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王宮魔法師団を見学しているのだけど、私を睨んでいる人がいる。
多分あの女性が私のアーミューに懸想している人なのだろう。アーミューはかっこいいし、将来有望で……だから、私が傍にいるのが気に食わないのかもしれない。
しかし彼女は睨むだけで、アーミューが隣に居るからか私に対して話しかけてくる気配はない。一応、そういう空気は読めるみたい。
ただしばらくしてアーミューは王宮魔法師団の団長さんに呼ばれてしまった。その間、私はアーミューに与えられている研究室でのんびりと過ごす。
アーミューは「ウィネッサがきている時に呼ぶなんて」って嫌そうな顔をしていた。
研究室の中をきょろきょろと見渡す。此処はアーミューの仕事場の一つなのよね。とはいってもアーミューは学園にも通っているし、そこまでこの場所にいるわけではないだろうけれど……。
そんなことを考えていたら部屋をノックされる。
「はい」
「私は王宮魔法師団所属のデルハイケです。開けていただけますでしょうか」
……さっき睨んできた子かな?
いいわ。ついでに私のアーミューに手を出さないように言っておこう。
そう思って私は扉を開ける。
そしたら予想通り先ほど私を睨みつけていた女性だった。
「何か御用ですか?」
分かっているけれど、そう問いかけておく。
「アーミューさんにただの子爵家令嬢なんて釣り合わないです。貴方、アーミューさんのためにも身を引きなさい」
どうしてこういう人はこうやって上から目線なのだろうか?
自分の意見が絶対的だと思っていて、それがアーミューのためになると本気で信じている。周りがどうこう言うよりもずっと、本人が何を求めているかの方が重要なのにどうしてそれが分からないのだろうか。
「貴方、アーミューのことをよくわかってないのね? 私のアーミューは貴方のことなんか相手にしないし、私を手放すことはないわ」
「なっ……」
「アーミューは貴方のことを迷惑がっているわ。私のアーミューを困らせる存在を私は許せない。だから……アーミューを困らせるなら、殺すわよ?」
そもそもこういう女性がアーミューの周りにいると言うだけでも許しがたい。
アーミューはこういうのがあまりにもしつこかったら、多分排除するだろう。でも私のアーミューの手がこういう女のために汚れるのは正直言って望ましくない。
アーミューは「僕たちの邪魔をするやつは殺す」って王太子殿下に言い放ち、その許可も得ている。王太子殿下はアーミューが国外に出たり、アーミューを敵に回して国が損害を得るよりも最低限の被害で済むならそれでいいと思っているみたいだから。
「あ、あなた……アーミューさんの前では猫被っているのね? その本性を知ればアーミューさんは貴方と別れるはずだわ!」
「馬鹿なことをおっしゃるわね? アーミューは私の全てを愛してくれているわ。そして私もアーミューの全てを愛しているの。貴方が例えば私を傷つけたり、これ以上私の気分を害するならアーミューは間違いなく、貴方を殺すでしょうね。私も好き好んで誰かを殺したりなんてしたくないの。でも、貴方が……私のアーミューに馬鹿な提案をし続けるなら私は貴方を排除したくてたまらなくなるの。分かる?」
「ひっ」
「このくらいで怯えるぐらいなら、私のアーミューに近づこうなんてしなければいいのよ。私を殺してでもアーミューを奪うような覚悟がないなら。まぁ、仮に私を殺したところでアーミューは貴方の物になんてならないけれど。多分、アーミューは私が死んだら後を追うだろうし」
アーミューは多分、私が死んだら躊躇わずに後を追うと思う。だってアーミューにとってこの世界は私が居なければ何の価値もないものだから。
私がじっと見つめると、彼女は怯えたような目で何かを投げてきた。手でそれを払いのけたけれど、血がだらりと流れる。
「そ、そんなつもりは……でも貴方がっ」
私に怪我をさせるつもりがあったわけではないみたい。
ただ勢い任せに私の言葉に動揺して投げたみたい。
それでも……、
「僕のウィネッサに何をしているの?」
言葉だけならともかく、私に怪我させた存在を戻ってきたアーミューが黙ってみているわけはなかった。
私はただ少しだけの傷なのに丁重に、大げさなぐらい手当された。
ちなみにあの女性は、殺されはしなかった。ただ死んだ方がましだってぐらい、アーミューがトラウマを植え付けたみたい。最初は殺そうとしたけれど、周りに止められてその程度におさめたそう。
王宮魔法師団を退職して田舎に帰ったそうなので、もう姿を見ることもないだろう。
そもそもアーミューと私に怯えてもう近づく気配もないみたいだし。
ダフネさん曰く、この一件もあってアーミューに近づく人は少なくなったそうなので結果オーライだと思う。




