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「誕生日おめでとう、ウィネッサ」
アーミューがとろけるような笑みで、私に向かって笑かけている。
アーミューは出会ってからいつも私に一日くれる。私のことを一日中お祝いして、一緒に過ごしてくれる。
あとプレゼントも沢山くれる。
私はそのことが嬉しくて、その日は私にとって一年で一番幸せな日と言っても過言ではないだろう。
十歳になった私と、今年十三歳のアーミュー。
アーミューは年々美しくなっている。そういう徐々に美少年から美青年に変わっていくアーミューを見ているととってもかっこいいなってワクワクする。
でもあと数年もしたらアーミューは先に学園に入学するのよね。
一緒に通えないと思うとそれだけで何だか寂しい気持ちになる。
それにしても学園に入学すると、距離が離れるものね。
今住んでいるところから遠いから中々会えなくなりそうだし……。まぁ、この二年でアーミューは転移魔法の研究を進めているからもしかしたら大丈夫なのかもしれないけれど。
それにしても誕生日の日でも、私は特にアーミュー以外の人と会わないんだよね。私の家にアーミューがやってきてくれて、二人で過ごすの。アーミューの誕生日も二人で過ごしているのよ。
王侯貴族だと誕生日にパーティーとかするものみたいなのだけど……、私は全然そんなのしていない。アーミューと二人っきりのパーティーみたいになっているかもしれないけれど、誰かを呼ぶようなものはしていない。
アーミューも公爵家の長男だけどそういうのはしていないみたい。
アーミューの場合、パーティーをしようと思えば今決行出来るけれどやる気はないみたい。
ルトラールはそういうパーティーを大規模でやっているけれど。
私は招待されても一度も参加したことはない。というか、アーミューが「僕と一緒に二人で過ごそう?」っていうから、参加せずに後でルトラールに二人でお祝いしている感じ。
アーミューは既に公爵家の当主の座をルトラールに渡している。アーミューはとりあえず私と生活出来るだけの仕事は学園卒業後探すって言っていた。もうすでに人生計画が出来ているのがアーミューは凄いよね。
私も学園入学後、卒業したらアーミューと結婚して暮らすっていう人生設計は出来ているけれど。
「ウィネッサの誕生日は僕が毎年祝うからね。僕だけに頂戴ね」
「うん。アーミューと二人で祝うの。アーミューの誕生日もね」
「もちろん」
「アーミューが年々かっこよくなってて、そういう姿を見れるのが夢みたいだわ」
「不思議な言い方するね? ウィネッサは時々そうだよね」
「あー……、あのね、私……前世の記憶があって。その中にアーミューとルトラールが出ている物語があったっていうか」
私はアーミューに隠し事をするのも嫌だなと思って、アーミューなら私の話を聞いてもきっと私の傍にいてくれるだろうってそう思って前世のことを語った。
アーミューは私に前世の記憶があること。
そしてアーミューとルトラールのことを知っていたこと。
……その中でアーミューが自殺していること。
そういうことを言った。
アーミューは驚いた顔一つしないで、ただにこにこと笑っている。
こういうことを言っても、アーミューの様子が変わらないことに私は驚いてしまう。
「ねぇ、だからね、私がアーミューに話しかけたきっかけってアーミューが自殺しないで大人になった姿を見れたらって思ってたからなの。幻滅した?」
「なんで? そんなわけないよ。でもそうだね、その”アーミュー”が自殺したのは僕の”ウィネッサ”が居なかったからだと思うよ」
アーミューはそんなことを言いながら、相変わらず微笑んでいる。
「その物語の中の”ウィネッサ”じゃなくて、今、僕の目の前にいる前世の記憶がある、僕のウィネッサが居なかったら……、僕だって多分、そういう気持ちになった気がするから」
「アーミューも、私が居なかったらって共感できるの?」
「うん。だって、僕のウィネッサが居ないって考えただけで、何て言えばいいんだろうか……、僕にとって全てがどうでもよくなるんだよ。今の僕にとって楽しいことが、全て興味がないものに変わる感じかな。だから、退屈だったんじゃないかなって。その物語の中では」
「そっか。じゃあやっぱり私はアーミューに話しかけて良かったわ。そうじゃなきゃアーミューが居なかったかもしれないものね」
「うん。ウィネッサが僕に話しかけてくれてよかったよ。そうじゃなきゃこの世界にウィネッサが居るの知らないまま、僕は退屈していたかもしれないから」
アーミューは相変わらず笑っていて、動揺した様子もない。
もし、私が……アーミューに話しかけなかったら、アーミューがこの世界に留まるための鎖になれなかったら……アーミューはとっくにこの世界からいなくなっていたかもしれない。
そう思うと、アーミューに話しかけてよかったなと思う。
そして私がアーミューのための鎖に、枷になれることが嬉しいなんて思っている。
なるべくそういう存在が、私だけだったらいいなんて独占欲も感じているのだ。
その幸福を感じながら、私はアーミューと誕生日を過ごした。