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呪いの傀儡 1

 理由を聞いたミクリは不満そうに頬を膨らませます。


「ええー、ひどい! リノさんの横暴だ!」


「そう言わないの。あなたがリノに迷惑をかけたのは事実でしょう?」


「それはそうですけど……。もしリノさんが別の人を指名したらどうしていたんです?」


「そうねえ。やっぱり貴方かしらね。だってミクリ、3K好きでしょう?」


「き――」


「好きでしょう?」


 嫌いと言おうとしたミクリの台詞を遮るように被せるアキ。


 そのほほ笑みには確かな圧がありました。


「はい好きです!」


「期待してるわよ」


「うへえ、頑張りまーす」


 ミクリは肩を落としながらも片腕を上げて決意を表すのでした。


 そんな彼女に対してアキはねぎらいの意を込めて語りかけます。


「でもねミクリ。私は貴方に感謝しているのよ」


「え!? 本当ですか!?」


 食い気味で顔を近づけるミクリ。


「ちょ、近い近い。リノから聞いたわ。カレンが貴方と一緒に悪ふざけをしたって……。私は驚いたのよ」


 普段から出来た大人達(・・・・・・)に囲まれているカレン。


 彼女は自然と「常に良い子であること」や「大人が喜ぶこと」、「理想の子供像」を演じるようになりました。


「ほら、私は普段あの子にあまり構ってあげられないでしょう? 母親としては聞き分けがよくて助かるのだけれど……同時に心配もしていたの」


「心配ですか……?」


「そう。あの子に親の都合を押し付けているのではないかっていうね」


 アキは未だに娘と喧嘩をしたことがありません。


 たまに会った際に何かを言いつければ、決まって返事は「はい」ばかり……。


「それって張り合いが無いと思わない?」


「奥様はカレンお嬢様と喧嘩がしたいんですか?」


 アキの考えていることが理解できず、いまいちピンとこないミクリ。


 思わず質問で返しました。


「ええ! したいわ! 娘と大いに意見をぶつけ合う……。そんな日がいつか来るといいなあ。でも当然、勝つのは私だけどね」


「あははは……」


 ミクリは苦笑するのでした。




 さて、二人は目的であるF棟の正面へ到着しました。


「ここね。サーヤが怪しいって言っていたのは……」


「はあ、はあ、遠かったー」


 肩で息をするミクリ。


 アキに促されて、玄関口の脇に設置されたカードリーダーへ魔法を掛けます。


 自動ドアがウィーンと開きました。


「ちょっとミクリ、貴方運動不足なんじゃない?」


「いや、奥様が元気すぎるんです。それに私はこんな大荷物を持っているんですよ」


 二つのボストンバッグを肩から斜めにクロスさせ、さらにキャリーケースを引くミクリ。


「あら不満? 貴方はこの私に荷物を持てと言うの? それに探検するには何かと入用でしょう?」


「分かりました。もう何も言いません」


 アキは稀に冗談が通じない時があります。


 今がその時なのかいまいち判断がつかないミクリは素直に返事をすると、バッグから懐中電灯を取り出しました。


「あら、張り合いがないわね。まあいいわ、今日は午後から雷雨だっていうし……。ちゃっちゃと行きましょう」


 二人は階段を探して薄暗い通路を歩きます。


 窓もなく非常灯の明かりのみなので、懐中電灯の明かりが重宝します。


 ミクリが口を開きました。


「ところで他の棟はもう調べなくて良いのですか?」


 アキは少し考えると。


「んー。そういう訳では無いのだけど。もうライフラインも止まってるみたいだし、まずはサーヤが怪しいって言っていた場所から行くのが先でしょう?」


 その場所とは3階のEPS室のことです。


「なるほど」


 

 しばらく歩いていると。


「……ミクリ、貴方気付いてる?」


 前方を向いたままのアキが尋ねます。


「ええ、まあ」


 頷くミクリ。


 実は先ほどから二人の後をひたひたと付けている人物がいるのです。


 アキは一呼吸置くと魔法を唱えます。


「跪け」


 瞬間背後から。


「うわッ!」


 ドス―ン!!


 叫び声、それから床に何かが叩きつけらたような音がしました。


 振り向く二人。


 作業着姿の小太りな男が床に俯せていました。

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