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未来からの侵略者 4

 ミクリの死亡宣告から数日が経ちました。


 知らせを聞いた者達の反応は様々でしたが……


 哀しみは皆同じでした。


 カグラザカの屋敷に引き取られた石膏像。


 変わり果てたその姿に旦那様は悲痛の叫びを上げました。


 どうしてもその死を受け入れる事ができず……


 未だにそれは屋敷内の特別な部屋に安置されています。



 旦那様やアキは勿論、使用人達から笑顔と会話が無くなりました。


 黙々と廊下の掃除をするアズサ。


 同僚の姿を思い出す度、窓の外を眺めてまるで抜け殻になったように放心します。


 カレンも部屋から出て来なくなりました。


 泣いて泣いて泣き続けて……。


 涙すら枯れ果てて……。


 心にはぽっかりと穴が空いたよう……。


 時間になるとマナカが無理やり食事を促している状況ですがやはり食欲はありません。


「…………」


 そんな様子を心配そうに見つめている男。


 カレン専属運転手のキサラギです。


「お嬢様、ご一緒しても宜しいですか?」


「…………」


 返事はありません。


 同席しているマナカが黙って頷くと。


「では向かいに失礼致します」


「…………」


「おや、お嬢様のディナーはお子様ランチですか。とても美味しそうですね」


「…………」


「知っていますか? お子様ランチは子供たちを元気にしたいという想いから生まれたそうですよ」


「…………」


「これを食べればきっとお嬢様も元気になりますよ」


「…………」


「では老人の戯言をもう一つだけ……。ミクリさんはまだ生きていますよ」



 !?



 ◇ ◇ ◇



 次の日。


 カレンは両親とサーヤ……それにレイカと共にある場所を訪れました。


 そこは刑務所の面会室。


 席に着いたのは旦那様とアキ、顧問弁護士のマツダイラも同席しています。


 その後ろにはサーヤとレイカが立っています。


 カレンは空気感に飲まれ恐怖と緊張のあまりサーヤにしがみついている様子。



 分厚いアクリルを隔てた向こう側。


 扉が開く。


「入れ!」


 警官の合図と共に姿を現したのは一人の男……。


 その男はゆっくりとこちらへ向かってくると無表情のまま着席。


 左目には眼帯。


 頬はやつれまるで別人だと錯覚させる。


 一同を見渡す。


 表情を変えることなくこう告げる。


「お前達が来る事は分かっていた」


 彼の名はシンドウ。


 過去にカレンを誘拐した罪状で収容中の人物です。


 重い空気感が漂う中、まず口を開いたのは旦那様。


「言っておくが私は貴様を許しはしないからな!」


 シンドウは淡々とした口調で答える。


「それで構わない。俺自身が勝手に罪を償いたいと思っているだけのことだ……」


「その態度がいけ好かないと言っているんだ!」


 感情が高ぶるあまりアクリルを叩く。


旦那様(あなた)! 今はそんな話をしに来たのではないでしょう!」


「あ、ああ、そうだったな」


 妻に促され本題に入ります。


「うちの使用人が殺害された」


「たかが使用人に随分と肩入れするんだな。そうか、死んだのはヤツか……」


「銃弾を浴びた途端に石膏像へと姿を変えた。その後死亡と断定された」


「魔法か?」


「魔法ではない未知の技術だ」


「手詰まりという訳か。その遺体はまだ残っているか?」


「ああ。残っている」


「ならばヤツは蘇生可能だ。そこにいるお前の娘を使えばいい。簡単な事だ」


「カレンを使うだと……?」


「ああそうだ。むしろお前達はオブリビオンを使いこなす方法を聞く為に来たのだろう? 誰の入れ知恵だか知ったことではないがな」



 !?



「その方法を教えてくれ! 頼む!」


 旦那様は必死に頭を下げる。


「それは構わないが命の保証はしない。娘を生贄に捧げる覚悟がお前にあるのか?」


 シンドウの視線に怯えたカレンは思わずサーヤの後ろへ隠れてしまう。


 旦那様の答えは当然――。


「カレンを生贄に捧げるだと!? そんな事できる訳がないだろう!!」


「そうか……。だが娘の答えは違うようだな」


 旦那様が振り返ると。


 !?


 いつの間にかカレンは力強い眼差しでこちらに視線を向けていたのです。


 恐怖で身体を震わせて……


 サーヤの服の裾を力いっぱい握りしめてなお……


 大切な人にまた会いたいと願う確かな覚悟がそこにあったのです。


「カレン……お前まさか……?」


「わたし、なんでもやる! ミクリとお別れなんてぜったいにイヤ!!」


 シンドウは初めて表情を変えました。


「カレンと言ったか……良い眼をしている。ならば開花させてやろう。お前の中に眠るオブリビオンの素質を――」

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