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ザイゼンの娘達 7

 箒に跨り低空飛行で加速するミクリ。


 追いかける黒い車とはまだ少し距離があります。


 片手に出現させたのは魔法の杖。


 あの赤信号で黒い車が停車すればすぐに攻撃の射程圏内に入ります。


 しかしぐんぐん加速していく黒い車。


「まさか!?」


 そう、そのまさか。


 車は横断歩道を渡る人を跳ね飛ばしながら急ハンドルで左折して行ったのです。



 そんな車内の様子は――。


「ど、どうしよう! 人をはねちゃったよー!!」


 酷く狼狽える運転手の青年。


「落ち着け! はねられた方が悪いんだ!」


 助手席の青年もそう言いながらもかなり動揺している様子。


 後ろの席の青年も気を失っているユイとアイをロープで縛ろうとしますが、なかなか器用にはいきません。


 見た目からしてもまだ若い彼ら。


 どうやら計画はかなりザルなようです。




 運転手がバックミラーを見ると、先程まで追いかけてきていたメイド服をまとった少女の姿はありません。


 自分がはねた者の救助を優先させたのでしょうか……?


 とにかく追っ手を振り切る事ができたらしく、そのまま走行を続けます。



 ◇ ◇ ◇



 しばらくして……。


 車は飲み屋街の一角で止まりました。


 まだ昼間という事もあって、人通りはあまり多くありません。


 助手席の人物は車から降りると、すぐ側の雑居ビルに入っていきます。


 室内にはガラの悪そうな男達が沢山いて、それぞれが固定電話で通話をしています。


 そんな中、出迎えたのは強面こわもての男でした。


 Tシャツにハーフパンツの身軽な服装です。


子供ガキは連れてきたんだろうな?」


 それに対して黙ってこくりとうなずくと。


「だったらさっさと連れて来いよ! やつの居場所をとっとと吐かせるんだ」


「奴……?」


 尋ねます。


「忘れたのか! ザイゼンだよザイゼン。奴は俺のウィザードを持ち逃げしたんだ! あの野郎……絶対ぜってーぶっ殺す!」


 強面の男は怒りをあらわにします。


 そんな様子に青年(?)は……。


「なるほど。ありがとうございます」


 と、何故か頭を下げると。


 次の瞬間――。



「おらあああ!!」



 ドゴオッッッ!!



 青年(?)が繰り出す強烈な一発が顔面に直撃!


 ぶっ飛ばされる強面の男。


 その拳はおそらく魔法による補助でとんでもない加速をしていました。


 かなり痛そうですね。



 ……でも心配無用だったようです。


 男は痛みを感じる間も無く既に気を失っているようですから。



 周囲の者達が慌てて受話器を置いて立ち上がります。


 部屋の中心には笑みを浮かべるその人物。


 先程まで青年だったはずなのに……。


 なんといつの間にやらメイド服を纏った少女に変わっているのです。


 困惑する周囲の者達。


 一体どういうことなのか……?



 ◇ ◇ ◇



 遡ること約1時間前。



 車が横断歩道を渡る人を跳ね飛ばしながら急ハンドルで左折して行ったその直後――。



 ミクリも加速したまま交差点に差し掛かると、片手の得物を拳銃にすり替え後方に向かって発砲。



 ズドン!



 被災者へ着弾した蘇生弾。


 すぐに効果が発現し、うっ血した脚部が瞬く間に回復しました。


 本人は勿論、周囲にいた人もかなり困惑している様子ですが……そんな事はお構いなしにミクリも交差点を左折していきます。


 その頃にはすでに車はミクリの攻撃射程圏に入っていて。


 あっという間に車は止められ、ミクリによって強引に車から引きずり降ろされ。


 青年達はボッコボコのメッタメタに痛めつけられました。


 ユイとアイも無事のようです。


 すぐに駆け付けたトウコの部下達によってすぐに保護されました。


 さて、ミクリに拷問された青年達。


 どうやら彼らは詐欺グループの受け渡し役を生業(なりわい)にしているらしいのですが……。


 彼らの親分ボスがもっと旨味のあるビジネスを見つけたと言って始めたのがそう。


 ウィザードの密売だったのです。



 ミクリは魔法で青年の姿に変装すると親分ボスの元へ連れていくよう青年達へ指図するのでした。



 ◇ ◇ ◇



 そして現在――。


 ガラの悪い男達に囲まれたミクリ。


 啖呵を切るように叫びます。


「おらあぁぁああ! 全員成敗じゃあぁぁあああ!」


 乱闘の末、ミクリは全員を再起不能にすると近くの受話器を手に取って。


「あ、私ぃ、いまぁ悪い人を捕まえちゃってぇ。すぐ来て欲しいんですけどぉ」


 何故かギャルっぽい口調で通報。


 自身の痕跡を手際よくササっと全て消し去ると、すぐにその場を後にするのでした。

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