王女と変態騎士
―――それは、ソアレス王国第1王女・イェリン12歳の時のことであった。
ソアレス王国第1王女・イェリンこと私はお父さま譲りのインディゴブルーのロングヘアーにお母さま譲りのお月さまのような金色の瞳を持つ美少女である。自分で言うのはなんだが美少女である。将来も美少女に成長する。
「イェリン、この子が、お父さまの一番の騎士・アイザックの息子で将来有望な騎士だ。この子をイェリンの専属騎士にするつもりなのだが、いいか?」
私・イェリンのお父さまであり、ソアレス王国国王ローウェン・ソアレスは私と同じインディゴブルーの髪にオーシャンブルーの切れ長の瞳を持つ美男だ。娘の私が言うのもなんだけど、その長男次男がイケメンに成長するが故に、お父さまも目鼻立ちが整った美男である。そんな私のイケメンダディが連れてきたのは、近衛騎士団長・アイザック・スォードの息子であるレオス・スォードだった。
レオス・スォードは私よりも1歳年上のお兄さん。紺色の髪にオレンジレッドのきりっとした瞳。頭の上には何故かアホ毛がぴょいーんと伸びているが、目鼻立ちは13歳時点でもめちゃくちゃ整っているイケメンである。クールで滅多に笑わないイケメンである。アホ毛伸びているけども。
本来なら、この瞬間レオス・スォードは私の騎士となる。そして将来的には私の婚約者となるのだ。しかしながら私は嫌だった。だってコイツ、将来私を裏切って見殺しにした挙句、ヒロインで聖女のユリアに懸想するんじゃない!こんな浮気男、今からでもお・こ・と・わ・り!
「い、やっ!!」
私はお父さまの前で堂々と言ってやった。
それにはお父さまも近衛騎士団長アイザック・スォードも唖然としていた。あのクールイケメンなレオス・スォードまで呆然としていた。因みにアイザック・スォードもレオスと同じ紺色の髪にオレンジレッドの瞳を持っているがアホ毛は伸びていない。そして筋肉の付きがまだまだのレオスに対して、アイザック・スォードは結構いい感じのマッチョイケメンだ。そんなマッチョ筋肉でさえ、私の言葉に呆然としているようだった。(※但し筋肉の気持ちについては私の妄想を含む)
「私は絶対いやよ!」
「いや、だけどな。護衛は必要だぞ?」
そりゃそうだけども、レオス・スォードだけはぜぇったい嫌!
「ん~、まぁ、お前がそこまで言うならなぁ」
そのお父さまの言葉に、アイザック・スォードはちょっと言いよどみながらもぐっとこらえた。
「じゃぁ、誰がいい?」
そう、お父さまが問うてきたので、私は周りの近衛騎士たちを見渡す。そして、無難そうな好青年を選んだ。
スイートブラウンの髪色にモスグリーンの落ち着いた瞳を持つ美青年である。背はすらっと高くて細身、その立ち姿もさることながら、爽やかに微笑むその笑顔はっ!攻略対象じゃないもののなかなかのイケメンであり、そしてレオスのようなぶすっとしたいけ好かない表情じゃない!
一番は彼から漂ってくる柔和な雰囲気!あぁ、傍にいてくれてぎすぎすする護衛なんて嫌!どうせならそばにいて落ち着く人がいい。
私は迷うことなく彼を選んだ。
「このひと!」
「え、ルシウスがいいの?本当に?」
ルシウスって言うのね。
「えぇ!私、レオスなんかよりもルシウスがいいわ!」
その言葉に近衛騎士団長アイザック・スォードがくらっと来ていた気がするものの、私の満面の笑みを見たお父さまはとうとう折れてくれたらしい。
「それでは、イェリンの専属護衛騎士はルシウスに任せるよ」
「御意」
お父さまのお言葉に、ルシウスが恭しく騎士の礼を取った。
よし、第1段階はクリアね。見事にレオスが私の専属騎士になってゆくゆくは婚約者になると言うフラグを私はこの時、見事に叩き折ったのであった。
しかしその後、その選択が正しかったのか。私は苦悩することになる。