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「ウィネッサ」
アーミュー様は嬉しそうに私の名を呼ぶ。
アーミュー様と親しくなって一年ほどが経過している。
アーミュー様は、どうして漫画の世界では自殺したんだろうか?
私はアーミュー様を知れば知るほどそのことが疑問に思えてくる。アーミュー様と親しくなればなるほど、この人は家族から疎まれたぐらいでは自殺なんてしないって思えてくる。
漫画を読んでいた時はアーミュー様はご両親から疎まれていたから、それで絶望して自殺したのかなと思っていた。
でもアーミュー様はご両親のことをどうでもいいとさえ思っていそうだ。
それに……アーミュー様は自分の現状をどうにかしようと思っていなかっただけで、出来ないわけではなかったのだと親しくなってきた今なら分かる。
そもそも私が公爵邸に来れるように整えたのも、使用人を味方にしたのも、ご両親に何も言われないように何かしたのも……全部アーミュー様が自主的に行ったらしい。
アーミュー様の傍によくいる使用人の方とちょっと話した時に、「アーミュー様は周りに興味がなく、当主様達が何をしようがどうでもよさそうでした。なのでウィネッサ様と出会って人間らしくなっていて嬉しいです」と言われた。
何だか、私のおかげって言われると嬉しくなった。
漫画の世界のアーミュー様は、何にも関心がなく、生きていくことさえどうでもいいと思ったのだろうか?? そんなことさえも思った。
漫画の中のヒーローであるルトラール様は、アーミュー様が自殺したのをご両親の態度のせいだと思っていたし、私も読者だった時そう思っていた。でも、何にも興味がなくて自殺の方が今のアーミュー様を見ているとしっくりくる。
アーミュー様が、生きていて楽しいって思える人に出会えたらいいな。
私のことを友人だと思ってくれて、それでアーミュー様をこの世界に留められたらうれしいけれど、アーミュー様がこの人が居なきゃ生きていけないっていう素敵な女性と出会えたら素敵だと思う。
アーミュー様はとても綺麗な方だから、美しい女性と添い遂げてほしいなぁと思う。
そんなことを思いながらアーミュー様をじっと見る。
「ウィネッサ、どうしたの?」
「アーミュー様は本当に綺麗でかっこいいなぁって。今でこれなので、大人になったアーミュー様はきっともっと美しいだろうなって」
「ウィネッサは僕が大人になるの楽しみなの?」
「はい。大人になったアーミュー様を見たいです。それを考えるだけでとっても楽しいです。だってアーミュー様は今も素敵なんですよ。大人になったアーミュー様は、きっと今よりも素敵になっているはずです」
漫画の中では自殺してしまって、アーミュー様の大人になった姿は描かれなかった。
けれど、目の前に居るアーミュー様を見ていると絶対に美男子に育つ! と言える。まぁ、世の中には子供の頃だけ天使のようにかわいらしいってパターンもあるけれど、漫画だとルトラール様だって美男子だったし、アーミュー様もきっと美男子に育つはず。
それにしても私の言葉ににこにこしているアーミュー様は本当に可愛い! そんなに素敵な笑みを向けられると、私もにこにこしてしまう。
「ウィネッサも大人になってもきっと可愛いよ」
「ふふ、ありがとうございます。でも私、そんなに可愛いって感じじゃないですよ?」
異世界転生を果たしたわけだけど、私は漫画の中だと完全に脇役である。そもそも名前さえも出ていたかも怪しいレベルの背景である。
やはりメインキャラクターを目立たせようというのがあるのか、そういう方々は大体キラキラしているような雰囲気。私は背景だし、茶髪に茶色の瞳の、割とどこにでもいる感じの令嬢だ。
それに子爵家の娘で貴族としての位も低いから正直言ってそこまで目立たない。
可愛いか可愛くないかでいえば、可愛い方……なのかな? ってレベルの普通である。
「ウィネッサは可愛いよ」
うーん、こんなに綺麗で可愛いアーミュー様にそう断言されると、私って実は可愛いのかしらって気分になってしまう。
だってアーミュー様はこういうことで嘘を言う人でもないし。アーミュー様は私よりも三歳も年上だから、妹のように私のことを可愛がってくれているのかな。
ちなみに私はヒーローのルトラール様と同じ年なの。今六歳。アーミュー様は今、九歳。
十五歳になったら王侯貴族は学園に通うのだけど、残念なことに私はアーミュー様が学園に通う姿を見られない。……それはちょっと残念だなって思う。
学園に入学時期が近づいたら、アーミュー様に制服を着ている姿を見させてもらおうかな。きっとかっこいいと思う。
この世界ってカメラがないのよね。
カメラがあったらアーミュー様の素敵な姿を残せるのになぁと思った私は、いっそ魔法もあるのでカメラを作るのを目指してみようかななどとにこにこ笑うアーミュー様を見ながら思った。