その愛を貫き通せ! 2
カゲイがプ●キュアにドハマりしてから三週間が経ちました。
多忙にも関わらず隙間時間を全て視聴にあてがった……。
この感動をどうしても分かち合いたくて仕方がありません。
「お嬢ー!」
廊下の向こうに見えたカレンへ駆け寄ります。
しかし。
「お、お嬢! それは一体……!?」
カレンが手にしていたのはぬいぐるみではなく、なんと別のおもちゃだったのです。
「ぷ●きゅあにへんしんしゅるの」
お化粧道具をモチーフにしたようなおもちゃを自慢げに見せてきました。
子供の心変わりは早いものです。
そう、カゲイは知らなかったのです。
推しのプ●キュアが既に1個前になっていた事を……。
「な、なんて事だ……!?」
衝撃の事実に膝から崩れ落ちるカゲイ。
そこへサーヤがやって来ました。
「あら、お嬢様こんな所にいらしたのですね」
「あっ! しゃーや! まかよんってねーつくゆのむじゅかしーんだよ」
サーヤはしゃがみ込んでカレンと目線を合わせると。
「お嬢様はマカロンに興味があるのですか?」
「うん!」
「わかりました。では今日のおやつはマカロンにしましょう」
「わーい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるカレン。
サーヤは近くで窓ふきをしていた掃除係に指示を出します。
「あ、そこの貴方。カレンお嬢様の今日のおやつをマカロンへ変更と厨房へ伝えて来てください」
「分かりました!」
掃除係はビシッと敬礼して去っていきます。
間も無くサーヤとカレンもその場を去っていくと、一人ぽつんと取り残されたカゲイ。
ショックのあまり立ち上がれずにいます。
けれどお嬢を責める事なんてできません。
だって未だに1個前に執着している己がいけないのだから――。
でもどうしても推しについて誰かと語り合いたい。
そんな思いが消えないカゲイは蔵に引きこもってインターネット掲示板に入り浸るようになりました。
その結果……。
偏食で体型はだいぶ太くなって。
言葉遣いにはスラングが混ざり。
手当たり次第にネット通販でグッズを買いあさり。
毎日決まった時間にみらいちゃんへの祈りを捧げ続けて……。
現在に至ります。
果たして誰が悪いのか……。
きっかけの一部始終を見ていた当時の掃除係曰く。
「あれは悲しき事故だった……」
との事です。
◇ ◇ ◇
さて、話を戻しましょう。
カタカタとキーボード操作をしていたカゲイ。
タン!
と、勢いよくエンターキーを叩くと大きなモニター画面に国内の地図が映し出されました。
よく見ると様々な地点が赤く点滅しています。
「これは?」
尋ねる旦那様。
「マザの居場所を表示したんだぉ。ちな赤い点がマザ」
全国に散らばるように存在する政府の拠点。
マザーはそこに存在するサーバーを高速で移動し続けています。
「マザの仕事内容は主に4つ」
リンクした魔法書の中身を把握する。
刻印持ちへ禁書制限を下す。
刻印持ちが起動した魔法を把握、魔法税徴収額を演算してそのデータを記録用サーバーへ送信する。
ランダムに次のサーバーへ移動する。
「その繰り返しだぉ。各仕事の処理時間は0.1秒。つまりマザは0.4秒毎に鯖を移動しているって訳」
「なるほど……。確かに赤い点滅は1秒に満たない時間で移動している。それで、これをどうやって捕らえる?」
「さあ……」
投げやりの態度をとるカゲイ。
「いや、さあ……って、お前何か策を思いついたんじゃないのか?」
「またまた~、それを考えるからとりまこれを出したんでしょ常考」
「お前な~!」
カゲイの態度が癪に障り思わず拳を振り上げる旦那様。
それをハセガワが宥めます。
「お、落ち着いて下さい旦那様。ち、因みに、これはマザーへのアクセスにはならいのですか?」
「記録用鯖へのアクセスだからモーマンタイ」
つまり表示されているのはリアルタイムではなくマザーの行動軌跡という訳です。
「リアルタイムとの誤差はどれくらいですか?」
「ん~、100手くらい?」
「なるほど、40秒くらいですか……」
しばらくモニターとにらめっこの三人。
するとハセガワはモニター画面を凝視して。
「あれ……?」
「どうした?」
「マザーの挙動がおかしいような……」
「どういう事だ?」
「あ、ほら、マザーがあそこの拠点に行く回数が多いような気が……」
「「……………あ!?」」
すぐにログ画面へ切り替える。
ずらりと並んだ文字列を確認していくと。
「中一で同鯖を踏んでいる……?」
どうやらマザーはある反復行動をとっているというのです。
仮にそのサーバーをAとしましょう。
マザーはサーバーAで仕事をする。
→ 移動。
→ サーバーBで仕事をする。
→ 移動。
→ サーバーAで仕事をする。
→ 移動。
→ サーバーCで仕事をする。
→ 移動。
→ サーバーAで仕事をする。
→ 移動。
→ サーバーDで仕事をする。
→ 移動。
→ サーバーAで仕事をする。
→ 移動。
→ サーバーEで仕事をする。
→ 移動。
→ サーバーAで仕事をする。
→ 移動。
→ サーバーFで仕事をする。
→ 以下略――。
つまり、一つ置きに必ずAへと戻っているのです。
「一体何故こんな行動を……? マザはランダム移動するようプログラムされていたはず……」
カゲイは再びキーボードをカタカタと叩き始めます。
何かを調べ始めたようです。




