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アーミューは、公爵家の長男だ。
それでいて、魔法の才能があり、魔法具などを開発している。
だけれどもそういう立場だけれどもアーミューは表舞台に立つことも全くない。
そして私はただの子爵家の娘。
でも子爵家の娘であろうとも仮にも貴族の令嬢。だというのに周りと一切かかわらずに家族とアーミューとルトラールとしか会話をしていない。そして全く表舞台に出てこないアーミューの婚約者。
うん、確かに関りがない人達からしてみれば私たちは不思議で、興味を持つこともあるかもしれない。
とはいえ、王族に興味を持たれるなんて思っていなかったので私は驚いてしまう。
それにしても王族……、漫画で出ていたからルトラールの言う殿下の見た目は分かるけれど、他の王族は分からない。やっぱりキラキラしていて、高貴な感じなのだろうか?
そんなことを私が考えている間にも、アーミューはルトラールに「王族になんか会わない」と答えていた。うん、こうやってばっさり王族に会いたいって言われても断るのがアーミューだよね。
アーミューは何というか……、そういう権力に興味がない。必要だから、権力は持っていたほうがいいと思っているっぽいけれど。
「ウィネッサは王族と会いたかった?」
ルトラールが去っていった後、アーミューにそんな風に問いかけられた。
「ううん。私は王族と会わなくていいわ。だって私にとってのただ一人の王子様はアーミューだもの」
「僕も他の人には会わなくていいかな。それに他の男の前にウィネッサを出したくないし」
「それは私の方が思っているわよ? だってアーミューは凄く綺麗で、かっこよくて……だからアーミューを見た女性はアーミューのことを好きになってしまうんじゃないかって思うから」
アーミューは綺麗で、かっこよくて……そんな人が私の婚約者なんだと思うと夢みたいな気持ちになる。そんなアーミューを見たら気に入る人だっているんじゃないかって。
誰かが私のアーミューを掻っ攫ってしまったらどうしようかって。
「……ねぇ、アーミュー。もし王族の方とか、権力を持っている方がアーミューを欲しいっていって、断れないってなったら一緒に逃げてくれる?」
アーミューは公爵家長男だし、色んな才能があって……だけれども本当に一番上の権力者から求められたら難しいかもしれない。だって世界は前世と違って完全な権力社会で、王族が求めたからと結婚している男女を離婚させたりとかも過去にはあったらしいし。
でも例えばアーミューがそれを望んでなくても、アーミューが他の人の元へ行かないといけなくなったら嫌だなってそう思うの。仕方がないなんて私は割り切れない。
そう言う風に冷静に割り切れないことは貴族として致命的なのかもしれない。でも私はアーミューと出会っていなかったらともかく、出会ってしまった今はアーミューが誰かのものになるのを私は許せない。
「もちろん。どうしようもない時は一緒に逃げようね。死亡偽装してもいいし。そしたら死んだことになって探されないからね。でもまぁ、そもそも逃げなくていいようにはするよ。僕だってウィネッサが権力者に目を付けられたらいやだし」
アーミューはきっと本気でそう言っている。
きっとアーミューなら本気で権力者に求められても突っぱねられるぐらいにどうにかするんだろうな。でも……大人になってからはともかく今そういう相手に目を付けられたら大変だもの。
私も……アーミューが取られないように少しでもいいから力を付けられたらいいなとは思う。私は前世から平凡だから、それだけの力を手に入れられないかもしれないけれど……誰かに目をつけられた時にアーミューの元へ逃げられるぐらいの力はつけないと。
「アーミューは本当にすごいわ。私も目をつけられた時にどうにかできる力をつけないと」
「僕たちは夫婦になるんだから僕が手に入れたものを、ウィネッサが使えばいいんだよ。僕は単純な力だけじゃなくて、話し合いでもそういう権力者をどうにかできるようにするから。あとはウィネッサが不審者に襲われたりした時ようの魔法具も作るからね」
「ふふ、私のアーミューは本当に心強いわ」
アーミューは本当に私のことを散々甘やかしてくれている。
全部使っていいなんて……、きっとアーミューは大人になったら色んな力を手に入れるだろう。それを全て使っていいなんていうなんて、大胆というか、本当に私が虎の威を借る狐のようにアーミューの力を自由に使ってもアーミューは受け入れてくれるんだろうなと思った。
そうやって穏やかな会話をアーミューと交わしてしばらく経ったある日、
「ごめん。兄上、義姉上、殿下たちがこっちに来るって」
ルトラールがそんなまさかの発言を私たちにしてきた。
殿下が来るじゃなくて、殿下たちが来るってことは王族が一人だけではないってこと?
それにしても此処にくるってこと? 私は結構混乱していた。アーミューは私を王族の前に出したくないのか「僕だけ会おうかな」とか言っていた。
でもルトラールに「いや、殿下たちは二人に会いたいって言ってるから。一度会ったら兄上と義姉上のことを理解してくれると思うし……」と言われたので、諦めて二人で王族に会うことにした。