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11.秘めたる強さ

─────翌日


今日は初めてルゥに誘われて一緒に依頼を受けた。

待ち合わせ場所であるギルドの前に着くと、そこにキアラの姿があった。

ギルドを背にして道の端に立っているキアラも誰かを待っているようだ。挨拶を交わし、その隣に並ぶ様にして私もルゥを待つ事にした。


「それで?」


「それでって?」


「この前はどうだった? アルはやっぱり煩いの?」


キアラとアルが呑むはずだった日、アルは私を追いかけて来てくれた。勘の鋭いキアラはそれだけで気付いたのだろう。ニヤニヤと笑う顔からただからかっているだけだと分かるのだが、あの時の事は独り占めしたくて誰にも言いたくなかった。


「…部屋が汚かった」


「本当に?!…アイツ…部屋位掃除しとけよ…『そろそろそういう事になりそう』って分からないもんかねぇ」


妙に納得して思わず笑ってしまった。

「ふふっ…! そういう所がアルらしいじゃん」


「ふ〜ん…そういう所に惹かれたんだね」


キアラはまたニヤニヤと笑っている。まさかキアラにこんな風に冷やかされる日が来るとは思っていなくて気まずさに視線を逸らす事しかできなかった。


「ジーンかと思ってたから、アルで良かったよ」


「え」


確かに以前ジーンが好きなのかと問われた覚えがある。どう返そうか考えている内にキアラは白い溜息をついた。


「はぁ〜それにしても遅いね」


「誰を待ってるの?」


「は? ルゥとジーンでしょ? 今日は四人で一緒に依頼をこなすって………聞いてない?」


「ジーンが?」


「うん。元はバラバラだったけど急に昨日合同でやろうって…」


「ガンオールで?」


「そう聞いてるけど…あぁ、やっと来た!」


キアラが視線を向けた先にジーンとルゥが並んで向かって来るのが見えた。


「ごめん…私ちょっとトイレ行ってくる」


急いでギルドの建物内に入った。室内にはバーの店主のボルドウィンしかいなかった。カウンターの向こうで大きな欠伸をして眠そうな目を擦り新聞を眺めている。


「ボルドウィン、アルに伝言をお願いしたいんだけど」


そう言うとボルドウィンは新聞を広げたまま視線だけをこちらに向けた。


「あぁ、いいよ」


アルは王城から今朝帰ってくる予定だ。


「アルがそろそろここに来ると思うんだけど、来たら直ぐにジーンとガンオールに依頼に行くって伝えて」


ボルドウィンは何故そんな事をわざわざ言うのだろうと思っているのか不思議そうな顔をしていたが銅貨を一枚差し出すと、それを「要らない」と言わんばかりに戻して微笑んだ。


「ああ、分かったよ」


礼を言って表に出るとジーンとルゥが丁度着いたところだった。


「じゃあ行くか」


「待って、今日の依頼って…」


「伝説の魔導書を探しに行く」


私が言いかけた言葉を遮る様にジーンが言った。

そんな話し聞いていない。

ルゥに抗議の視線を向けると肩を竦め、やれやれといった様子で返事が返って来た。


「ちゃんと本来の依頼もこなすよ」


キアラも今聞いたようでジーンの顔を訝しげに見ている。


「何か手がかりでもあんの?」


「ああ。かなり有力なやつをな」


ジーンはその後詳細を幾ら聞いてもそれ以上言わなかった。目的地である岩山に着くと無言のまま登って行くので着いて行くしかなかった。中腹辺りに着いた時ようやく口を開いた。


「リブラは先に行って雪を溶かしておいてくれ」


「………分かった」


私は目の届く範囲までは大人しく従って雪を溶かして歩いていたが、少し離れた先の岩陰に身を潜めた。


この状況はどう考えてもおかしい。


(ルゥとキアラは敵? 味方? もし三対一になった場合…どうやって戦おう…………アルはどれ位でここに来られるかな…)


暫くそこで身を潜めて様子を伺ってみたが、三人共来る気配が無い。極力気配を消して来た道を引き返すとそこには目を疑う光景が。



ルゥとキアラが崖から突き落とされた




ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てる。

二人を突き落とす時のジーンの顔が目に焼き付いていた。酷く醜い顔でニヤニヤと笑う顔が。



「何をしたの」



なるべく平静を装って言いたかったのに、私の絞り出した声は冷たい空気に小さく震えジーンはまたニヤリと笑った。


「見られてたか………あいつらはお前を呼び出す為に利用させてもらった。もう用済みだ」


頭に血が上る。そんな事の為だけに利用して、簡単に人を殺すなんて頭がおかしいとしか思えない。同時に二人に対して、私なんかの為に利用されて敵かもしれないと疑っていた事を申し訳なく思った。

直ぐにでも二人を助けに行きたいが、目の前の男がそれを許してはくれなさそうだ。

ジーンはニヤニヤと醜い笑みを浮かべたまま胸元のポケットから何かを取り出した。


「お前の探し物……これだろ?」


そう言って差し出したジーンの手には、ずっと探していた懐中時計があった。


「あの店主おとこに一体幾ら積んだ?

………なかなか口を割らないから苦労したよ」


「……………」


ニヤリと薄汚く笑うジーン。その手の中にある懐中時計のチェーンがシャラっと音を立てる。大切な懐中時計が汚れる気がした。


「意外と馬鹿じゃないようだな」


今までに懐中時計を探して立ち寄った骨董品店の店主には全員金を渡してきた。口止め料も含め、もし私が探している懐中時計を持ってくる奴がいたら教えて欲しいと。

結構な金額を渡しているはずなのに、店主が口を割ったという事は…彼の安否が気がかりだった。


「おかしいと思ったんだよな。アイツが大した値打ちも無いこんな物を持ってるなんて……」


「……………」


その言葉で全身に怒りが満ちる。

だけど何も答えなかった。

感情を必死に押し殺してジーンを真っ直ぐに見ていた。


「驚かないんだな。俺をいつから怪しんで見てた?」


「……初めて会った時から」


あんな辺鄙な場所で困っている時に偶然現れ、金目当てでなかったら何だというのだ。アルの様に何の見返りも求めない正義感の溢れる人ならまだしも。


「待ってたんでしょ? 魔女を餌にしてこの国に入って来る魔導師を」


魔女がこの国に居るという情報は確かな筋から得たものだが、これが罠である可能性もあると警戒していた。いつだって都合の良い情報は信用ならないとウルフの死から学んでいたから。


懐中時計それを返して」


「こんな物に何の価値があるんだよ……クローディア」


静かすぎるその場所に冷たい風が吹いて、張り詰めた空気に拍車をかけるようだった。

やはりこの男は気付いていたんだ。私がクローディアだと。


「あなたも気付いてたのね…だから最初から私に気のある振りをして取り込もうとしていたの?」


ジーンは笑った。嘲笑うかのように。


「ああ。俺に初めて会った時、お前は僅かに驚いたよな。そして『兄弟はいるか』と聞いた。アイツの事を知っている奴はみんなそう言うんだ。似てるだろ?



俺と……………………………ウルフェンデンは」




「………………」


大切な人の名前が出て顔が強張る。目の前にいる男こそ…ウルフを殺した張本人だ。


「何故ウルフを殺したの……」


「不要になったからだ」


「さっきから何様のつもり?!」


人を物の様に考えて利用して、要らなくなったら殺すなんて同じ人間のする事とは思えない。到底理解が及ばない。


「まぁ………ウルフェンデンはそれだけじゃないな。

邪魔だったんだよ………殺したいくらい」


「………………仲間だったのに」


「仲間?! 冗談じゃねえよ。俺はサンスムドーンで騎士団長になるはずだった。 富も名声も全て俺の物になるはずだった。だけど先に入ったアイツがいた。アイツはただ先に入隊しただけ。ただ仕事をこなしただけで勲章を貰って、アイツが騎士団長になりやがった」


「それが何?………ただあなたの努力がウルフに及ばなかっただけでしょ」


「いいや。努力ならしたさ。それなのに何をやってもアイツと比べられる。アイツとはただの他人の空似だ。なのに何故比べられるんだよ?! 何故俺が下に見られなきゃならないんだよ!!……この気持ちが分かるか?!」


ヒートアップして行く言葉尻に私の心は急激に冷えていた。

ウルフはこんな馬鹿に、馬鹿みたいな理由で殺されたのだろうか。


「ただの劣等感の為にウルフを殺したの?!」


「劣等感なんてねえよ。俺こそが最強なんだ。アイツが邪魔だっつったろ? 俺だけがいればいい。何故この俺が『ウルフェンデンに似ている』と言われなければならない?アイツが俺に似ているんだ! オリジナルは俺だ!」


そんなくだらない理由で人の命を奪っていいはずがない。

呆れるような馬鹿馬鹿しい理由に怒りが込み上げて止まらない。怒りのまま今すぐにでも殺してやりたい気分だった。だけどそれじゃあまだ情報が足りない。まだ知りたい事がある。殺す前にそれを吐かせなければ。


「私の両親を嵌めたのもあんたなの?」


「………………」


ジーンは答えなかった。余裕ある表情のまま、私に一歩近付く。やむなく一歩後退した。接近戦になれば詠唱時間のかかる私は不利だ。


「お前の持つ究極の魔導書があれば、俺は世界を支配する事ができる。クローディア…俺と一緒に来い。世界を征服しよう。みんなが俺達に跪く。こんなに楽しいこと他にないだろ?」


呆れ返るしかなかった。馬鹿馬鹿しい。

今更仲間に取り込もうなんて遅すぎる。そんな言葉を信じるわけないと少し考えれば分かるだろうに。

それに世界征服なんて全く興味が無いし、伝説の魔導書にそんな力は無い。


知り得る汚い言葉の全てを使って罵りたい。

こんな馬鹿にウルフは………


「行くわけないだろ」


突然ジーンの後ろにアルが現れた。ジーンのその首に剣を添わせ鋭い眼差しを向けた。


アルが助けに来てくれた。

それだけで心に余裕ができた。

だけど、もう一人居るはずだ。魔女が……


「何故お前がここに…」


少しでも動けばその肌に傷がつきそうな位置に剣先がキラリと光り、身動の取れないジーンは忌々しく視線だけを後ろに向けている。その滑稽な姿に私が答えた。


「ボルドウィンにアルへ伝言を頼んだから」


「へぇ…」


途端にジーンは余裕の笑みを見せた。その理由を考える暇もなく───


「アル! 後ろ!」


アルの後ろには宙を浮く岩が何個もあった。

この光景は以前にも見た事がある。


─────魔女だ


姿は見えないが、どこからか狙っているに違いない。岩を浮かせ、ビュッと風を切る音がして宙に浮いた岩が次々とアル目掛けて飛んでいく。ほんの数秒の出来事だった。


「………っくそ!」


「アル!!」


アルを助けようとしたが、隙のできたアルの手からジーンが逃げ出し、そのまま私に向けて剣を抜いた。一瞬怯んでしまった。その間もアルには四方八方から岩が飛んでくる。


「────アル!!」


─────ドォンッッ!!


「うっ……!!」


防ぎきれなかった岩のひとつがアルの頭に当たり、アルは苦痛に顔を歪めその場に倒れた。


「アル!!」



その傍らに………………ボルドウィンが現れた。



「伝言ありがとうクローディア。俺がお前の探していた『魔女』だ」


「そんな………」


ドクンと心臓が跳ねた。忌々しい。

ボルドウィンが魔女だなんて微塵も考えていなかった。

剣士だったという情報は嘘だったんだ。確かに戦っている姿を実際には見ていない。言われてみれば身長はあの時に見た魔女と同じかもしれない。だが魔女が男で、禿げて、太って、あの時見た姿とは変わり果てているなんて想定していなかった。


だけど、魔女のその強さは知っている。


「さぁ、どうする?」


ボルドウィンはまた岩を浮かせる。倒れたままのアルにも、私にも簡単に飛ばす事ができる距離だ。


「お返ししてあげる」


私はそれだけ言うと直ぐに風の魔法を詠唱して、出した突風をボルドウィンの浮かせている岩に直撃させ粉々に砕いた。


「なっ………何っ?!」


パラパラと落ちる砂となった岩にボルドウィンだけでなくジーンも驚きに目を見開いている。


私は続いて風の魔法を唱えて手頃な岩をボルドウィンの顔面目掛けて飛ばした。物が宙に浮いて見えたのも原理は同じ。下から風を起こしているだけだ。


ずっと考えて、研究して、対策を練っていた。

この日の為に。


飛んできた岩に慌てたボルドウィンは咄嗟にそれを避けるが、体勢を崩して尻餅をついた。


こうなればもう勝ったようなものだ。


瞬時に私は水を生み出し、それを空中で鋭利な杭の様に変形させて凍らせるとボルドウィン目掛けて撃った。

ボルドウィンの体は氷の杭によって標本の様に地面に張り付けられた。何とも呆気なく。


「く…くそっ…ジーン!話しが違うじゃねぇか!」


私がここまで強いとは思っていなかっただろう。地面に押さえつけられたボルドウィンは首だけ起こして悔しそうにジーンと私を交互に睨みつける。


「手の内を全部さらけ出したと思った?」


今まで誰の前でもわざと中程度の力しか使ってこなかった。

敵がどこにいるかも分からないから。

それにずっとずっと考えていた。魔女と対峙した時の事を。


あとはジーンだけ。


振り返るとジーンは倒れたままのアルの首に剣を向けていた。元々ボルドウィンを見捨てるつもりだったのだろう。ジーンは応戦もせず、いつの間にかアルは後ろ手に縛られていた。


「魔導書の在処を言え! でないとアルを殺す」


「………分かった。言うから先にアルを解放して」


「いいや、魔導書が先だ」


言いながらジーンはアルの首元に剣を寄せた。剣と首の隙間に血が滲むのが見えた。

脅しなんかじゃない。こいつなら必ずやる。


「魔導書は…」


痛む胸にごくりと唾を飲んだ。


ごめんなさい。お父さん。お母さん。

ごめんね、ウルフ。


ずっと護ってきたけど…きっと許してもらえる。

アルを助けたいの



「魔導書は─────存在しない」


「はぁ?! ふざけんな!」


「…私の頭の中にしかない」


「頭の中だと?」


「伝説の魔導書は私一人が受け継いで、暗記して、そして燃やした」


「ふざけんな! だったら吐かせるまでだ!」


ジーンは私に視線を向けたまま剣を振りかぶりアルを殺そうとする。


「────っ魔導書はあなたが望むようなものじゃない!世界を支配する為に作られたんじゃない!世界を平和にする為に作られたんだ!」


「だったら今すぐ使ってみろよ!」


「いいよ。でもここで使う意味なんて無い。それに…もし例え強力な攻撃魔法だとしても、あなたに協力する魔道師なんていない」


「それはどうかな?」


ジーンがニヤリと薄汚く笑った瞬間、その後ろから白いローブを目深に被った人物が姿を見せた。


「エルヴェシウス…嘘でしょ…」



絶体絶命だ。



共に戦って来たから分かる。

私がエルヴェシウスに敵うわけがない。

足元にも及ばない。


まだ敵がいるとは想定外だった。

そして少なからずショックを受けていた。

エルヴェシウスは常識的な人だと思い込んでいた。だからジーンのような狂気的な奴に手を貸すなんて信じられない。

伝説の魔導書は、そこまで人を狂わすのだろうか。


「貴女の事は最初から目に掛けていたんですよ」


見た事の無い冷たい微笑みを見せるエルヴェシウスに冷や汗が流れる。一瞬でも目を逸らせば間違いなく殺される。視線を合わせたまま勢いに飲まれ一本後退すると、エルヴェシウスも一歩歩みを進める。



どうしよう…………どうしたらいい?



その時 剣の打ち合う音が聞こえてきて、反射的にそちらを向いてしまった。


「─────アル!」


いつの間にか意識を取り戻したアルは恐らく自ら縄を解いて抜け出したのだろう。ジーンとアル、二人の剣のぶつかり合う激しい音が響く。


─────キィン! キィン!


「くそが…!!」


直ぐに勝負はついた。

アルがジーンの剣を弾き飛ばすと、ジーンの喉元に剣先を向けた。肩で息をする二人は殺気立ったままお互いを睨み合っている。


「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」


「はぁ…はぁ…降参してくれるー?」


アルが剣先をジーンに寄せる。剣先と皮膚にはもうあと僅かな間しかない。それでもジーンは怯まなかった。視線だけをこちらに向けて怒鳴った。


「エルヴェシウス! そいつを捕らえろ!」


私ははっとしてエルヴェシウスに向き直る。

今更遅すぎると後悔したが…………


「はぁぁぁぁ…」

エルヴェシウスは深く深く溜息をついてにこっと柔らかく微笑んだ。

「やっと終わりましたね」


「え?」


「誰が手の内を全部さらけ出したと言いました?」


エルヴェシウスはそう言って胸元から何かを取り出した。それはアーラダイストの兵士だけが持つ事を許されている紋章。


「エルヴェシウス! てめぇ騙したな!」


「え…エルヴェシウスは…国の魔導士だったの?」


「ええ。驚かせてしまいすみません」


そう言ってエルヴェシウスが穏やかな微笑みを見せると私は腰が抜けてその場に座り込んでしまった。


「はぁぁぁ〜………怖かった…もう駄目だと思ったよ」


「ふふふっ…怖がらせてしまいすみませんでした」


エルヴェシウスが私に向けて手を差し伸べた時、騎士がぞろぞろとやって来た。


「アルフレッド様!」


「お前ら遅すぎ」


アルが騎士達に怒っていると、騎士に紛れて見慣れた二人の姿が。ルゥとキアラだ。二人は私に気付くと元気そうに手を振った。


「私達も遅くなっちゃったみたいだね」


「二人とも無事だったんだね!!」


「着地する寸前に坊やが岩を砂に変えてくれたんだ」


キアラがルゥの頭をがしがしと撫でると、ルゥは照れた様に笑った。


「誰かにどんな魔法も使い方次第だって教わったから」


「………ルゥ…………良かった!」


嬉しさと安堵の思いが溢れてルゥに抱きついてしまったが…


「気持ち悪いからやめて」


直ぐに拒否された。でも良かった。本当に。


「エル、ジーンを連れて行け」


「かしこまりました」


アルの指示にエルヴェシウスが丁寧にお辞儀して従う。

初めて見る光景に私だけでなく、キアラもルゥもぽかーんとそれを眺めるしかなかった。

アルは忙しそうに今来た騎士達に次々と指示を出している。あのアルが。


ジーンは去り際も何か喚いていたが、当然だが誰も聞く耳を持たなかった。


一通り指示を出し終えたアルは私に近付いてきた。


「怪我は無い?」


「うん。大丈夫。アル…ごめんね、私のせいで」


岩が当たった頭にはまだ血が滲んでいる。そこに添えようとした手をアルに取られた。ぎゅっと握りしめられると胸までぎゅぅっと締め付けられる思いだった。


「俺の方こそごめん。格好良く護れなくて」


「何言ってんの! めちゃめちゃ格好良かったよ」


「ボルドウィンが敵だって見抜けなかったし」


「それは私もだよ」


「怖い思いさせてごめんね。エルヴェシウスの事も言えなくて…」


「もう謝らないで。助けに来てくれただけで嬉しいから」


「……無事で良かった。本当に」


アルが微笑むのを見て、ようやく全て終わったんだと心から安堵した。

アルがそっと私の頬に手を添えて、近付いてくる唇に私は静かに目を閉じた









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