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私が一言、婚約者の名を呼んだ。
そのことに周りにいた人たちは驚いた様子だった。どうして突然名を呼ぶのだろうと。
でも、魔力を込めてアーミューの名を呼ぶだけで問題がないのだ。
それと同時に魔力が蠢き、魔力を探知できるものたちは何事かとそこを見る。
そしたら……その場に人影が急に現れる。
「僕のウィネッサ、呼んだ?」
「ええ。私のアーミュー」
フード付きのローブを身に纏った私のアーミューは、私を見て柔らかく笑う。
ちらっと見える私のアーミューの顔が美しいからか、ぽぅってなっている人もいてちょっと嫌だけどね。
美しい銀色の髪に、赤い瞳。
本当にアーミューは、ほれぼれするぐらいかっこいい。突然私に呼び出されたのに、周りにそれなりに人がいるのにアーミューは私だけを見つめてくれていて……うん、やっぱりアーミューを見れると嬉しいわ。
アーミューはね、私が呼んだらすぐにやってこれるようにしてくれているの。
本当にアーミューは凄い人だわ。
「私がアーミューじゃなくてルトラールを好きなんじゃないかとか馬鹿なことが噂になってて、私はアーミューだけを愛しているのに」
「ルトラール」
「……あ、兄上、こっち睨まないで! 勝手に広まった噂で、俺は知らん! 俺が義姉上にそういう感情いだいてないの知っているだろ」
アーミューが嫉妬している姿を見ると私は嬉しい。だってアーミューってば、私の前ではころころ表情を変えるの。私のためならって、弟であるルトラールにもそんな殺気だった目で見るのだもの。
「アーミュー。私にはアーミューだけよ。それにルトラールは私にとって弟だもの」
「ウィネッサ……」
「ちょっと、何で俺が義姉上に懸想してフラれたみたいな雰囲気になっているの?」
ルトラールが何か言っているし、周りがアーミューの顔を見てキャーキャー言っていたりするけれど、それは正直どうでもいいのよね。私にとってはアーミューが目の前にいてくれるっていうその事実だけでどうしようもなく幸せだもの。
アーミュー以外見れるわけがないわ。
ちなみに一部の視線が、なんかアーミューの顔にぽーっとしているとかではなく、多分アーミューを利用したいっていう連中の手の者っぽい。
というのをアーミューは当然気づいているみたい。私のアーミューはとても有能だもの。
アーミューが何かをしたと思えば、恐らく該当者であろう生徒たちが魔法でからめとられたわ。
……全然私に関わってこなかった男子生徒とかも、そういう人たちなのね。
その人はアーミューに「突然、何をするんですか」と声をあげていたけれど、アーミューが無理やり何か飲ませたらぺらぺらしゃべりだした。
多分、あれは自白剤ね。
ルトラールは「あーあ」と言いながら、ただ本当に私とアーミューが不仲ではという噂に振り回されていただけの人に関してはそのまま教室に戻るようにいっていた。
どうせ、アーミューは此処で大暴れする気だろうから、そういうのを普通の生徒に見せるのは大変だものね。
ぺらぺらしゃべっていたことによると、アーミューの魔法と魔法具作成の腕を狙って隣国からも色々入りこんでいたみたい。
それで上手くアーミューをハニートラップとかも含めて懐柔して連れてくるか、アーミューの最愛である私を攫ってアーミューを好きなようにするか……って現実味のないことなどを考えていたみたいね。
そもそもアーミューが全然表に出てこないから接触も出来なくて、それもあってルトラールや私を使ってどうにか表舞台にアーミューを出させようとしていたみたい。
アーミューを表舞台に引きずり出すのには成功したけれど、アーミューの地雷は思いっきり踏んでいるわね。
「ウィネッサ。僕はちょっとこの馬鹿たちをつぶしてくるね。僕のウィネッサを攫おうかなんて実行していなくても、計画しているだけで許せないから」
「ふふ、気を付けてね。アーミュー。貴方が傷つけられたら私は相手を許せないもの」
「ウィネッサが僕の為に怒ってくれるのは嬉しいね。でも、大丈夫、僕はこういう馬鹿に怪我させられるほど軟じゃないから」
アーミューはそう言って笑うと、ルトラールの方を向く。
「ルトラール。僕はこいつら突き出して、ちょっと馬鹿共をつぶしてくる」
「……兄上、やりすぎないようにね」
「ん? 徹底的にやるよ。だって一度ぐらい徹底的にやらないと、こういう馬鹿が出てくるかもしれないだろう? 僕のウィネッサに手を出すことを考えたり、僕らの平穏な生活を崩す奴らを許せるはずがないから」
「あー、うん、わかった。まぁ、一回ぐらいは他国の連中にも兄上のヤバさを実感してもらった方がいいもんね。大人しくしていても兄上は一番手を出したらヤバイやつだって。ああ、でも本当にやりすぎそうだったら、義姉上に兄上を呼び戻してもらうからね」
ルトラールは結局アーミューの言葉にそう言って納得したようだ。
それにしてもアーミューはどんなふうに暴れるのかしら。
私のアーミューが私との生活のために動いてくれるのよね。




