お嬢様のお呼び出し 5
高熱を出し、ベッドの上で魘されるミクリ。
「うぅ~。もう呼び出しは嫌ぁ……」
ミクリの脇に挟んでいた体温計がピピピと鳴ります。
相部屋のアズサが看病をしていて、体温計を手に取り表示を見ると。
「39度8分。これはしばらく休んだ方が良いな」
隣にいたカレンは終始俯いたまま、何かを呟いています。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………」
そう言っているように聞こえます。
カレンの目線に合うよう屈むアズサ。
「お嬢様、大丈夫ですよ。ただの過労ですから」
次の瞬間。
「うわあああああん! こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛ー!!」
カレンは泣き出しました。
◇ ◇ ◇
次の日。
幼稚園でのカレンはずっと無言を貫いていました。
自分のせいでミクリが倒れた事が相当堪えたようです。
「あら、カグラザカさん。今日はあの使用人を呼ばないんですの?」
イリナが話しかけますが。
「…………」
やはり口を開こうとはしません。
「なによ、張り合いがありませんわね」
すぐに違うお友達の方へ行ってしまいました。
お友達のリカは事情を知っていて、カレンに慰めの言葉を掛けます。
「だいじょうぶだよ。ミクリさんの事だからすぐ元気になるって」
「…………」
その時、事情を知らないクラスメイトの男の子がやって来ます。
「おい! カグラザカ! その指輪って何でも呼び出せるんだろ? だったらオレにも貸せよ!」
「ちょっと! あなた空気を読みなさいよ!」
リカが間に割って入りますが。
「うるせえ! どけ!」
「きゃあ!」
男の子はリカを突き飛ばし、カレンに迫ると。
「ちょっと貸せ!」
無理やり指輪を奪い取ります。
「へへ! これで何でも呼び放題だぜ!」
「カレンちゃんに返して!」
「イヤだね。よし、きめた! まずは魔獣をよび出すぞ! 昨日テレビで見たつよくてカッコいいヤツを!」
男の子の願いを汲み取った指輪が強い光を放ちます。
「つよい魔獣出てこい!」
指輪が放つ光は更に強くなり、やがて消えると――。
「ガオオオオオオオ!!」
教室内には大きなライオンの魔獣が現れました。
「「「きゃああああ!!」」」
教室中がパニックになります。
側にいたカレンの護衛達や駆け付けた教員の手によって、子供達はすぐに避難しました。
しかし――。
「あれ!? イリナちゃんがいないわ!」
教員が気付きます。
「ガオオオオオオオ!!」
「ひいい! こ、こここ、来ないで!」
逃げ遅れてしまい、教室内の隅で震えあがるイリナ。
大人たちは他の子供達に気が散ってしまい、助けに入る余裕がありません。
咆哮をあげる魔獣。
「いやあああああああ!!」
イリナは悲鳴を上げて泣き叫びます。
教室の外で護衛に抱きかかえれているカレン。
イリナに起こる危機的状況に思わず助けに行こうとします。
「離して!」
「お嬢様! おやめください!」
「このままじゃイリナちゃんが死んじゃう!」
「暴れないで! 危ないですから!」
口を大きく開ける魔獣。
「ガオオオオオオオ!!」
鋭い牙を剝きだして、とうとうイリナに襲い掛かります!
「いやあああああああ!!」
泣き叫ぶイリナ。
もうダメだ……。
誰もがそう思った時。
カレンが叫びます。
「ミクリいいいいいいい!!」
次の瞬間――。
「オブジェクト変更!!」
突如として魔獣の鼻先に現れた大きな壁。
不意を突かれた魔獣は――。
ドゴッ!!
「ギャンンンン!!」
凄まじい勢いで激突して怯みます。
役目を終えた壁が床に吸い込まれるように消えた時。
そこに現れたのは凄まじい闘気を放つミクリの姿。
「でやああああ!!」
ドゴオオオッッッ!!
ミクリの空中回し蹴りが直撃し、魔獣は気を失います。
「導きの指輪よ、彼の獣を返還せよ……。強制転送!!」
ミクリの右手と共に煌々と光る魔獣。
その光が消えた時、魔獣は姿を消していました……。




