15分の初デート エピローグ
週末。
メイドはご令嬢のカレンを連れて、遊園地へやって来ました。
これでもか! と、わんさかいる黒スーツの男達に護衛されながら歩くその姿は、通りゆく人々を驚かせます。
カレンは遊園地に来たこと自体が初めてで、嬉しそうにメイドの手を引っ張りはしゃぎます。
その勢いに圧倒されて、最初こそたじろぐ様子を見せていたメイドでしたが……。
アトラクションを乗り終えるごとに、次第にそのテンションは逆転します。
「お嬢様、お嬢様! 次は何に乗ります? 私はあれに乗りたいです!」
「じゃあ、ミクリ一人で乗ってくれば? わたしはここで待っててあげるから」
むすっと頬を膨らませるカレン。
初めて遊園地に来たことが嬉しかったはずなのに……。
心の中のたった一つのモヤモヤがだんだんと大きくなっているのです。
そんな思いを知ってか知らずか、メイドは優しい表情を見せると。
「では少し休憩しましょうか。私、飲み物を買ってきますね」
カレンを近くのベンチに座らせて、人混みの中へ消えていきます……。
…………。
だんだんと日が落ちてきて、人の数も減ってきました。
いつの間にか鳴き始めたカラスが、自然とカレンを寂しい気持ちにさせます。
どうしてお父様はここにいないのだろう……?
どうしてちっとも自分にかまってくれないのだろう……?
考えてしまうのはそればかり。
だけどそんな気持ちを一人のメイドが察してくれた。
忙しい両親に代わって尽くしてくれた。
なのに思わず八つ当たりのような態度をとってしまって……。
とっても嫌な気持ちがまるで黒い霧のように心を覆ってしまいます。
顔は俯き、なんだか涙がぽろぽろ溢れてきます。
その時。
「どうした……? それではせっかくの綺麗な顔が台無しだ」
聞き覚えのある声に、顔を上げると。
「お父様……?」
そこにいたのは旦那様。
「カレン。私は今からあれに乗らなくてはならない」
そう言って指を差す先には大きな観覧車。
「へ……?」
予想しなかった出来事に、カレンは思わずきょとんとします。
「だが一人で乗るのは寂しいんだ。だから、私と一緒に乗ってくれるか?」
それはカレンにとっては願ってもないことで。
「うん!」
満面の笑みをパアっと浮かべて父の元へ駆け寄るのでした。
◇ ◇ ◇
観覧車に乗る父娘の笑顔を遠くから見守りながら、メイドも自然と微笑みます。
「お嬢様、よかったですね……」
すると背後から声を掛けられました。
「上手くいきましたか?」
振り向くと、ハセガワがこちらへ向かって歩いてきます。
「はい! おかげさまで!」
「そう言ってもらえて何よりです。しかし……」
ハセガワは腕時計に視線を向けると。
「あの観覧車は一周約15分。どう見積もっても旦那様が次のお約束に42秒以上遅刻する事が既に確定しました。僕は先方へ謝りに行きますので、引き続きこの場はお任せします」
そう言い残し、すぐに去っていくハセガワ。
その背中に向かってメイドは思わず呟きます。
「42秒って……。神経質かよ」
なんだかモヤモヤしてしまうのでした。




