学園入学
―――さて、推しとの再会から早2年。私は15歳になった。ジオは17歳。ショタコンは22歳である。
私が15歳になった時、実は原作の乙女ゲームの第1シーズンが開幕するのである。ここで、第1シーズンについて紹介しよう。
まずはヒロインちゃん。
【ユリア・リナリア】
リアが多すぎなのは気にしない方がいい。彼女は実母を亡くし、15歳の時にリナリア公爵の隠し子として公爵家に引き取られた。そこで悪役令嬢である異母姉に虐められながらも健気に頑張る彼女は聖女として目覚める。
―――いや、その前に15歳で公爵家に引き取られるって。その前は平民だったわけだし。大丈夫かな。公爵家だよ?いきなり貴族のトップって。リナリア公爵、何考えてやがる。浣腸をしても許される年齢の内に、やってやればよかったと今でも思う。
続いては攻略対象だ。
【リアム・ソアレス】
私の兄で第1王子、王太子。表面上は完璧王子だが、私にとっては憎むべき相手。セシルに手は出させない!
【レナト・リナリア】
リナリア家の跡取りとして引き取られたリナリア公爵家一門から招き入れた養子。子どもの頃から悪役令嬢フェリスとは仲が悪い。その上、ユリアとは幼い頃を共にした幼馴染みである。そのため、ユリアが公爵家に引き取られてからはユリアの味方になる。
【レッカ・ブレイズ】
彼は宰相の息子で魔法も剣も得意なお兄さまの側近である。
【レオス・スォード】
私の婚約者となるはずだったが、その話は亡くなった近衛騎士団長の息子。何と今まで辺境や国境地帯に派遣されていたらしい。最近知った。これから私との関係を修復してほしいと言うのがお父さまの願いなのだが、私は徹底的に拒否り続けたため、お兄さまの側近になった。因みに、ゲームの中の彼は途中で私からお兄さまに乗り換えるので、最初からやっとくに越したことはない。
【ジオ・ノワール】
彼は隠しキャラで暗殺者。でも今は私の侍従である。
そして、ライバルキャラはひとりが私、もうひとりは、
【フェリス・リナリア】
リナリア公爵令嬢で、お兄さまの婚約者。将来は王太子妃になる予定である。彼女のゲームでの立ち位置は悪役令嬢であるが、私の印象は普通にカッコいいクール系な美しいお姉さまである。
この中で、私よりも1学年上なのがお兄さま、フェリスお姉さま、そしてレッカである。
その他は私と同い年。あとジオは私よりも2歳年上。
学園までは王城から馬車で送ってもらう。因みに生徒会に属しているお兄さまの出発は早いので、馬車は別々だ。
私は大体ルシウスとジオに付き添ってもらって学園に向かうことになる。二人を中心に、学園でも陰ながら護衛をしてくれるらしい。
ルシウスがショタコンな部分を除けば、ジオがいてくれるのは心強いのである。
さぁ、これから入学式だ!
「きゃあああぁぁぁぁっっ!」
え、悲鳴!?
何かが、ピンク色のものが、私に突進してくるううぅぅ―――っっ!!?ひいいいぃぃ―――っっ!!!
トンッ
しかしいつまでたっても衝撃が来ることはなかった。恐る恐る目を開ければ、そこには逞しい背中があった。
「ジオ!」
「ご無事ですか、イェリンさま」
「う、うん!それよりも」
私は、ジオに突き飛ばされたと思われる女子生徒に目を向けた。セミロングのピンクの髪を持つ少女は、むくりと起き上がる。
まぁ、いきなり王女に突進してきたらこうなるのは当たり前だけども。
「あの、大丈夫ですか?走ると危ないですよ」
しかし、ここは王女。国の模範となるべき。私は彼女に手を差し伸べた。
「あ、そんな。うそでしょ?」
彼女は顔をあげ、そのローズピンクの目を向けた。手を差し伸べた私ではなく、ジオに。そしてそのぱっちりおめめとかわいらしい顔は、ヒロインちゃんことユリア・リナリア―――ッッ!!!
「ジオ!ジオさまだわ!何で隠しキャラのジオがもうここに!?やだ、嬉しい!ジオさまっ!」
ユリアはすっくと立ちあがり、一気にジオに詰め寄った。
「―――誰だ、お前は」
ジオの表情が歪む。
「私、ユリアです!あなたの運命の相手ですよ!」
あちゃー。そう、だった。ジオはやがて、ヒロインちゃんと出会って恋に落ち、そして夢中になってしまう。やっぱり、運命には逆らえないか。私が暗殺されるのは、原作ゲームでの私の我儘な性格とヒロインちゃんへの嫌がらせが原因である。私はそうならないように尽くしてきた。だから今後は、ヒロインちゃんと関わらなければ問題ない。それにルシウスだってついている。途中で裏切るレオス・スォードのやろうとは違う、ショタコンだけれど頼れる私の騎士である。
だから、私は。
「さようなら、ジオ。幸せに、なってね」
そう言って私はジオに背を向けた。今まで、推しのジオと過ごせて幸せだった。本来は許されない、運命を逸脱した時間。
ジオと過ごして、一緒に笑って、色んな話をして、色んなジオを見られて幸せだった。私の幸せは、きっとゲームの開始と共に終わる運命だったのだ。
―――だから、さようならを言おう。
「まっ、待ってください!イェリンさま!いや、イェリン!」
「えっ!?」
私は、後ろから抱きしめられた。耳元に、ジオの吐息がかかる。な、何このシチュエーション!?
「どう言う、ことだ」
「だ、だって、ジオは運命の相手に、出会ったのだから」
ヒロインちゃんと出会ってしまったのだから。
私は、ジオと一緒にはいられないでしょ?私はラスボス王女なのだから。
「俺の運命は、イェリンしかいない!」
「え、いやいや、私は、そのっ」
「俺の世界には、イェリンしかいないんだ。ずっとずっと、イェリンしかいない。だから、行くな。どこか行こうとしても、逃げようとしても、絶対に逃がさない。イェリンは俺のものだ」
えええぇぇぇっっ!?ジオってこんなキャラだったっけ!?いつでもクールなんじゃなかったっけ?でも、そんなジオも何だかカッコイイ!惚れてまうやんけっ!いや、もう惚れてるけどね!
しかし、そんな私たちの空気を切り裂いたのは、ヒロインちゃんの声だった。
「ちょっ!?何で!?どう言うことよ!その女は王女のイェリンでしょ!?何でジオがイェリンに抱き着いてるの!?イェリンは、ジオに殺される我儘王女じゃない!」
そう言うヒロインちゃんは、私と同じ転生者なのだろう。そうしか考えられない知識ばかりほざいてんじゃないの。




