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騒音嫌いの殺人鬼 8

 ミクリの頭の中にはある(・・)仮説が浮かんでいます。


 先程ミクリが放った言葉。



 容疑者の男キネヅカはカラスを殺す事ができない……。



 その真意をカンザキは問います。


「殺すことができなかったとはどいう意味だ?」


「まだ私の予想ですが、キネヅカの使う魔法は電気です」


「電気……? だとしたら被害者達の死因は感電による心臓麻痺か!?」


「そうです。感電死させるには心臓へある程度の電気を流す必要があるはず。だから電気を流すには実質的な回路が成り立っている必要があるんです」


「回路……? そうか! 飛行しているカラスは着地をしていないから、回路が成り立っていない! だから電気が流れていかないのか!」



 それが魔法によって生み出されたものだと言ってもあくまで電気……。


 流れていく「逃げ口」がなければ流れていきません。


 つまり宙に浮いている物は感電しないのです。



 それでもまだ疑問が残ります。


「いやしかし待てよ……。カラスだって着地するはずだ。ゴミあさりで地上に降りたり、送電線にとまって休んでいたり……」


「あの地区は巣が近いので昔からカラスのたまり場だったんです。だからゴミを見せないようにする配慮が徹底されているんです」


 かつてはカラスの仕業で町中がゴミだらけだった事もありましたが、十年程前に自治体からの指導が入りました。


 今ではそれが住民達の中で浸透し、近辺でカラスがゴミをあさる事は無いのです。


「それから魔法で生み出す電気は送電線より弱いので、カラスの足元は電気の逃げ口にはならないんだと思います」



 電気は強い方から弱い方へと逃げ口を伝って流れていきます。



 因みにカラスが送電線によって感電しない事は言うまでもないでしょう。



 つまりキネヅカは、電気の逃げ口が存在する相手……。


 着地している相手のみを対象にできるというのがミクリの立てた仮説なのです。



 ミクリは手元に箒を出現させます。


「という訳で、カラスに(なら)って私達も空を飛んでいきましょう!」



 ◇ ◇ ◇



 そして現在――。


 アパートの窓から飛び降り、逃走するキネヅカ。


 まだだいぶ離れた位置からそれを追うミクリ。


 跨っている箒の後ろにはカンザキを乗せています。


「おいおい、正気か!? あいつ3階の窓から飛び降りたぞ! なんちゅう身体能力してんだ! それに盲目のはずじゃなかったのか!? ダメだ理解が追い付かん!」


「それだけ追い詰められている証拠です。……はいこれ」


 拡声器を手元に出現させたミクリ。


 カンザキへ手渡します。


「用意がいいな。……あー、あー、そこの男止まれ! お前を殺害の容疑で逮捕する!」



 キネヅカを追い詰めるにあたって、ミクリは二つの策を仕掛けました。



 一つは感電しないよう宙に浮かび続ける事。



 ミクリとカンザキは既に幾度か相手の攻撃範囲内(テリトリー)に侵入しています。


 カラスの眼を通して先程、キネヅカが魔法を使う瞬間を……左手で指を鳴らす仕草を目撃しました。


 彼の左手の甲に魔法陣が刻まれていることも確認済みです。



 もう一つは……。


「それにしてもミクリ君の予想した通りだ。奴は左手をズボンのポケットに入れたまま走っている」


 時々つんのめってもなお、姿勢を変えることなく走り続けるキネヅカ。


 左手の甲に刻んだ魔法陣を隠しているのです。


 二人が飛んでいる場所からはまだ少し距離があります。


 ミクリは導きの指輪に向かって唱えます。


「私とカンザキさんを正面にいるカラスの元へ導きなさい」


 瞬間移動する二人。


 キネヅカまでの距離を縮めます。



 そう……。



 二つ目の策は瞬間移動する事で相手を撹乱(かくらん)する事です。



 ミクリ達は常に空中に浮かんでいる……。



 もしそれがキネヅカに知られてしまった場合、彼は魔法を使う事を躊躇ためらうかもしれません。


 現行犯逮捕をするには彼が儀式を行った瞬間を目撃する必要があったのです。


 さらに今のキネヅカは二人を殺せない理由を勘違いしています。



 瞬間移動で攻撃を避けているのだと――。



 だからこそ逃げながら考えているのです。


 反撃する隙を――。


 二人を殺す方法を――。



 俺を逮捕するだと!? どこのどいつか知らんがふざけた事を舐めた事を言いやがって偉そうにこの俺を馬鹿にしやがってくそくそくそがしかし俺はまだ負けてはいない奴らは瞬間移動で俺の攻撃を避けているだけだ俺を逮捕するという事は奴らは必ず俺に近づいてくるその時がチャンスだ!



「そこの男止まれ! 止まらなければ撃つ!」


 それでもなお逃走を続けるキネヅカ。


 ミクリとカンザキは低空飛行で更に距離を詰めていきます。


 瞬間移動をすることなくまっすぐに――。


 これをチャンスだと思ったキネヅカ。


 遂に左手を外に出しました。


 次の瞬間――。




 ドシュ!!




 銃弾がその手を貫きました。


 カンザキが拳銃を使用したのです。


「ぎゃああああああああ!!」


 転倒し地面をのたうち回るキネヅカ。


 手の甲に刻まれた魔法陣は血で赤く染まり、もう使い物にはなりません。



 カンザキは地上に降りると、キネヅカの元へ駆け寄ります。


「キネヅカ! お前を殺人の容疑で逮捕する!」


 遂に手錠を掛けました。

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