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サーヤの大失態 5

 普通のカレーでは勝利してしまう事は目に見えています。


「不味いカレーを作るって案外難しいな……」


 難しい顔で腕を組むミクリ。


 いきなり壁にぶち当たってしまいました。


 するとアズサが何か閃いたようです。


「苦くするのはどう? 例えばゴーヤを入れるとか……」


「それだ!」


 ミクリは魔法で様々な苦味食材を出現させていきます。


 ゴーヤ、ピーマン、魚の肝、ケール、珈琲豆、などなど……。


 それらを鍋の中へポチャポチャぶち込んでいきます。


 ドロドロになるまで煮込むとツーンと鼻を刺すような香りが漂いました。


「おおー、これはなかなかヤバそうだ」


 試作のカレールーを匙ですくう二人。


 同時にすする。



「「――ッ!?」」



 肥料バケツへ駆け込む二人。


 勢いよく顔面をダイブ――!!



 ※しばらくお待ちください



 ✿❀✿❀✿❀

 ✿❀✿❀✿❀

 ✿❀✿❀✿❀



「うげ~! これヤバい!」


 込み上げていた胃液がようやく引いて、味の感想を述べるミクリ。


 少し遅れてアズサもようやく口を開きます。


「確かに想像以上だなこれ。でもダメだ。これじゃあ勝っちゃう」


「え゛!?」


「だってアキ様の手料理は脳天にガツーンと来たと思ったらもう意識がぶっ飛んでるんだから!」


「…………」


 やはり壁にぶち当たるのでした。



 ◇ ◇ ◇



 行き詰ったミクリ達が助言を求めたのはマナカでした。


「あんた達なかなか面白そうな事してるわね。いいわ! 私もカレー味のう●こ開発に協力してあげる!」


「う●こ味のカレー開発です」


 彼女もカグラザカに仕える使用人です。


 ミクリよりも頭一つ分背が低く、可愛らしい見た目の19歳。


 次期料理長の座に最も近く、現在はカレン専属の料理番を務めています。


「ほら、私って以前スランプになった事があったでしょ?」


「確か味が変わる魔法を無意識に発動させてたんでしたよね」


 ※詳しくは愛情たっぷりお子様ランチを参照


「うん。きっとアキ様の手料理も同じなんじゃないかなあ」


「そうか! あの不味さの正体は魔法!」


「そういうこと!」


 三人は味を変える魔法について調べる為、書庫へ向かうのでした。



 その頃。



 ミクリ達が不在となった調理場に現れた人影。


 それは試作品の入った鍋に手を伸ばすのでした。



 ◇ ◇ ◇



 一方、アキが助手に選んだのはカグラザカ家に仕える料理長です。


 彼は元々一流ホテルに勤めていました。


 その頃の夢は自身で考案し作った料理をディナーのメインディッシュにしてもらうこと。


 しかし彼が任されたのはスイーツづくりだったのです。


 毎日毎日カカオ豆を手作業ですりつぶして加工してチョコレートを作るだけの仕事。


 その延長でケーキ作りも任されましたが……。


「くそ、どうして俺がこんな甘ったるいものを作らなきゃならないんだ……」


 心が満たされる事はありません。


 そもそも彼はチョコレートアレルギーを患っているのです。


 来る日も来る日もチェコレートを作るだけの日々――。


 それでも彼は仕事を辞めようとは思いませんでした。


 たとえ嫌いな仕事であっても、ひたむきに向き合えばいつかチャンスが来ると信じていたからです。


 そんな思いとは裏腹に彼の作るチョコレートケーキは巷の女性客の間で爆発的な人気を得ます。


 作れば作るだけ売れる――。


 一口サイズ8,500円という超強気な価格設定のそのケーキが即完売してしまうのです。


 さらにコンクールというコンクールに出品すれば必ず優勝を掻っ攫う。


 そんな状況にホテルオーナーはもう笑いが止まりません。


「彼のケーキは素晴らしい! まるで札束を刷っているようだ!」


 彼がチョコレートの神と言われた所以(ゆえん)です。


 そんなある日。


 彼の体調が急変します。


 チョコレートアレルギーの症状が悪化したのです。


 医師は言います。


「命が惜しければチョコレートからは距離をおきなさい」


 この時、既に40歳を超えていた彼にとってチョコレートは人生になっていました。


 迷いに迷った彼が出した結論は……。


「もう一度私にチョコレートを作らせて下さい!」


 オーナーに頭を下げる彼。


 しかしオーナーが首を縦に振る事はありませんでした。


 それどころか次の日から彼は皿洗い係に任命されます。


 十も歳が離れた料理人達からは。


「おい雑用! さっさと働け! この無能が!」


 なんて罵声を浴びる日々。


 彼はとうとう一流ホテルを退職しました。


 独立してレストランを出店したのです。


 最初のうちは一流ホテルの元料理人の店という口コミで満席が続きましたが……


 次第に客足が遠のいていきます。


 チョコレートを作らない彼の料理に何の魅力もないと世間が気付いたのです。


 もちろん彼はチョコレートをまた作ろうと考えましたが、持病のアレルギーがそれを許しません。


 赤字経営は膨らみ日に日に借金は増すばかり。


 気付けば彼は高層ビルの屋上に立っていました……。


「もう俺には何の価値もない……。全て終わりにしよう……」



 その時でした。



「やっと見つけたわ!」



 その女は突然現れると真っ直ぐな瞳を向けてこう言ったのです。



「貴方の人生は今この瞬間私が買った! これからは私の為にチョコレートを作り続けなさい!!」



 これがカグラザカアキとの出会いでした。

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