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「義姉上」
「ルトラール、ごきげんよう」
いつものように公爵邸を訪れると、ルトラールに挨拶される。
漫画の世界で兄が自殺したことで影のあるヒーローと化していたルトラールだが、アーミューが自殺しておらずのびのびと生きている実際の彼はとても明るく生きている。
少し影のあるヒーローと、真っ直ぐで優しい伯爵家の次女の話だったわけだけど……、実際は違うから現実だとルトラールはどんな人生を歩むのだろうか?
私はその漫画の中でルトラールのことも気に入っていたんだよね。まぁ、現実ではアーミューが大好きだから、アーミュー以外は割とどうでもいいとは思っているけれど。
それでもルトラールがどういう人生を歩むのか少しだけ気になっていたりもする。
ルトラールをじっと見てしまえば、
「ウィネッサ、どうしてルトラールを見ているの? 僕の方見よう?」
とアーミューに抱きしめられ、顔の向きを変えられた。
「ふふ、嫉妬しているの? 私はルトラールのことを弟として気にかけているだけよ? ルトラールがどういう子と恋愛するのかなってちょっと気になってたの」
「そう。でも僕は幾ら弟として見ていてもルトラールをじっと見つめているのは嫌かな」
そんなことを甘い顔で伝えてくるアーミューを見ていると顔がにやけてしまう。だってこういう言葉を真っ直ぐで伝えてきて、自分だけを見つめてほしいって伝えてくるアーミューが可愛いし、愛おしいと思うから。
嫌いな人とか、どうでもいい人からこういう感情を向けられたら……多分、私は面倒だなって嫌だなって思ったと思うの。
でもこんなにも心地よいって思っているのはアーミューへの愛情があるからなんだよね。
「……兄上、俺は義姉上をとらないよ。そんなことしたら兄上に殺されるの分かっているし」
「分かっているなら、僕のウィネッサにそういう目を未来永劫向けないようにな。あと僕が傍に居られない時はお前が防波堤になれ」
「はいはい。分かってるよ。義姉上のことは俺も姉として慕っているから兄上以外が近づくのはどうにかするから」
「それでいい」
アーミューとルトラールが仲よさそうで、私は何だか嬉しくなる。
なんだろう。凄くブラコンとか、そういうのではない。だけれども互いに何だかんだ理解しあっていて、それでいて仲良くしている感じがいいと思う。ルトラールはアーミューのことを兄として慕っているし、そしてアーミューは何だかんだルトラールのことを弟として認識しているし。
こういう光景が目の前にあることが幸せだなぁと私は思うのだ。
「それにしても義姉上は、兄上からこういう危ない感じの感情を向けられていても全然気にしていないよな……。たまに兄上って閉じ込めたいとか、義姉上に何かする人は殺すとかそういうことを言っているんだけど。あれって、義姉上の前でもいつも言っているだろ?」
「私はその気持ちが心地よいもの。それに私も同じような感情抱いていたりもするし……」
「……なんか兄上と義姉上って何だかんだ似た者同士だよなぁ。俺は婚約とか結婚するならもうちょっと危なくない感じがいいな」
「あら、こうやって好きな人から重い感情を向けられるのは幸せよ!」
「……うん、まぁ、それは兄上と義姉上だからだと思う」
ルトラールは少しだけ遠い目をしながらそんなことを言っていた。
ルトラールは誰かを好きになったりするのかしらね。私とアーミューは互いに恋をして婚約を結んでいるけれど、王侯貴族だとそういう感情なしで政略結婚したりもするものね。
案外、ルトラールは漫画の世界のように誰かに恋をすることなく政略結婚することもあるのかも。でも出来れば感情の伴わない婚約よりも、ルトラールの好きな人を婚約者にして紹介されると嬉しいと思う。
そうしたら私の義理の妹が出来るもの。
私の世界はアーミューが居ればいいとは思っているけれど、互いの血の繋がった家族とはそれなりに交流を持ちたいからね。それにルトラールのお相手は次期公爵夫人なわけだし。
「殿下が兄上と義姉上に会ってみたいって言ってるんだけど」
そういえば、ルトラールは王族ともかかわりあっているらしい。漫画でも出ていたけれど、同年代の王族がいるのよね。
アーミューは元々両親に疎まれていたから関わってもなく、加えて自由に動けるようになってからも王族と関わる気が全くないので交流はないらしいけれど、王族ともルトラールは友人関係にあるって聞いたわ。
子爵家の娘である私からしたら王族は雲の上のような存在なので、そういう方と関わっているルトラールってすごいなって思う。まぁ、公爵家のアーミューと婚約を結んでいるのも驚くべきことなんだけれど。
「どうして、私なんかと?」
「嫌だよ。なんでそんな面倒なことしなきゃいけないの」
私とアーミューの言葉にルトラールは、小さく息を吐く。
「……兄上が中々表舞台に立たないからでしょ。色んな噂たっているからね。それに義姉上のことも。兄上とずっと一緒に居て全然他と交流持たないって」
ルトラールはそんなことを私たちに言った。