終始何も言わなかった母親に俺はつい浮かれちまっていた。
ある日俺はハマってたゲームの72時間限定のイベントがあって俺は一睡もせずに画面にかじりついた。
部屋の前の飯なんて一切気にせず。それでも母親は何も言わないいんだろうなとその優しさを無下にして俺は3日をすごした。
最終日に全部終わってようやく現実に戻ってきた俺は倒れそうになりながらドアを開けた。
飯はなかった。
そこで気づくべきだったんだ。一人暮らしでもない家がずっと静かなんて当たり前なわけないんだ。だが、異常なほどの空腹に、俺は腹が立ってデリバリーサービスを山ほど頼むと、一体親は何をしてんだと茶の間に向かった。
すると、ふらついてまともに歩けず、ついに階段を踏み外した。あんなに視界が回って全身に痛みが走ったのは初めての事だ。
けど、家は静かなままで俺以外誰もいないんじゃないかと思った。それから少したって痛みが引いてきたタイミングで配達が届いたから、受け取ってそいつを返した後、届いたジャンクフードから何からをその場で食い散らかした。皿も使わず全て手づかみ。顔から手まで油とソースまみれで床だって食後の食器よりも汚た。3分の1ぐらい食べたところで食べ飽きて炭酸を流し込むと、床の汚れで2、3度滑りながらもう一度茶の間に向かおうとしたんだが、そこでもっかい呼び鈴が鳴った。
ストレスと運動不足のせいでニキビのクレーターみたいな顔でドアを開けた。さっきの配達員だって俺がドアを開けた時は驚きを隠せていなかったさ。むしろおぞましさに怯えていたんだろうよ。
ドアの先にいたのはあいつだった。
「F…その顔一体…。」
そう言った。
なんでもねぇんだと言い放ってドアを閉めようしたが腕を掴まれた。
「そんな状態でほっとけない。」
そして俺を引っ張っると顔に触れてきて、
「酷い顔…。それに家の中だって…」
気が付くと俺はあいつの頬をぶってた。
触んじゃねぇ。だいたい気持ち悪いんだよ。俺は男を愛でるような趣味はねぇんだから、さっさと他のやつのとこに行けよ。俺はお前が周りにいるせいで、他の誰も近づいて来ない。あの夏から俺の人生は何もかもだいなしだ。
ために貯めてた本音を言ってしまった。本音という物は言ってはいけないものがほとんどだ。
あいつは倒れて何も言わない。気が済んだと切り替えした時に気付いた。もう一度見るとあいつは俺がぶった時にどこかにぶつけたみたいで、頭から血が出てた。ショックで何も言えないのではなく、怪我をして意識が朦朧としてたんだ。
ハッと目が覚めたように慌てて家に入り茶の間の電話で救急車を呼ぼうとした。
勢いよくドアを開けようとしたが何かが邪魔して満足に開かなかい。
その瞬間に嫌な予感がして、恐る恐る僅かな隙間から顔を覗かせると、とたんに血の気が引いた。
ドアを塞いでいたのは母親だった。いつも物静かな人だからいてもいなくても変わらんと勝手に決めつけていた。母子家庭の上に俺が引きこもりで心配かけすぎたんだ。その疲労でついに倒れていた。しかし、いつ倒れたのかは分からない。最悪の場合、俺は倒れた急病人を3日も放置していたのかもしれない。
焦りが止まんなかった。俺はなんてことをしていたのかと。全身から力が抜けて俯いた状態の顔の視界には冷たくなった母親が映った。まだ外には血を流したあいつがいる。わかっていても、体はその場から少しも動こうとはしなかった…。
って言う嘘。」
「は?」
正直自分でも書いてて頭おかしいんじゃないかと思っています。それでも感想待ってるんで暇な方頼みます。