闇魔法を求めて
―――その後、フローライト子爵令嬢ことファナ嬢は神殿に閉じ込められ、徹底的な再教育が施された。二度と王族へ危害を加えるなどと言う軽口を叩かぬように。
聖女じゃなければさすがに処刑もあり得た。ただ、やったことがただのヘッドアタックだったからまだシュラバで口が滑ったてきな感じで収まっただけ。それでも彼女が私に危害を加えようとした事実は消えないし、その発言も消えないので、実家のフローライト子爵家が爵位を準男爵に下げられ、領地や財産の没収が行われた。
聖女だからと言って甘いのではないかと思われるかもしれないが、これは最終通告である。もしも彼女があの時明確に危害を加えられるような武器を持っていれば間違いなく処刑であったし、それでも彼女が諦めないのであれば今度こそ処刑は免れないだろう。あと、一度忠告した以上、王太子のセシルに手を出しても同様である。
彼女は聖女であることをことさらに強調していたが。はて、そう言えば何故聖女やら光の巫女が必要なのだっけと考えてみれば、その理由は私が闇堕ちするからだ。闇堕ちした私を倒すためにその力が必要なのだ。
因みに、暇と平穏を持てあましていた2年次に、私は原作通り闇魔法が使えるのかを試してみた。その結果、私は闇魔法が使えることが明らかになったのだ!
しかしながらマスターできた魔法と言えば、“ブラインド”のみである。これは単なる目くらまし。もしもの時の護身術にも使える代物だ。
闇魔法と聞くと誰もが恐そう、違法などと想像するかもしれないが、決して闇魔法と言うのはそんな恐ろしいだけの代物ではない。
魔法と言う不可思議な力は、闇魔法でなくとも使い方を誤れば恐ろしいものなのである。例えば火の魔法を使って燃やしてはならないものをを燃やしたり、土の魔法を使って大地をめちゃくちゃにしたり。魔法を使えば色々な犯罪行為を行える。それは闇魔法に限ったことではない。
だから、私が闇魔法に適性があると知った両親は、徹底的にそれをコントロールできるように、数少ない闇魔法の講師を付けてくれた。
その結果使えるようになったのがブラインドだけなのだが。
隣で講義を見ていたジオの方が、夢渡り、幻影、影渡りなどの高位闇魔法をマスターしており講師の先生が感動していた。
あれ、ジオってそのー。原作ゲームは闇魔法使いだったっけ??そう言えばゲームでジオの魔法属性は明らかになっていないけれど、暗殺者で暗殺術を駆使して活躍していたと言うことは、多少は闇魔法に適性があったのだろうか。
その事実にも、まず驚きである。
そんなわけで、私よりもむしろジオがラスボスなのではと思いつつある昨今だが、闇堕ちする私がいない以上、そんな聖女と言う立場で威張られても困る。
魔王が存在するわけでもないし、魔族が存在するわけでもないこの世界。私が闇堕ちしなければ聖女と言う特殊ジョブも活躍の場はないはずだ。治療魔法も使える魔法使いはたくさんいるのだから、別に聖女じゃなければいけないわけではない。
聖女が現れれば神殿としては代々の伝承と慣例に則り聖女を庇護すると言うだけなのだから。
「―――もう何も起こらないといいけれど」
「イェリン?」
今後のことを考えて昼間から学園の庭園で黄昏ていた私に、ジオが声を掛けてくる。何だか最近は二人きりの時に限り、ジオも私を“イェリン”と呼んでくれる。あぁ、推しにそんな呼び捨てで呼ばれる日が来るなんて。
「どうした、先ほどから」
「いやぁ、ジオと出会えてよかったなって」
「―――それは、俺もだ」
「そう?私、いいご主人さまとしてやっていけてるかな?」
「イェリンは、そうだな。でも、いずれは―――」
―――ん?最後の方がよく聞き取れなかったのだけど。
突然、ジオの表情が変わり、私をばっと後ろに庇うと、ルシウスまでいつの間にか私の前に躍り出ていた。その先にいたのは。
「見つけたわ!悪役王女・イェリン!!」
うっわぁ、聖女ファナ・フローライト嬢?神殿で謹慎中じゃなかったの?いつの間に、どうやって抜け出してきたのか。それもヒロインチートか何かだろうか。いや、そんなヒロインチート必要!?しかも、ものすっごい破滅臭纏ってきたんですけど。
しかも、いかにもな黒ずくめのひとたちを伴ってきたんだけども。
ブラインド使う?いやでも黒ずくめさんたちの目元は元々ブラインドだから無理かも。ぐえっ。