4
「お前が兄上と親しくしている女か?」
いつものようにアーミュー様に招待されて公爵邸に顔を出したら、ルトラール様に話しかけられた。
ちなみに私もルトラール様のご友人を選ぶお茶会に一度は顔を出していたので挨拶はしているのだけど……、ルトラール様は覚えてないみたい。まぁ、私、その後すぐにアーミュー様の元へ行くようになっていたし、私は背景モブだから当然と言えば当然なのかもしれない。
それにしてもルトラール様が「兄上」と口にした瞬間の後ろの使用人の反応がわかれているのだけど。
何だか怯えた様子というか、警戒した様子の者。あとはアーミュー様を侮っているからかこちらを馬鹿にするように見る者。極端だ。
「はい。ウィネッサ・ミヨーワです。よろしくお願いします」
向こうが覚えていない様子なので、私は再度挨拶をしておく。
それにしてもアーミュー様とルトラール様って違う雰囲気の美少年なんだよね。アーミュー様は作り物のお人形さんか何かみたいに綺麗なのだけど、ルトラール様はなんというか親しみやすい感じのやんちゃそうなかっこいい男の子というか。
「ふぅん」
なんだかまじまじと見られると落ち着かない。
なんて答えたらいいのかな。
「何で兄上は俺とじゃなくて、お前と仲よくしているんだ?」
「え」
「俺だって兄上と関わりたいのに! ずるい!」
そんなことを言われても……と思ってしまう私である。
でもそうか。
ルトラール様は兄であるアーミュー様のことを漫画の世界でも好いていたといっていた。たまにしか会えないけれど、それでも大切に思っていたって。後からご両親や使用人たちの態度を知って憤慨していたんだって。
まだ幼いルトラール様は同じ屋敷に居るのに、中々一緒に遊んだりも出来ないことに鬱憤がたまっているのかもしれない。……まぁ、ご両親たちや使用人たちが嫌がっているからルトラール様がアーミュー様に関わることはあまりなさそうだしなぁ。
……あれ、でもアーミュー様って私がアーミュー様に会いに行けていることを考えるに、会いたい人には会えるように多分出来るよね? そう考えるとアーミュー様はルトラール様に会わなくてもよいと思っているのかもしれない。
逆に私とは会いたいって思ってくれているのかなと嬉しくなった。
「何か言えよ!」
「ウィネッサに何をしている?」
無言になっている私にルトラール様が文句を言おうと近づけば、その時、アーミュー様の声が聞こえてきた。
アーミュー様の声が、結構冷たい。
私はアーミュー様の冷たい声に驚いた。だって、仲良くなってからのアーミュー様はいつだって優しい声と表情をしていたから。
「何って、兄上ーー」
「ウィネッサ、大丈夫? 行こうか」
「兄上!?」
「えっと、アーミュー様」
「アレは気にしなくていいよ。ウィネッサ」
「あにうぇえええ」
あ、泣いた。
アーミュー様は、ルトラール様のことをどうでもいいと思っているのか……、完全に無視して私に話しかけていた。
その様子を見て、ルトラール様が大泣きしていた。
流石にそれを見て、私はルトラール様を放っておけなかった。
ちらちら私がルトラール様を見て、「アーミュー様」と声をかければ、アーミュー様は仕方がないなとでもいうような笑みを浮かべた。
「アーミュー様、ルトラール様も一緒にお茶会をするのはどうですか?」
私はアーミュー様に、そう告げる。
「ウィネッサがそういうなら、そうしようか。ルトラール」
「あ、兄上」
「……ただし、ウィネッサにああいう態度をとるようなら僕はルトラールとは今後話さない」
「う、うん」
ルトラール様は、アーミュー様に告げられた言葉におそるおそるといった様子で泣き止んで頷いた。
それにしても私からは顔が見えなかったけれど、恐ろしい顔でもしていたのだろうか?
その後、私はアーミュー様とルトラール様という公爵家の兄弟のお二人とお茶会をした。何だか不思議な気持ちになった。だって私は漫画の世界だと脇役だからなぁ。でもまぁ、私はアーミュー様が自殺しないように出来ればそれでいい。あとアーミュー様がルトラール様と仲よくしていればそれだけ、アーミュー様がこの現世に留まる理由になるだろうし。
「ウィネッサ」
……でもさ、アーミュー様はもっとルトラール様にも話しかけようよ。
あまりにもアーミュー様が私の名前ばかり言うから、私がみかねてルトラール様に話しかけたらアーミュー様が嫌そうな表情をしていた。
私がルトラール様に話しかけるのが嫌なのかな? って思った。
ちなみにそんな感じで会話を交わした結果、同じ年なのにルトラール様からは「義姉上」呼びされることになった。
漫画のヒーローであるルトラール様とこんな風にかかわるだなんて凄く不思議な気持ちにはなった。