凍結の魔法陣 7
追い詰められたクズモト。
彼がとった行動は――。
「わ、悪かったよぉ。僕が悪かったよぉ! 降参だあああ! うおおおおん! うおおおおん!」
泣き喚いて命乞いをする事でした。
あまりの豹変っぷりにたじろぐザイゼン。
でもこれは明らかに罠。
それでもザイゼンは考えてしまったのです。
降参を口にし無抵抗の相手を痛めつけることが果たして正しいのか否か……。
それは一瞬の隙を生み――。
!?
気付いた時には首から下が氷漬けになっていたのです。
クズモトの手の甲には左右それぞれ別の魔法陣が刻まれていました。
その内、封じたのは片方だけ……。
まだ凍結の魔法陣が生きているのです。
「へへーん。降参なんてうそだよ~!」
クズモトは変顔で挑発。
残骸から棒状の金属片を手に取ると――。
「おらああああ!!」
ドゴッ!!
無抵抗と化したザイゼンの顔面を殴り付ける。
「おら! おら! おら! おら――!!」
何度も何度も――。
「おいおい、どうした? 防御の魔法は尽きたのか? 分かってるんだぜ! てめえが不死身を装っていたことくらい!」
クズモトは理解していたのです。
何故ザイゼンが今まで凍結しなかったのかを……。
あれだけの衝撃を受けてもなお生きている理由を……。
ザイゼンに施された加護の魔法が解けた今、もう恐れる理由は何一つ無いのだと……。
体力が尽き手にしていた物を捨てる。
これだけ痛めつければ十分だろう。
きっともう死んでいる。
死んでいる……?
おい、ちょっと待て!
これじゃあ、まるで俺が殺したみてーじゃねえか!
ち、違う、これは俺のせいじゃないぞ。
これはこのオッサンが悪いんだ。そ、そうだ、悪いのはこいつだ。こいつは自殺した。俺は何もやっていない。でもこのままだと俺に容疑が掛かってしまう。すぐにここを離れなくては――。
背を向けるクズモト。
すると。
「待て……」
振り返ると、顔面血だらけのその男が……ザイゼンが鋭い眼差しで真っ直ぐこちらを睨みつけているのです。
「!?」
何故この男はまだ生きているのか……?
理解が追い付かず声を詰まらせる。
もう虫の息だというのに、ザイゼンは口を閉ざそうとしません。
「言っただろう……。お前を……ここで……止めると……。ドデカ・フォールン!!」
辺り一面が影に覆われました。
何かが頭上を覆っているのです。
「ん?」
見上げるクズモト。
!?
「んな!? て、てめぇ! 正気かあああああ!!」
遥か上空に浮かんでいるのは巨大なコンクリートの塊。
それも一つや二つではありません。
それは空を埋め尽くす12個のテトラポット。
それが今、二人の頭上目掛けて一斉に落ちてくるのです。
~カレンの学習手帳~
【魔法陣】
魔法を発動させる儀式の一つ。
幾何学的な模様を描くことで予め発動条件を満たしておくことができる。
その模様にはルールがある。
使いたい魔法に合わせて模様を調整するのだ。
発動のタイミングは何らかのトリガーである。
トリガーについては好きに決めることができる。
一般的には指をパチンと鳴らす方法をトリガーとする事が多い。
因みにミクリが得意とする「形状変更の魔法」は本来、複雑な魔法陣と設計図を用いて発動させるものだ。しかしどういう訳か彼女は魔法陣どころか設計図すら用いらずにこれを成立させている。




