お嬢様のお呼び出し 1
ミクリが出てくるのを今か今かと待ち続けるカレン。
どうしてもミクリに絵を見せたい。
もう気持ちに引っ込みがつかないのです。
廊下をトコトコ歩いてた飼い猫をとっ捕まえて。
「あ! ねえ、クロ聞いてよ~。ミクリったら全然わたしに構ってくれないんだよ」
「みゃあ」
なんて不満を聞いてもらっていると、いつの間にやらウトウト……。
突然ガチャっと扉が開く音がします。
すぐに起き上がると、ミクリの後ろ姿が見えました。
「うへぇ、なんかもう一生分の書類を書いた気がする……」
なんて事を呟きながら、ふらふらと向こうへ行ってしまいます。
今度こそミクリに絵を見てもらうんだ!
「ミ――」
「ミクリミクリミクリミクリミクリミクリ~!!」
アズサがやって来て、ミクリに話しかけました。
いつもの雰囲気とは違うだいぶヤバめなテンションで……。
「ねえねえミクリ! 今度ミナトきゅんのコンサートに行くんだけどこの服とこの服どっちが私に合ってる!?」
「こっち」
「えー、でもー、こっちはちょっと私には派手すぎるんじゃないかと思ってるんだけど……」
「じゃあ、こっち」
「ホント!? 実は私もこっちなんじゃないかと思ってたんだよねー。ありがと! やっぱりあんたに聞いて良かった」
アズサは上機嫌にクルクル回りながら行ってしまいました。
よし! 今度こそ!
カレンは息を大きく吸って。
「ミ――」
「ミクリさん、丁度いい所に」
今度は護衛係のコバヤシがやって来ました。
「次回のお嬢様のお出掛けの件で、護衛の配置について相談を――」
更にそれを遮るように調理係のマナカが割り込みます。
「ちょっとコバヤシー! その話、長い? ミクリに新作スイーツの味見をしてもらう約束をしてたんだけど」
そして更に更に――。
「ミクリ―! ビッグビジネスだ! これはお前にしか出来ない! 急げ! これから作戦会議だ!!」
トウコが威勢よくやって来て。
極めつけは――。
「ちょっとミクリさん! 先程の書類に不備がありましたよ! 今すぐやり直しなさい!」
リノ再来。
こうして4人に囲まれたミクリ。
傍から見ていたカレンは思います。
わたしの方がずーっと前からミクリに話しかけたかったのに……。
でもこのままではいけない。
わたしはカグラザカの次期当主。
どんな困難にも立ち向かわなくてはならない。
お父様の口癖だ。
だから、絶対にミクリを取り返すんだからー!!
やけに重たい責任感を気負ってミクリの方へずかずか。
大人達をかき分けて、ミクリの腰へガシっとしがみ付きます。
「あれ? お嬢様、どうしたんですか?」
尋ねるミクリをよそにカレンは頬を膨らませて周囲を睨むと。
「もー! ミクリはわたしのせんぞくなの! わたしのミクリをとらないで!!」
大声で叫びました。
そして爆発した感情が抑えきれません。
「ミクリはわたしのミクリなのに~! うわああああああん!!」
大泣き。
「「「――ッ!!」」」
その光景に大人たちは全員硬直。
今まさに場が凍り付いた瞬間でした。




