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未来からの侵略者 2

 驚愕する3人。


 アキ、ミクリはもちろん。


 それはレイカ本人すらも知らなかった事実。


「私の本当の母がカレンちゃん……?」


 思わず呟く。


 サーヤは透かさず告げる。


「ごめんなさい。私は貴方の本当の母親ではないの」


 するとミクリが口を挟みます。


「じゃあ、本当のお父さんは?」


「そうよ! 娘は一体どんな男を結婚相手に選んだというの!?」


 アキは食い気味でサーヤへ詰め寄ります。


「それは……」


「それは?」


「……分かりません」


「あ、そう……」


 落胆するアキ。


 因みにレイカも知らないとのこと。


「私が物心ついた時にはもう母さん……あ、いや、サーヤさんだけが私の家族でした……。そんなサーヤさんも未来ではもう……」


 俯くレイカ。


 サーヤが口を開きます。


「私を含め、レイカ様の家族を殺したのは高潔のレジスタンスです」


「何ですって!?」


 驚くアキ。


 するとミクリはおそるおそる手を挙げます。


「あのう……。高潔のレジスタンスって5年前に壊滅しませんでしっけ? 残党が残っているってこと?」


「それはたぶん逆で、高潔のレジスタンスは一定の間隔で構成員を過去に送り出しているからかと……」


「???」


 要領を得ないミクリ。


 サーヤが補足します。


「つまり高潔のレジスタンスの本体は未来に存在する。その第一波と思われる侵略が5年前。そして第二派が現在(いま)という訳です」


 !?


 既に理解しているアキ。


「待って待って、侵略って? 一体何のために? まあ、5年前は何となく分かるけど、現在(いま)侵略に来た意味は一体なんなのよ!」


 アキの言う通り魔法税が施行される発端になった事件が5年前。


 そこには確かに高潔のレジスタンスが首謀者として存在していました。


 けれど魔法税施行からは平等と呼ぶに近しい世の中になっています。


 高潔のレジスタンスが魔法を嫌う理由はもう無いはずなのです。


「わかった! きっとバカンスですよ!」


「ミクリ、お口にチャック!」


 アキの牽制が入ると、ミクリは黙ったまま口元をチャックで閉める仕草をとります。


「二人の話を信じるなら未来での高潔のレジスタンスはテロ行為を実施している訳だから、きっとこの時代にターニングポイントがあるって事よね。彼らにとって最も重要な何かが……」


「わかった! きっと宝くじの1等を当てる為に来たんですよ! 私だって過去に遡れたら1等7億当てちゃうんだから!」


 ミクリはそう言ってレイカへぐわっと顔を近づけると。


「レイカさん! いえレイカ様! 今週の宝くじの当たり番号を教えて!」


「そ、そんな事言われても……」


「ミクリ!」


 再びアキに牽制され口元を閉めるミクリ。


「それでレイカ? 貴方はこれからどうしたいの?」


「へ?」


「だって、こうして未来の孫と会えたんだもの。こんな嬉しい事はないわ。私達は貴方の味方よ」


 その言葉に肯定するように二人の使用人も頷く。


「そうだ! 住むところがないなら今日からうちに住みなさいよ。部屋ならいっぱい空いてるし、旦那様(うちのひと)には上手く(・・・)言っておくから」


 その筋書きはこうです。


 レイカはアキの親戚の子供という設定。


 両親を亡くして途方に暮れていたので引き取る事にした……。


「どうして正直に言わないんですか?」


 でもミクリにはその意図が分からなかったようです。


「だって考えてもみなさいよ。旦那様(あのひと)がもし事実を知ったら……」



 ぬあにぃいいい!


 一体どこのどいつだ!


 うちのカレンを(たぶら)かした野郎は!?


 嗚呼……


 そうだ……


 殺してやる……


 殺してやるぞ!


 今すぐそのクソ野郎の息の根を止めてやる!


 今すぐぶっ殺してやるぞおおお!


 ぬおおおおお~!!



「って、なりかねないじゃない」


「確かに……」


「って事だからレイカ、欲しいものがあったら何でも言ってちょうだい? 用意させるわ」


「ありがとう。ええっと……おば――」


「待って! それはやめて! お姉さんって呼んで!」


「ありがとうお姉さん」


「宜しい。じゃあ今日はレイカの歓迎会よ! さあ、腕が鳴るわ! 私がとっておきの料理を振舞っちゃうわよ!」


「「……え!?」」


 サーヤとミクリは耳を疑いました。



 ◇ ◇ ◇



 廊下に出た所で再びカレンと対面したレイカ。


「あ! レイちゃん!」


「えーっと……」


 どうしても言葉が詰まってしまいます。



 こんな小さな女の子が本当の母だった。


 母はどうして私を捨てたのだろう……。


 一体どこに行ってしまったのだろう……。


 私を愛していたのだろうか……。


 今まさにその本人が目の前にいる。


 どうしても理由を聞きたい。


 真意を確かめたい――。


 でもそれは未来の話。


 今の彼女はまだ私の事を知る由もない。


 私は……。



 すると。


「よかった! 元気になったんだね!」


 あどけない笑顔を向けるカレン。


 さらに。


「そうだ! 手をだして!」


「へ? ……じゃあ、こんな感じでいい?」


「うん!」


 カレンはポケットから取り出したハンカチをその手に乗せると。


「えい!」


 指を振ってからハンカチを取り除きます。


「これって……?」


 いつの間にかレイカの手元には画用紙が乗せられていました。


 描かれていたのは。


「えへへ。レイちゃんの似顔絵を描いたんだよ」


 " れいちゃんありがとう "


 という文字も添えられています。


 照れたような仕草のカレンでしたが、はっと何かを思い出したように。


「あ、でも本当のお名前はレイカちゃんだったんだ。描き直さなきゃ――」


 すると。


「待って! このままで、いや、このままが良い!」


 何を思ったのかレイカはそう告げます。


「え? いいの?」


「いい! それに私の事はレイカじゃなくてレイって呼んでほしい!」


「うん! わかったレイちゃん!」



 ◇ ◇ ◇




 次の日。


 レイカ、サーヤ、ミクリの三人はクロサワ建設本社ビルへ足を運びました。


 受付嬢が告げます。


社長(クロサワ)とのアポイントはありますか?」


「アポイントメントはありません」


 サーヤが返答すると。


「現在クロサワは不在です。お引き取り願います」


「ではカグラザカ家の遣いだと言えばどうですか?」


 サーヤの胸元にキラリと光るのはカグラザカの家紋が入ったバッジ。


 受付嬢はそれに気づくや否や。


 !?


「しょ、少々お待ちください!」


 血相を変えて内線電話へ手を伸ばします。


 ……。


 …………。


 ………………。


「大変失礼いたしました! すぐに係の者が来ますので少々お待ちください」


 間も無く現れたクロサワの秘書と名乗る人物に誘導される三人。


 エレベーターの中でミクリがひそひそとサーヤへ耳打ちします。


「社長が不在って嘘だったんだね」


「ええ。やはり旦那様の名は最強ですね」


 実はクロサワ建設に不穏な噂が出た後、旦那様は敢てその株式買い付けを行いました。


 その保有数は全体の約60パーセント。


 つまりカグラザカ家はクロサワ建設の筆頭株主となる訳です。


 不穏分子は金と権力でねじ伏せる。


 それがカグラザカ家代々の家訓です。


 さて、そもそも何故三人がクロサワへの面会を試みたのか。


 それは病院でレイカが現在のサーヤと初対面した時まで遡ります……。




「手帳を失くした?」


「ええ。手帳と言っても国語辞典くらいの厚みがあるけど……。とにかくどこにも見当たらなくて……」


 レイカは所持品を紛失したことをサーヤへ相談していました。


「ちょっと待って下さい……」


 集中するサーヤ。


 レイカの脳内へアクセスし本人すら忘れている記憶を覗きます。


 すると。


「これは……!?」


 一つの仮説へたどり着きます。


 その手帳はクロサワが所持しているのではないか……?


 という可能性です。

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