騒音嫌いの殺人鬼 7
カンザキが警察署へ連行した女は自称介護士を名乗っていました。
しかしどうやら裏社会では麻薬の密売人だったようで……。
アタッシュケースの中身は非合法薬物ウィザードだったのです。
さらに取り調べで分かった事があります。
女がキネヅカという男にウィザードを売ったこと。
キネヅカは視力障害を抱えているが、聴覚には過敏であるということ。
彼の自宅が先ほどの公園からすぐ側にあるということ。
その他の情報について今は不要と判断したカンザキ。
引き続き密売人の女を四課の刑事に任せて、警察署から外に出ました。
待機していたミクリが駆け寄ります。
「どうでした?」
「やはり鏡に映っていたあの男はクロだ……」
カンザキは取り調べの内容を可能な限りミクリへ伝えます。
「奴は日頃から聴覚過敏で悩まされていたらしい。これで殺害の動機も辻褄が合う」
「騒音ですね」
「ああ。薬物所持の疑いと連続殺人の疑い……。奴を逮捕するには十分な理由だ。ただ厄介な問題がある……」
言葉を詰まらせるカンザキ。
何やら懸念があるようです。
「逮捕状が出ないとか?」
「キミはなかなか鋭いな」
魔法絡みの犯罪行為は現行犯逮捕でなければなりません。
つまりキネヅカを逮捕するには目の前で魔法による殺傷行為を実行させる必要があります。
「それから奴は耳が相当良いらしい。もしかしたら私達の会話を盗聴されていたかもしれない。相手に先手を打たれる事だけは避けなければ……」
おそらくキネヅカは指先一つで人間の心臓を止めてしまう魔法を使ってくるでしょう。
そんな彼に後れを取るという事は即ち「死」を表します。
「なるほど。だったらまずはキネヅカっていう人が今何処にいるのか確認しましょう。私に考えがあります」
ミクリは懐から杖を取り出すと、頭上を飛んでいたカラスに向けて魔法を放ちます。
続けてコンパクトミラーを取り出すと、パチンと指を鳴らしました。
すると鏡が映し出す物がゆらゆらと変化していき……。
「これでこの鏡はあのカラスの眼とリンクしました。彼にキネヅカを探してもらいましょう」
飛んでいくカラス。
カラスが見た景色はミクリのコンパクトミラーへ映し出されます。
しばらくして……。
鏡の映像はキネヅカの自宅、アパートの3階バルコニーへ到着しました。
窓から覗き込んだその先には男が一人。
壁に背中を預けて腰を下ろし、両目は瞑っている状況。
間違いなくキネヅカです。
「「いた!!」」
思わずミクリとカンザキの声が揃います。
ここでカンザキには疑問が浮かびました。
「ところで何故このカラスは標的にされないのだろうか?」
そう……。
ミクリが操っているとはいえ、カラスはカラス。
カーカーと鳴き声をあげながら飛んでいるはずなのです。
さらにアパートの周辺は日頃からカラスのたまり場となっていて、周辺の電線にはたくさんのカラスがとまっています。
騒音嫌いのキネヅカが殺傷の標的にしない訳が無いのです。
「あ~、それでしたらたぶん彼は殺そうとしたけどできなかったんですよ」
何やら得意げなミクリ。
戦略は既に組みあがっているようです。




