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「君たちは本当におっそろしい会話をしているね? とりあえず手を出したらやばそうな君たちに手を出す気はないから。時折、交流は持ちたいけれど」
「……邪魔しないでください。そして交流はいりません」
「アーミュー、そうはいっても私と交流を持っているというのは今後のためになるんだよ? それに私も君たちと関わっておきたいし」
王太子殿下はなんというか、さっぱりしているというか、割り切っているというか。
私たちのことも受け入れて楽しそうに笑っている姿は王の器なんだな、などと思った。
でも私とアーミューのことを受け入れて、私たちに手を出さないというのならばこの王太子殿下は私たちの敵では決してない。
多分、アーミューもそう思ったのだろう。
「……分かりました。ただ僕は僕たちに手を出す連中には容赦しませんよ?」
「それは別に構わないよ。最低限節度は守ってほしいけれど、私も眠れる竜を起こしたくはないからね。そういうのは起こした奴が悪いんだから。……ほら、ミーガレタ。謝るんだ」
「……も、申し訳ございませんでした! 私が、け、軽率でした! アーミューとウィネッサはとてもお似合いです!!」
何とか震えたまま、王女殿下はそんな言葉を告げた。
アーミューのことを怒らせてはいけないと思ったみたい。
アーミューの魔法がやんで、ルトラールはほっとした様子を見せている。
「……というか、クロヴィエ殿下、わざとミーガレダ殿下を連れてきましたね? 兄上がどんなふうに怒るか見ておきたかったんでしょう」
「ははっ、そう怖い顔をするな。ルトラール。有能な臣下がどういう性格なのかを把握するのも王になる者の定めだろう? アーミューが何処で怒りを爆発させるのか、そういうのを知っておきたかったんだよ」
本当に良い性格をしているなぁ……なんて思って、王太子殿下を見てしまったら、目が合った。
王太子殿下がにっこりと笑う。
そうしたらアーミューに目を塞がれた。
「ウィネッサ、もう戻ろうか? 挨拶は終わったからね」
「ふふ。そうね。アーミュー」
それにしても私が王太子殿下を少し見ていたのもアーミューは嫌だったみたい。可愛い。本当にそういう心が狭いアーミューが、私は好きだなと思う。
「もう行くのかい? 私はもう少し君たちと話したいんだが」
「失礼します。僕はウィネッサと過ごすのに忙しいので」
「私も失礼しますわ。本日はお目にかかれて幸いでございました。王太子殿下、王女殿下」
何だかんだ王太子殿下は私たちが下がるのを強制的には止めなかったので、そのまま私たちは客間を後にした。
それにしてもあの王太子殿下、終始楽しそうに笑っていたわね。
漫画の世界だと、あんなふうな性格をしているようには見えなかったけれど猫被っていたのだろうか。それか、私も漫画を最後まで読めてはないので後半にそういう性格が出ていたのかもしれないけれど。
「ウィネッサ」
私がそんなことを考えていると、アーミューに声をかけられる。
アーミューの方を見れば、アーミューが熱いまなざしで私のことを見ていた。
「王太子殿下のことを考えている? やっぱり殺した方がいい?」
「殺さなくていいわ。……前に言った物語に、王太子殿下が出てたなってちょっと思っただけ」
「ふぅん」
「本当にそれだけよ。ねぇ、アーミュー。私はアーミューのことを世界で一番考えているわ。だからね、アーミュー。私がアーミュー以外のことを考えていたら、私の頭がアーミューでいっぱいになるように、沢山キスをしてくれていいんだよ?」
そう言って笑いかけたら、アーミューに口づけを落とされる。
私もアーミューが私以外のことを考えている時は、沢山キスをして、私という存在でアーミューをいっぱいにしようかな。もちろん、アーミューの心を本気で奪う人がいたらその存在を私は排除するけれども、ちょっと考えたぐらいだったら私自身を使ってアーミューの頭を一杯にしてあげた方がいいもの!!
そうやって私は過ごして、すっかり王太子殿下と王女殿下のことは頭から消え去っていたのだった。
だけど、一週間後にルトラールが王太子殿下からの手紙をアーミューに、王女殿下からの手紙を私に渡してきた。アーミューはともかくとして、私は王族と今後関わらないだろうと思っていたので驚いた。
ちなみに当然のようにアーミューは王太子殿下からの手紙を私に見せてくれたので、私も王女殿下の手紙を見せた。
王太子殿下からの手紙は、今後の付き合いについてなど。あとはある出来事に対する意見を聞きたいとかそういうの。ついでに見透かしている王太子殿下なので、私がアーミュー宛の手紙を見ることは分かっていたみたいで、最後に一文私宛のものも書かれていた。
王女殿下の方は私がアーミューに手紙を見せると思っていなかったみたいで、アーミューが怖かったこと、あのアーミューと婚約者でいるのが凄いことを尊敬していることなどがつづられていた。あと女性だけしか入れない場もあるから、そういうところでは味方になってくれるとのこと。
そういうことが書かれていた。




