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私の学園生活は概ね良好に進んでいる。
私はルトラールに義姉上と呼ばれているからそこそこ知られてはいるけれど、それ以外は私は普通だもの。
そもそもアーミューが学園に居ない状況だから、私もこれといって行動したりしていないものね。
ルトラールにも「兄上が居ないと、義姉上が普通に見える」とかよくわからないこと言われたもの。
失礼よね。
私はいつだって、普通なのに。ちょっとアーミューへの愛が溢れて、時々物騒なことを言ってしまっているだけじゃない。
そんなことを思うけれど、ミーガレダ様にも「アーミューとウィネッサは物騒だわ」って言われた。
そういえば、学園で私はよく本を読んでいる。時々私に話しかけようとする人もいたけれど、どうやら私に好意を持ちそうと言う人は私が知らないうちにルトラールやアーミューの親しくしていた後輩たちに何かされているのか私に近づかなくなっていた。
まぁ、お友達としてならともかく、私を妻にしたいとかそういう恋愛の好意で私に近づく人は遠慮したいもの。
私はアーミューだけの奥さんになるんだから。
ルトラールが言うには、「近づきすぎて兄上が何かやらかす前に、被害が出る前にどうにかしないと問題だろ」なんて言っていた。
アーミューが私のために暴れてくれるのは大歓迎なのだけど。
というか、ルトラールは私がそうやってアーミューの暴走を放置しそうなことを分かっているからこそ、アーミューが暴れないように一生懸命みたい。うん、私の義理の弟は優秀だわ。流石少女漫画のヒーローよね。
「ルトラールは気になる子いないの?」
「……義姉上、何でそんな母親みたいな目で俺のことを見ているんだ? 同じ年だろう」
「だって小さい頃から知っているんだもの。ルトラールはどんな子と恋愛するかしらって」
「義姉上、人の恋愛話にそんな興味ないだろ」
「他人のは興味ないわよ。でもルトラールのは興味あるわよ」
だって、義理の弟だもの。家族としてどんな子が義理の妹になるか気になるじゃない?
それに漫画の世界のヒーローだものね。
ヒロインの子は、ルトラール以外の男子生徒と仲よくしている様子なのよ。
どうやら婚約者のいる相手を好きになってしまったって話になっているみたい。それにしても婚約者がいるのならば、自分に好意を向けてきている相手と仲よくするのは駄目よね。
誠実じゃないわ。
そういうわけでその男子生徒の人には正直疑惑の目で一杯だったりする。
だってなんか、思うのだけど……、お相手がいる相手に恋をするって切ない恋みたいに描かれることがあるけれど、正直言って私はあんまり好きじゃない。
特に王侯貴族社会だと、婚約っていうのは個人の感情以外で結ばれていることも多いし。
私とアーミューは恋愛婚約だし、アーミューは私のために公爵家なんて継がないって言っているけれど。
そうじゃなければ、その家の夫人になるために婚約者側は備えているはずだわ。婚約期間が長ければ長い程、その人のために時間を使ったってことになるし。
だからもしその生徒がヒロインとの未来を考えるならさっさと婚約解消したほうがいいわよね。
私はそうなったら婚約者であった女子生徒に同情するけれど……。
うん、だって結局略奪愛みたいじゃない。その婚約者の方がよっぽど人の良い方だったら祝福して上手くまとまりそうだけど。でも例えば恋愛感情がなかったとしても婚約解消されたら、その分時間の無駄だったって令嬢側は怒っていいと思う。
特にヒロインのことを注目してみているわけでもない私でも、その噂が入ってくるぐらいだからよっぽど仲よくしているんだろうし。ルトラールには是非とも相手に誠実で有ってほしいわ。
「ルトラールは、婚約者が出来たらその子に誠実にするのよ? 遊んだりしちゃ駄目よ?」
「なんだよ。突然。俺はそんなことはしない」
「本当かしら?」
「ええ? なんで、俺不誠実だって疑われているの?」
「疑っているというか、やはり誠実であった方がいいと思っているだけよ。私、義理の弟が不誠実だったら嘆いちゃうわ」
「……いや、本当にする気ないけど、今完全にしないことが決まったよ。義姉上を嘆かせたら俺が兄上に殺されるから!! 良くて半殺しだよ!! 死んだ方がいいって目に遭わされるのを分かっててそんな馬鹿な真似は俺しないから。っていうか、うっとりしないで! どうせ自分が嘆いたら兄上はどう行動するんだろうって妄想してるんだろ」
「ふふ、その通りよ」
「うわー、本当に物騒だよ。義姉上も本当にこわいよなぁ」
だって私が少し嘆いたら、きっとその存在をアーミューはどうにかしようとしてくれるのよ。とっても素敵で、嬉しいことだわ。私の言動一つで、あまり表情を変えないアーミューの心が揺さぶられる。
うん、それだけで私はとっても幸せだもの。




