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お注射の時間です。 エピローグ

 廊下の真ん中にポツンと置かれたお皿が一枚。


 そこに乗っているのは高級洋菓子店のシュークリームです。


 誰がどう見ても不自然な光景でしかありません。



 死角に隠れて様子を伺う看護師とメイドと女の子。


「あのう、本当にこれでミクリさんが戻って来るんでしょうか?」


 未だ半信半疑の看護師。


「来ます。本音を言えばこんな安い罠に掛かって欲しくはありませんが……」


 メイドは断言します。


 続けて。


「うん! ミクリは絶対来る! ミクリはこのお店のシュークリームが大好きなの! わたしもシュークリーム大好き!」


 女の子が元気いっぱいに答えます。



 しばらく待っていると……。



「あ! こんなところに私が大好きなシュークリームが捨ててある! もう、誰? こんな勿体無いことする人は……」


 本当にミクリがやって来ました。



 まさか来る訳が無いと思っていた看護師は驚愕します。


 一方でメイドは呆れ顔で溜息。


 女の子はなんだか楽しそうにしています。



 そしてミクリはシュークリームを手に取ると。


「このシュークリームは私が使命感で救助しなければならない。いただきまーす! パクッ! あれ? なんか眠たくなってきちゃった……」


 一口かじった瞬間、スーッと両目を閉じて、パタッと意識を失いました。


「まさか本当にこんな単純な方法で大人しくなるなんて……」


 看護師は驚きながらも、ここぞとばかりに採血を始めます。


 結局、ミクリは睡眠薬入りのシュークリームであっさり捕獲されました。


 ビュービュー血液を抜き取られながらもすやすやと眠るミクリ。


 人騒がせな部下に対してメイドは改めて怒りを示します。


「まったく、この子は人様に迷惑をかけて……。これはお仕置きが必要ですね」


「痛いのはダメ!」


 すかさず女の子がそう言うと。


「お嬢様はお優しいですね。……ご安心下さい。お仕置きと言ってもほんの少し催眠を掛けるだけですから」


 メイドは杖を取り出すと、その先端でミクリの頭をこつんと叩きました。


「これでしばらくは大人しくなるでしょう」


 メイドはにっこりとほほ笑むのでした。



 ◇ ◇ ◇



 翌日……。


 メイドと女の子がミクリの病室を訪ねると。



「お注射ー!! お注射お注射お注射お注射お注射お注射お注射! 私に早くお注射を下さい! 早くぅ! そのぶっといお注射を私のここにずぶずぶ射してー! はあ……はあ……。お注射しゅき、お注射しゅき……はあん! お注射大しゅきなのおおお!!」



 虚ろな目で看護師にしがみ着くミクリの姿がありました。


 看護師はメイドに気付くと。


「あ、良い所に! あれからずっとこんな調子なんですー! 早くなんとかして下さいー!」


 助けを求めてきました。


 女の子は怯えた様子でメイドの後ろに隠れます。


「なんか、今日のミクリ怖い……」


「ごめんなさい。加減を間違えました」


 ミクリは催眠に掛かりやすい体質のようです。

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