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「そういえば、アーミュー様って婚約者は作らないんですか?」
アーミュー様と関わるようになってから早二年。
私はすっかり公爵邸に良く訪れる客人になっていた。あとはルトラール様ともそこそこ仲良くなれているかなとは思う。
……まぁ、あんまりルトラール様は私とアーミュー様が話している中に割り込むことはたまにしかないけれど
アーミュー様が私と二人の方がいいって思ってくれているみたいだから。
アーミュー様は今の所、自殺するような気配はなくて私はそのことにほっとしている。
私はアーミュー様の未来のことを考えると凄く楽しみになっている。だってアーミュー様は将来とても素敵になると思う。だって今だって凄く素敵なんだもの!
漫画の世界ではアーミュー様は命を散らしていて、学園に通うこともなかった。メインの登場人物たちと関わることもなかった。アーミュー様の世界が広がっていくことが私は嬉しいなと思っている。
だからアーミュー様がどのような人と結婚するのかなって考えるだけで私は楽しみだった……のだけど、
「ウィネッサ……」
なんだか見た事がないような目で、アーミュー様が私を見ている。
私、何かおかしなことを言ってしまったかなって少し不安になる。
「アーミュー様、ごめんなさい。私がアーミュー様の婚約者について口出しすることでもないですよね……。でもアーミュー様ならきっと素敵な方と結婚するんだろうなって思って……。そういう姿が見れたらなって思って!」
「……ウィネッサ、あのね、僕はウィネッサとずっと一緒にいるからね」
「え?」
「僕はウィネッサのことが好きだよ」
私は真っ直ぐに視線を向けてくるアーミュー様の言葉に驚いた。
……私のことが、好き?
アーミュー様が私のことが好きなんて考えたこともなかったので、私は驚いてしまう。
「僕はウィネッサ以外と結婚する気はないからね。ウィネッサは嫌?」
「……え、えっと」
「ウィネッサが僕と結婚してくれないなら、僕は一生独り身になるけど」
アーミュー様にそんなことを言われて、私は驚いてしまう。
今の私よりもアーミュー様は三つも上だとはいえ、まだ子供だ。だけれども、私以外要らないとでもいう風に真っ直ぐにこっちを見ている。
―—そしてそれが本当のことだと見つめられていて分かる。
アーミュー様はいつから、私のことを好きだと思っていたんだろうか。……今向けられている目を見ていると、私のことが好きだというのが分かる。
何で私は今まで気づかなかったんだろう。
「ウィネッサは嫌?」
「い、嫌ではないです」
嫌なんてそんなわけはない。
アーミュー様のことを自殺させないようにと思っていた私だけど、それだけが理由でアーミュー様と関わっているわけではない。アーミュー様のことが綺麗だって思っていて、アーミュー様と過ごす時間が楽しくて、だからこそこうしてアーミュー様に会いに来ていた。
アーミュー様と私が婚約。
そんなことは考えてなかったけれども、アーミュー様が私を求めてくれていることが嬉しいとは思っていた。
「……で、でもアーミュー様は公爵家の跡取りでしょう? その婚約者に私は相応しくないかと……」
「そんなことは気にしなくていいよ。そもそも公爵家の当主の座なんて要らないから。面倒だしね。ルトラールにあげるよ」
「……本当に、私でいいんですか?」
「寧ろ、ウィネッサじゃないと駄目だよ。ウィネッサだから僕は結婚したいって思っているんだから。だから、僕と婚約しようね、ウィネッサ」
「……はい」
満面の笑みでそんな風に言われて、頷かないはずがなかった。
というか、私もアーミュー様のことが好きだなって、アーミュー様の言葉を聞いて思ってしまったから。
……それに私が頷いたら、アーミュー様が凄く柔らかい瞳で私のことを見てくれていて、頷いて良かったってそう思った。
私はアーミュー様に幸せにしてもらいたいのではなく、幸せにしたいって思っている。
アーミュー様が笑って過ごせるように、アーミュー様がこの世界に飽きないようにしないと!
「アーミュー様、私がアーミュー様に幸せな未来を約束しますからね」
「はは、それ僕の台詞じゃない?」
私の言葉にアーミュー様は嬉しそうに笑っていた。
こうやってアーミュー様が笑ってくれていることが私は嬉しい。
漫画ではアーミュー様の未来はなかった。でもこれから私はその見ることの出来なかったアーミュー様の未来を、将来の姿を隣で見ることが出来るんだなと思うと楽しみになっている。
ちなみに、ルトラール様に婚約の報告をしたら「だろうね! 兄上が義姉上を手放すわけないもん」って言われた。
アーミュー様が私のことが好きだってことは周りに知られていたみたい。私だけ気づいていなかったのかってちょっと恥ずかしくなった。