お注射の時間です。 プロローグ
先日の戦いで負傷したミクリ。
入院中くらいは大人しくしているかと思いきや……。
さっそく問題を起こしているようです。
「ミクリさーん、採血の時間ですよー」
看護師が病室の扉を開けます。
開いた窓、ぐちゃぐちゃのベッドシーツ、もぬけの殻とはこのことです。
看護師は溜息を吐きます。
「またですか……」
それでも冷静に胸ポケットからチョークを取り出すと、慣れた手つきで床に魔法陣と数字を描きます。
続けて腕時計を見ながら。
「3、2、1、転移魔法……起動!」
掛け声と共に魔法陣が光ると、その上にミクリが出現しました。
「はいお帰りなさい。さあ、採血しますよ」
にっこり微笑みながら注射器を取り出す看護師。
ミクリは突如として元の場所へ戻されて、訳も分からず混乱しています。
「え!? 敷地の外まで逃げたはずなのに何でここに!?」
「ミクリさん、あなたやっぱり注射が恐くて逃げていたんですね?」
看護師はミクリの腕をがっちりホールドします。
「キャー! やめてー! 私、注射だけは嫌なのー!」
まるで駄々をこねる子供のように暴れ狂うミクリ。
「痛くしないから暴れないで!」
ミクリが暴れる分だけ看護師のホールドも強くなっていきます。
次の瞬間――。
ブチッ!
ミクリの腕がもげました。
「きゃああああ!」
患者の腕をもいでしまった恐怖で叫び声をあげる看護師。
でもそれが作り物の腕だったとすぐに気づきます。
ミクリの方を見ると、もげたはずの腕は健在です。
「ふっ」
ミクリは看護師をチラっと見て笑うと床に手を着いて唱えます。
「オブジェクト変更!」
床に穴を空けると、吸い込まれるように直下のフロアへ逃げて行きました。
…………。
病室に取り残された看護師。
穴に向かって叫びます。
「こらー! 逃げるなー!」
と、叫びつつ間も無く落ち着きを取り戻した看護師。
再度、転移魔法を試みます。
でも……。
「おや、ご飯の時間かの?」
魔法陣の上に現れたのは直下にある病室に入院中のおじいちゃんでした。
続けて何度か続けてみますが、やってくるのは別の患者や無関係な人ばかり。
どうやらミクリが妨害の魔法を使っているようです。
「なるほど……。これは私への挑戦ということですね」
看護師は闘志を燃やすと。
「この私から逃げようたってそうは行きませんよー!」
病室を後にするのでした。




