アホ毛との遭遇
『ねぇ、聞きまして?例のリナリア公爵令嬢』
『えぇ、入学式の前に王女殿下にたいそうな無礼を働いたそうだとか』
『でも、王女殿下が慈悲をくださってお許しくださったんですって』
『けどしつこく突っかかって入学式会場から締め出されたんですって』
令嬢たちが噂している。そう、ヒロインちゃんはかわいそうなことに私を“我儘王女”だの“殺される”だの言いまくり、さすがに不敬だとして締め出されてしまった。これから教員たちにこってり搾られ保護者を呼んで叱られるらしい。
その後私は親しくしている令嬢たちと一緒に入学式に出席し、生徒代表としてあいさつした。そして式が終わりさて帰ろうと思ったところに、私の前に立ちはだかったアホ毛。―――いや、違う。久々に会うその人物は!
紺色の髪にオレンジレッドの瞳。アホ毛は相変わらずなものの、15歳に成長したレオス・スォードは、騎士らしい凛々しい表情になっていた。
原作ゲームを知らなかったら、一瞬誰だかわからなかった。危ない危ない。
「あの、お久しぶりです。レオス・スォードさま」
「はっ、俺を覚えていたか。イェリン王女殿下」
えぇ、奇跡的に。ゲームでの姿と同じだったもの。あと、アホ毛があって助かった。あのアホ毛のおかげで誰だかわかるもの!
「入学早々、騒ぎを起こしたと聞きました」
「ちょっとした手違いです。問題ありませんわ」
「そして、婚約者でもない男と抱き合っていたとも」
「婚約者はいませんし、別に問題ありません。彼は体を呈して私を守ってくれた護衛です」
「あぁ言えばこう言いうとはまさにこういうことを言うのでしょうね」
「えぇっと、何をおっしゃりたいのでしょうか」
「あなたは、あなたのせいで俺がどんな目に遭ってきたかご存じないようですね」
「はぁ」
いや、興味ないし。私の周りをウロチョロしなければ別に眼中にないけど。
「あなたがあの日、俺をぼろくそに言って拒否したせいで、本来ならば婚約者になるはずが外れ、さらには辺境や国境に追いやられました」
「いや、王女の私の婚約者はお父さまが決めることですし、そもそも、辺境や国境で鍛えられるなんて騎士としてとても名誉なことです。そこで鍛えて腕を上げることの何がいけないのですか?そもそもお兄さまの側近になられたのですよね。お兄さまの護衛として、そちらで培った経験がお役に立つのではありませんか?」
「んなっ」
一兵卒のくせに私の婚約者になれただなんておこがましい。こんな薄情な浮気男はごめんである。大体、初対面からものっそい偉そうで態度悪かったのよ?前世の知識がなくても嫌だっつの。
お兄さまの元―掃きだめ―に追いやったのだから、そこで大人しくして手ちょうだいと言いたい。
「申し訳ありませんが、これから王女としての仕事がありますので」
「我儘王女が仕事だと?」
誰からそんなこと聞いたのかしら。ヒロインちゃんかしらね。確か入学イベントはレオスとヒロインちゃんにもあったはず。あれ、でもそれって私にぶつかったヒロインちゃんをレオスが庇うんじゃなかったっけ。―――ってことは、あの時それをレオスも見ていて、ヒロインちゃんの言葉を真に受けたのね。それもヒロインちゃんチートだろうか。
ならば、ジオが私を抱きしめたのも見ていたのよね。
「これ以上は、王女である私への侮辱ととります。失礼します」
私はさっと身を翻し、颯爽とレオスの前を後にした。ふん!文句があるなら、ウチのルシウスでも倒してから来なさいよ!
そして入学式会場を出れば、颯爽と歩いてくるフェリスお姉さまが遠くに見えた。その後ろにはヒロインちゃんであるユリアが続いている。そして私と視線が合うと、キッと睨んできた。
―――あぁ、こってり搾られたから?自業自得だと思うんだけど。私のせいにしないで欲しい。てか、迎えに来たのは公爵じゃなくって異母姉のフェリスお姉さまかよ。
やっぱり浣腸しておくんだった、リナリア公爵。




