最悪の失態
ふと目に入った蛍光灯がまぶしい……。
いつの間にかミクリは目覚めていました。
ベッドで眠っている同僚達。
かく言う自分自身もその一人で、ここが病室の大部屋であることを察しました。
「ねえアリア、私は何時間寝ていたの?」
パイプ椅子に腰かけていた分身に尋ねると。
「およそ3日間です」
「3日……。3日!? ッ――!?」
興奮をキッカケに胸を押さえて悶えるミクリ。
先日のカビ騒動を鎮めるためにアリアが禁忌に手を出したことで、心臓にかなりの負担をかけていたのです。
その苦痛はアリアと等分。
同じ痛みを共有しているはずなのに、アリアは顔色一つ変えることなくミクリの背中をさすります。
そして告げるのです。
「重要なことを言っておきます。カレンお嬢様が連れ去れました」
「んな!? うぐ! がああああああ!!」
胸の痛みはさらに増していく一方。
それでもアリアは淡々と説明します。
今までずっと連れ添ってきた分身として、今ミクリが何を求めているのか……。
アリアはそれを理解しているのです。
あの時、サーヤだと思っていた人物は変装の魔法を使った偽物。
ミクリはまんまと騙され、カレンを引き渡してしまったこと……。
未だその相手からの要求は無く居場所も不明。
当然カレンの安否も不明です。
警察による大掛かりな捜査も継続中ですが進展無し。
さらに旦那様は衰弱してしまい別室で入院中……。
退院したばかりのアキが付き添っている状況です。
「い、行かなきゃ……」
ミクリはすぐにベッドから降りて病室を飛び出します。
自身の格好が寝巻であることも忘れて駆けていきます。
これは明らかに自分の失態。
取り返しのつかない最悪の事態を招いた――。
廊下でサーヤと鉢合わせました。
「ミクリ!? 貴方は、ミクリなの!?」
「メイド長……。全部私の……せいだ。私は行か……なきゃ」
「行くってどこに?」
「カレン……お嬢様……ところへ……。きっとお嬢様は……寂しくて……泣いているに……うぐ!」
その場でうずくまり胸を押さえるミクリ。
「ミクリ!?」
駆け寄るサーヤ。
「だ、大丈夫です」
それだけ言ってすぐに分身を身体に戻します。
苦痛をアリアの精神に肩代わりしてもらうとすぐに立ち上がります。
「行かなきゃ……」
「ミクリ! 貴方、大丈夫な訳ないでしょう! それに行くってアテはあるのですか?」
「…………」
黙ったまま行こうとするミクリ。
その腕をサーヤは咄嗟に掴みます。
「待ちなさい!」
しかしその制止を振り払い、ミクリは行ってしまうのでした。
第2章 後編へつづく……。




