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私はアーミュー様と少しずつ仲良くなった。
アーミュー様が私に少しずつ心を許してくれることが何だか嬉しかった。
最初は警戒していたアーミュー様に、沢山話しかけて、アーミュー様は凄いんだって伝え続けたらそれを笑って受け入れてくれるようになったのだ。
とはいえ、公爵家の長男であるアーミュー様とずっとかかわりを続けることはただの子爵家の娘である私には難しかった。
「アーミュー様、私はこれから公爵家に訪れることが出来なくなります。短い間でしたが、ありがとうございました」
「え?」
私がそう言ったのは、アーミュー様の弟であるルトラール様のご友人候補が完全に決まったからである。そのルトラール様のご友人に選ばれた令嬢子息以外は公爵邸に招かれることはなくなってしまうからだ。
私はルトラール様の友人を選ぶために呼ばれているというのにアーミュー様とばかりあっていたので、ルトラール様の友人に選ばれているはずもない。そういうわけで、今後この公爵邸に訪れることが出来なくなってしまうのだ。
アーミュー様が自殺をするのではないか、アーミュー様が生きていきたいと思ってくれているのかとか色々心配なことは多い。だけれども、私はただの子爵家の令嬢なので好き勝手に公爵邸に来れるわけではない。
……なのだけど、何だか私がもう来れないといったらアーミュー様がその赤い瞳を細めた。
アーミュー様は、私と会話をするようになって大分感情豊かになっているように見えた。こうして私がもう来れないと告げたらショックを受けた様子なのを見て、私を少しは友人と思ってくれているのかなと思って嬉しかった。
「……どうして?」
「ルトラール様の友人が正式に決まりました。私はこれから此処に招待されることはありません」
「ウィネッサが来たくないとかじゃなくて?」
「私は幾らでもアーミュー様に会いたいです。アーミュー様の綺麗な顔を見ているだけで幸せですし」
「そっか。……大丈夫だよ。ウィネッサ。ちゃんと、ウィネッサが此処に来られるようにするから。だから僕が招待するから来てくれる?」
「え? 招待されたらもちろん来ますが」
……アーミュー様の言葉の意味がいまいち私には分からなかった。だってアーミュー様はご両親に疎まれていて、だからこそお茶会からものけものにされていて……この屋敷の中で大変な暮らしをしていて……それなのにどうやって来られるようにするのだろうか?
私は訳が分からなかったけれど、私が来るといったらアーミュー様が嬉しそうに笑ってくれたからまぁいいかと思った。
だけど私としてはアーミュー様がそんなことを言ったとしても、アーミュー様にはしばらく会えないだろうなぁと正直思っていたのだ。
……なのだけど、私は翌週にはアーミュー様から公爵邸に招待されていた。
「ウィネッサ、良かった。来てくれたんだ」
「ええ。招待されたらきますよ。私もアーミュー様には会いたいですから。……でもどうやったんですか?」
「どうやったって?」
「だって……アーミュー様はご両親から、その……」
「ああ。あいつらのこと? 大丈夫、ちゃんと邪魔しないように黙らせたから。幾らでもウィネッサは屋敷にきてくれていいんだよ?」
今、そのお人形さんみたいに綺麗なアーミュー様から毒が聞こえてきたのだけど……。
黙らせたとは……。
私はどういうことなのだろうとアーミュー様を見る。
アーミュー様は私が屋敷に訪れたことが嬉しいのか笑っている。
うん、凄く綺麗で可愛い笑み。
すっかり私に笑みを浮かべてくれるアーミュー様を見ると、細かいことはどうでもいいかってそういう気持ちになった。
「そうだ、ウィネッサ。これ」
「わぁ、これ、この前私が美味しいっていったお菓子ですか? また用意してくれたんですね。ありがとうございます!」
アーミュー様が差し出してくれたのは、有名なお菓子屋さんの出しているクッキーである。ちなみに結構高級なのだけど、アーミュー様はそれを用意してくれていたみたい。
実家だと買えないようなものだから、正直こうして食べられることが嬉しい。でもあんまりアーミュー様からもらってばかりも申し訳ないので少し遠慮してしまう。
「ウィネッサ、食べないの?」
「えっと」
「遠慮しなくていいんだよ。ウィネッサのために買ってきたんだから」
「嬉しいですけど……、私アーミュー様にもらってばかりだなぁって」
「そんなこと気にしなくていいよ。僕の方が沢山もらっているから」
何だかアーミュー様はよくわからないことを言っていた。
でもなんか、アーミュー様の周りの使用人たちも私のことを穏やかな目で見ていて、どんどん食べてほしいって態度なんだよね。
結局アーミュー様の食べてほしいって視線に負けて食べる。
美味しかった!!