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「初めまして、僕はアーミュー・スドリウィン。よろしく」
美しい銀色の髪に、無機質な赤い瞳の少年。
美しい少年。だけれどもその顔は無。こちらに対する興味や関心などもないようなそういう様子が見て取れる。
子供らしくない子供。
人によっては、不気味だと思えるような作りもののような人。
私はウィネッサ・ミヨーワ。ミヨーワ子爵家の娘である。
今回、公爵家で行われるお茶会に私はお父様に連れられてやってきていた。これは公爵家の次男であるルトラール様のためのお茶会だった。
……私の目の前にいる美しい少年、アーミュー様は公爵家の長男である。
本来ならば次男よりも尊ばれる立場であるはずの存在。だけれども、その家庭環境は複雑だ。ということを私は前世の知識で知っていた。
――その存在から挨拶された瞬間、私はこの世界が前世で読んだ少女漫画の世界だと気づいた。
その漫画のヒーローはルトラール様。そしてヒロインは、伯爵家の次女だったと思う。
そしてアーミュー様は、その漫画の中において過去の話として出てくる方だった。
『俺には兄上が居たんだ。俺は兄上のことが好きだった。でも兄上は自殺してしまった。俺はそれから周りが兄上に酷い態度をしていたことを知ったんだ。俺が大切にしていた人たちは兄上を大切にはしてくれなかった』
――たしかそういうことを漫画の中のルトラール様は言っていたと思う。
そう、目の前にいる美しい少年は、漫画の世界では自殺する。
何を考えて、どういう気持ちで自ら命を絶ったのかというのは漫画では推測でしか語られなかった。
アーミュー様は、あまりご両親に似ていない。先祖返りの見た目と、何を考えているか分からない瞳。子供らしくない様子にご両親に疎まれている。その態度が伝染して、使用人たちもアーミュー様を敬わない者が多かったみたいに漫画では描かれていた。
ただ私が招かれたお茶会でも、アーミュー様はのけものにされていた。アーミュー様はお茶会の場にはいなかった。病弱とか、色んな理由をつけてお茶会にも出させてもらえていなかった。私はたまたま離れに迷い込んで、アーミュー様に出会った。
「私はウィネッサ・ミヨーワです」
私はそう答えながらも、この目の前にいる美しい少年が自殺してしまうのは嫌だと思った。
それに私は綺麗なものが好きだから、アーミュー様の見た目に見惚れてしまったというのもある。
――この人が死んでしまうのは嫌だ。
この人が大人になった時を私は見たい。
私はただそう思った。
私は前世も含めて自殺をしたことがない。自殺をする人の気持ちが理解できるかといえば、本当にそれをしたことがない私は理解が出来ないだろう。
そもそもの話、自殺する理由なら人それぞれの理由があって本当に理解出来るわけなどない。
貴方を理解出来るとか、貴方を救うとか、そういう傲慢な考えは私には抱けない。
――でも生きていたいと思わせることは出来ると思う。
ご両親たちに疎まれ、ヒーローであるルトラール様と対照的に褒められることもなかったと書いてあったから、なら私が精一杯アーミュー様のことを褒めよう。
褒められて嫌な思いをする人はあんまりいないと思う。もちろん、人によっては褒められることも嫌な人もいるかもしれないけれど……でも、褒められないよりも褒められた方が良い。
言葉というのは言霊だ。その口から放たれる言葉には良い意味でも悪い意味でも影響力がある。私は少なくともそう思っている。
「アーミュー様って、とってもかっこいいですね!」
私はただの子爵家の娘だし、ルトラール様のためのお茶会がなければ、そして我が領地が公爵家から近くなければ公爵家になんてこれはしない。
だからアーミュー様とずっと関わり続けることなど多分出来ない。
でも折角出会ったのだから、この世界が少女漫画の世界だと気づいたのだから行動はしたい。
そう思った私は初対面にも関わらずアーミュー様のことを褒めまくった。もちろん、嘘は言っていない。本心をただアーミュー様に告げた。
アーミュー様は表情一つ変えなかった。
私の言葉は届いていないのかもしれない。でもそんなのはお構いなしである。
私はルトラール様のために開かれるお茶会に招待される度に、少しだけ抜け出してアーミュー様を褒めまくった。
ちなみに公爵家の中にもアーミュー様を気にかけている使用人は少しはいるのか、その使用人たちは私がアーミュー様の元へ行くのに協力的だった。
「……どうして、ウィネッサは僕のことをそんなに褒めるんだ。僕にこびても公爵家は手に入らないぞ」
「公爵家を手に入れるなんて! 私は子爵家の娘でしかないので、そんな大それたことは考えませんよ。私はただアーミュー様と仲良くなりたいですし、アーミュー様がとっても素敵だって思っているだけです!!」
何度目かの邂逅の時にアーミュー様に言われた言葉に、私はそう答えた。
短めで終わる予定なので投稿しています。