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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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ソファー

作者: AI子

いきなりマウスが動かなくなった。

右手に視線を落とすと、折り紙が一枚、テーブルとマウスの間に挟まっていた。

茶色の折り紙。全色入りの折り紙の中でも極めて残りやすい色だ。黒と白と灰色とそして茶色。

僕はきっと茶色なんだ。


この後の文章が浮かばず、パソコン画面と睨めっこしても良いアイディアが浮かばない。どうやら集中が切れたみたいなので、wordを途中保存してからイスから立った。挟まっていた茶色の折り紙を手に取る。さっきまでここで遊んでいた甥っ子のものだ。いきなり預かってくれだなんて不躾にもほどがあるが、まぁあの姉にしてこの甥っ子だ。すぐに馴染んで遊び始めた。マイペースで羨ましい。

常に他人の目を気にして、気にし過ぎて気にし過ぎ過ぎて大学に行けなくなった俺とは大違いだ。

ゼミの教授とはゼミ会には出ないかわりに、定期的に今の研究状況とレポートの提出を必須に休ませてもらうことを承諾してもらった。休学届を出しているわけでもない。単位は2年生までの間に取れるだけ取ったのでもう足りている。ゆるい自主休校中だ。


リビングに向かい、テーブルに折り紙を置いてから、お昼寝を決め込んでいる甥っ子の様子を覗う。一人暮らしには不似合いなでっかいソファーの上で猫みたいに丸まって眠っている。ソファーの色も、適度に色彩の褪せたクッションのセンスも俺が選んだものじゃない。でも、それは俺の好みそのものだった。


「一人暮らし記念に買ってあげる。」

 家具のカタログ雑誌を見ながら義兄さんであるところのアサちゃんが言った。姉と俺とアサちゃんで幼馴染だったから昔の呼び名の癖が抜けない。

「要らないよ、部屋が狭くなる。」

「でも、コウくんって、よくソファーの上で眠っていたじゃん。安心できる場所は必要だよ。」

「安心って、俺もう子供じゃないんだけど?」

「僕から見たらまだまだ子供だよ。ここは義兄さんにいいところ見せなさい。」

「そんなに年変わらないよ。」

「大学生と社会人じゃあ、天と地ほども差があるよ。これはコウちゃんが大きくなったら分かるよ。」

「背は俺の方が高いけどな。」

「今、それ関係ないだろ。」

俺の頭をクシャクシャにしながらアサちゃんは笑っていた。つられて俺も笑っていた。たぶんそれはとても幸福な時間。仲の良い兄弟みたいだった。


後日、部屋に送られてきたソファーは、でっかくて、場所をとって仕方がない。だいいち、受け取りの日とかまったく聞かされていなかったし、俺は贈られることを本気に捉えていなかった。しかし、アサちゃんはやるときはやる男である。やらかしてしまう男である。その日いるって伝えていないはずなのに、なぜかアサちゃんはそういうところは外さない。全くもってやる男である。

頭まですっぽりと覆う背もたれや、俺好みのクッションを持つと、ああ、アサちゃんが選んでくれたんだなぁと思う。


甥っ子が少し動き出す。昼寝の時間は終わりみたいだ。時計を見るともうじき正午。姉からもらった軍資金でデリバリーを頼んでもいいな。今は種類が豊富でキッズメニューも選べないほどだ。


「おーい、そろそろ昼だぞー。ごはん何にする?」

 ソファーの空いている場所に座り、甥っ子の背中をさする。起き出してはきたがまだ眠いようで、うー。と唸りながら両手で顔を覆っている。

それを見てふと、小さいころアサちゃんと昼寝をしていた時の頃を思い出す。俺が先に起きて、隣で寝ていたアサちゃんを起こす。眠たいアサちゃんは両手で顔を覆って起こされない様にささやかな抵抗を見せる。その両手を剥がしてアサちゃんの顔を見るのが好きだった。

好きだったんだ。ずっと好きだったんだ。


ほんとに親子なんだなぁ。

ほんとに結婚したんだなぁ。



「何食べたい?」

「ラーメン!」

「え、ラーメンかぁ。じゃあパソコンで探してみよっか。」

 リビングから離れてパソコンの場所へと向かう。薄いブラウンの、俺には不似合いなソファーを背にして。


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