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王族の方がやってくることになって、私はとても緊張していた。
だけどアーミューはいつも通りの様子である。私が緊張している様子を見て、アーミューは「緊張しているウィネッサも可愛いね」といってにこにこと笑っていた。
王族がやってくるからと、アーミューは私のことを思いっきり着飾ることにしたみたい。
アーミューってば、王族に会わないようにしようとしていたのにいざ会うと決めたらその準備をちゃんとしようとしているみたい。
それにしてもアーミューってば、私のことばかり着飾ろうとしているけれどもアーミューのことも私は着飾りたいんだからね!
そう思って、私もアーミューのことを沢山着飾るために色々選ぶことにした。
……というか、アーミューってば私を着飾らせるためのドレスとか、アクセサリーとか山ほど持っているのだけど。自分のは?
「アーミュー、私、アーミューのことも着飾りたいわ」
「もちろん。着飾ったウィネッサの横に並び立つのに違和感がないようにはしないと」
「ふふ、私の方がアーミューに釣り合うように着飾らないと。アーミューのことは私が素敵にするわ」
なんだろう、こうやって好きな人のことを自分好みに着飾るのってとても楽しいわよね。
アーミューが私が選んだものを着て、それで嬉しそうににこにこと笑っていてくれることが私は嬉しい。
そして王族がこの公爵邸を訪れる日がやってくる。
王族が私たちに会いにくるんだと思うと、ドキドキして、緊張して仕方がない気持ちになっている。
「緊張しなくていいよ。ウィネッサ。僕が居るからね」
「ええ」
それにしてもアーミューが隣にいることはどうしてこんなにも心強いのだろうか。アーミューがいるだけで、私はどういう相手と向き合ったとしても問題がないってそう思える。
「アーミュー」
私が名前を呼べば、アーミューは私に口づけを落としてくれた。
とっても幸せな気持ちになる。
私の身体はまだ子供だから、身体の関係はないけれど……、身体が大きくなったら早くアーミューに奪ってもらいたいなぁなんて思う。
だってキスをするだけでもこんなに幸せなのだから、きっと完全にアーミューのものになれたら私はもっと幸せな気持ちでいっぱいになると思う。
「アーミュー、大好き」
「僕もウィネッサのこと、大好き」
私の言葉にアーミューが答えてくれて、ルトラールが呼びにくるまでの間、ずっとアーミューと口づけを交わしていた。
ルトラールに「兄上と義姉上は……本当に王族が来ようともいつも通りだよね」って呆れた様子で言われたけれど。
私はアーミューにエスコートされながら、屋敷の外に出る。
もうすぐ王族の方が来るから、お出迎えしなければならないのだ。今日はちょっと日差しが強いから、侍女が日傘をさしてくれている。
少し待っていると、馬車が目の前にとまる。
王族専用の馬車だからか、国旗が描かれていてとても豪華だ。それに馬車を引いているのも普通の馬ではなくて、王族のために育てられた魔力を持つ生物みたい。
……後からそれが空も飛べて、馬車も空を飛ばせるって聞いて流石ファンタジーだなと思った。もちろん、普通の生物ではそういう馬車を引けないらしいので、これは王族限定だろうけれども。
そしてその馬車から降りてきたのは一人の少年と少女である。
少年の方は漫画の方でもルトラールの友人として出ていた王太子殿下だ。少女の方は漫画にはいなかったけれども、名前だけ出ていた王女殿下だろうか。
それにしても漫画の世界でも美形だなと思っていたけれど……、王太子殿下って見た目が本当に整っている。でも私のアーミューの方が私にとってはかっこいいけれど。
あまり王太子殿下のことばかり見ていたらアーミューが嫉妬しちゃうから、簡単に挨拶をしてアーミューの方を見る。
それにしても王族への挨拶ってこれで大丈夫かしら? 不安にはなったけれど、アーミューはにこにこしているし、ルトラールも何も言わないので問題がないかな?
そして王族を迎え入れた後、客間の一室へと向かう。
私はいつもアーミューの元へと直行していたから、こういう客間に入るのは実は初めてだったりする。
「アーミュー・スドリウィン。ウィネッサ・ミヨーワ。会えて嬉しいよ。私はクロヴィエ。よろしく」
王太子殿下はにこにこと笑っているけれど、その隣にいる王女殿下は……何だかアーミューのことをキラキラした目で見ていて少しだけ嫌な予感がする。
「私はミーガレタ! 貴方、アーミューというのね! とっても綺麗だわ!! 私の物になりなさい!!」
アーミューの見た目を気に入ったらしい王女殿下がそう言った瞬間、その場の空気が固まった。
「お、王女殿下! そういう戯れはやめましょうね。兄上、王女殿下は冗談を――」
「冗談じゃないわ! そんな子より、私の傍に居た方が得よ! 貴方、公爵たちから疎まれているんでしょ。私が居れば――」
あ、ルトラールが頑張って冗談で済ませようとしたのに王女殿下が火に油を注いだ。
王女殿下の言葉は、それ以上紡がれなかった。
その場を冷気が支配している。
アーミューの冷たい魔力が、その場に充満する。
アーミューは私にその魔力で影響がないようにしてくれているのか、私は全然寒くない。こういう場面でもそういう気遣いが出来るアーミューを愛おしく思う。
「ひっ」
悲鳴を上げて、座っていたソファに倒れ込むのは王女殿下だ。
アーミューのその冷たい魔力と、そして刺すような視線に耐えられなかったらしい。
「あ、兄上!! ちょっと、待って!! 王女殿下には俺から言い聞かせるから!! だから、王族に手を出すのはやめて!!」
「証拠を残さず消せばいい。それか、俺たちに手を出さないように洗脳するか」
「物騒なことを言うのはやめてってば!! あー、もう!! これだから兄上たちを理解しない者と会わせるのは嫌だったんだよ! そして、義姉上!! こんな状況で兄上をぽーっとしてみないでよ! 義姉上が一番兄上を止められるんだから止めてよ!」
私のアーミューは私をいつも気遣ってくれるわと嬉しくなっていたら、それをルトラールに見破られていた。
それにしてもルトラールは必死ね。
アーミューは多分脅しているだけよ。本当に王族をどうにかする気ならもう王太子殿下たちの首は繋がってないと思うわ。
「くはははは」
ちなみにこんな状況で大爆笑している王太子殿下は本当に、肝が据わっていると思うわ。




