ミクリはペテン師 1
一週間前――。
メイド長から辞令を言い渡され、ご令嬢に魔法学を教えることになったミクリ。
まず教えるにあたって、彼女は簡単な質問をします。
「カレンお嬢様……今、何か感じますか?」
「何かって? ……?」
いまいち要領を得ないカレン。
するとミクリはパチンと指を鳴らします。
「では今度は?」
「…………へ?」
やはり何も感じないのか……カレンは首を傾げます。
さて、ミクリが今この場で何をやったのか?
それを話す前にまずは『魔法』とは何かを説明しましょう。
◇ ◇ ◇
魔法の基礎は目に見えない力を理解することから始まります。
仮にこの力を魔力とでも名付けましょう。
その力を自身の中へ取り込み変換し開放する。
この一連のプロセスこそが魔法であり、実行できる者を人は魔法使いと呼ぶのです。
◇ ◇ ◇
ミクリは最初の質問で大気中に浮かぶ魔力を感じとれているかを確認しました。
次に魔法を使って大気中の魔力を集めて凝縮し、カレンに吸い込ませてみました。
それは魔法使いでなくても違和感を覚える程の量です。(常人であれば胃酸が込みあがって嘔吐するくらいの量)
なのに、このご令嬢……何も感じない所か平然としています。
そう……カレンは極端に魔力に対しての感性が鈍いのです。
これではいくら学んだって魔法が身に付かないのは当然です。
なにせ魔法使いのスタート地点にすら立てていないのですから。
◇ ◇ ◇
ミクリは少し考えると……。
「あ、そうだ!」
指をパチンと鳴らして、シルクハットを出現させました。
そしてシルクハットから鳩が出現する手品を見せます。
それを見たカレンは目を大きく開き、思わず拍手しました。
「すごい! どうやってやったの!? わたしもやりたい…………でも……」
どうせ自分にできる訳がない……自分には魔法の才能が無いのだから。
それはカレン自身が一番身に染みて感じていることでした。
俯くご令嬢にミクリはシルクハットを差し出します。
「ふふ、やってみたいですか? じゃあ、特訓しましょう。だってこれは……お嬢様にも絶対できる魔法なのですから」