指輪の力 5
赤ん坊の精密検査をして更に判ったこと。
「クノンちゃんは魔力中毒を起こしている」
ザイゼンの説明によると……。
通常、呼吸によって体内へ侵入した魔力はそのまま排出されるのが自然なのですが、なぜか赤ん坊の心肺にはその能力が無いとのこと。
体内へ侵入した魔力はそのまま体内へ留まり続けて負荷を与え、心肺機能を低下させ続けているのです。
「それでこの子を助ける方法はあるの!?」
母親は必死に懇願するように尋ねます。
父親もそれに寄り添いながらザイゼンの返答を待っている様子。
「可能性としては二つ。一つは心肺へ留まっている魔法を排出させること――」
しかし問題がありました。
心肺への魔力供給量はあまりにも大きく、人工的な吸引排出は不適切。
さらに魔法へ変換して消費させることも難しいと判りました。
魔法とは才能と知識があって初めて成立するもの。
生まれて間もない赤ん坊ができる訳もなく、現に魔法を使う様子もないのです。
「だったら! だったらもう一つの可能性は!?」
母親が尋ねると。
「もしあればの話になるが、最適な心臓を見つけて移植するしか……」
最適な心臓とは……赤ん坊と同じ血液型、同じ大きさ、且つ魔力排出能力を備えた健康的な心臓の事です。
一番厄介なのは同じ大きさという点です。
「そんなもの――」
そんなもの見つかる訳がない……。
父親はそう言いかけました。
赤ん坊の姉はそれを察したのか、まるで制止するようなそぶりを見せます。
「ダメ! そんな事言っちゃ!」
ひととき沈黙となり、間も無く母親は泣き崩れました。
ザイゼンは俯くと。
「すまない……」
それだけ言って赤ん坊の家族に背を向けました。
◇ ◇ ◇
その後、ザイゼンは前々から行っていた人工心臓の研究を続けました。
勿論それは赤ん坊を救う為です。
しかし時はそれを許してはくれませんでした。
赤ん坊は心肺停止になったのです――。
当然最適な心臓も見つかっていません。
緊急手術にはザイゼンが執刀しました。
内容は魔力の吸引排出。
不適切と分かっていてもこれしか方法が無かったのです。
そして同時刻――。
意識不明の救急患者が運ばれてきました。
執刀したのは病院長の息子でしたが、胸腹部を開いて内蔵の損傷具合を見るや否や。
「ダメだダメだ。こんな敗戦処理みたいな試合は僕のやる事ではない。悪いが帰らせてもらう!」
そう言って手術室を後にしてしまったのです。
それを知った病院長は必死に息子を宥めます。
なぜならその患者はカグラザカという権力者に仕える使用人だったからです。
これを機に恩を売って権力者と太いパイプで繋がってやる。
そんな魂胆が見え見えでした。
しかし息子はやらないの一点張り。
そうなると病院長の次の手は……。
「ザイゼン、お前が何とかしろ!」
すぐに赤ん坊と同室に例の救急患者が運び込まれてきました。
医者の世界に常識など存在しない。
目の前にいる患者は全て救う。
ザイゼンが常に念頭に置いている言葉です。
すぐにもう一人の患者を確認します。
!?
開かれたままの胸腹部、その中の臓器はどれもグズグズの状態だったのです。
それはまるで臓器だけが被爆でもしたかのように――。
「一体どうしたらこんな事になるんだ……」
さらにザイゼンは驚愕します。
「な、なんだこれは……!?」
なんと患者の心臓が煌々と光りだしたのです。




