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第二話「覚めない悪夢」

「食事、持ってきたわ」


 独房の扉が開き、トレイを持ったメイリン・バーツが現れたのを見た学生服の少年はしかめっ面をした。


「まっずいんだよな……帰って豚骨ラーメンが食いてぇ」

「贅沢言わないのハヤミ・トキヤ」


 トレイを差し出され、時矢は渋々受け取りつつもすぐに手を付けた。結局彼は異次元波動砲暴発事故でサルベージされて以来、ずっと幽閉状態にあった。得体の知れない異世界人を監視する任を与えられたメイリン以外とはろくに会っていない。そんな状況に不満を抱きつつも、能天気な少年はどうせ一時の夢だと思い込んでいた。


「それとこれも。人類解放軍の制服。食事を済ませたら着替えて。サイズは合ってるから」


 さらにメイリンは灰色の軍服一式を時矢の傍に置いた。少年はガツガツ食べるのを止めて、軍服の方を注視する。


「これで俺もお仲間ってか?」

「隊長命令だから……」

「んだよ、そこは喜んで迎え入れてくれよ」


 メイリンが不服そうにするから時矢は口を尖らせる。彼は自分の制服とメイリンの制服とを見比べ、言った。


「なんでメイリンはそれ、着てるんだ?」

「なんでって、そりゃ軍人だからでしょ」

「軍人になったのはなんでって言いたかったんだけど」


 彼の質問に目を細めるメイリン。


「あなた……私のプライバシーのことばかり」

「でもなんでも質問に答えるって言ったじゃん」


 赤毛の女軍人はむぐっと口を(つぐ)む。だが頭を軽く掻いた後口を開いた。


「私の父は軍人だったの。代々軍人の家系でね……」

「じゃ、親に決められたってこと」

「いや。父は私が幼い頃に戦死して、母は私が軍人になることに反対してた。でも私は、父の影を追いかけてここに来たの。同じ軍人になればどういう人だったか理解できるかもしれないって」

「ふーん」

「ハヤミ君、あなたはかわいそうね。自分の意志でなく軍人にさせられそうになってるもの」

「そっか? ここから出してくれるっつーならなんでもいいよ」


 時矢は意外そうな顔をする。軍服に袖を通すことの意味を彼は深く考えてはいなかった。


「なんか、あなたと話してると調子狂う……」


 ちょうどメイリンが溜息をついた時だった。大音量のアラームが鳴ったのは。


「第二種戦闘態勢発令、全パイロットはただちにブリーフィングルームに集合してください」


 艦内放送を聞いた途端、メイリンは表情を引き締めた。そしてぽかんとしている時矢から食事を取り上げる。


「今すぐ着替えて」

「えっ?」

「あなたも来るのよハヤミ・トキヤ。ほら、60秒で支度しなさい」

「つったってよぉ……女の前でパンツ一丁になれってか?」

「グズグズしないの!」


 発破をかけられて、仕方なく時矢は高校の制服を脱ぎ散らかした。下着姿を彼女に見せるのはこれで二回目である。




 メイリンに連れられてブリーフィングルームに到着した時矢は、舐め回すように周囲を見た。

 室内には三人いた。顎髭が特徴的なギア・オスカーと、一人は短い金髪を逆立てた伊達男と、大柄で色黒のガッシリした男でいずれも少年より年上に見えた。


「遅れてすみません、ギア隊長」

「構わんよ。今から始めようってところだから」

「そいつかぁ? 例の異世界人」


 金髪の男が顎を突き出す。ギアは手を叩き、注目を集める。


「はいじゃあ、簡単に自己紹介」

「俺はジャック・ロウだ。階級は中尉、お前より圧倒的に先輩だからな。尊敬しろよ」


 金髪のジャックは名乗りつつ、時矢の額を指で弾く。第一印象で嫌味なお調子者だと時矢は感じた。


「レイブン・ハイウインド。少尉だ」


 それ以上でも以下でもないと大男は腕を組んで短く言う。


「メイリン・バーツ少尉です。改めて言うまでもないけど」

「俺は早見時矢、フツーの文武両道な高校生だ。よろしくなァ」

「それじゃ、みんな仲良く」


 ギア隊長はニヤリと笑って締めると、壁にかかったスクリーンに手を置いて映像を出した。

 そこにはイソギンチャクに似た何かが映っていた。メイリンがハッとする。


「ベイダー! こんな近くに潜んでいたの」

「最大望遠で捉えたものだ。推定全長40メートル、ヴァーチャー級。見ての通りコロニーの目と鼻の先に現れたはぐれベイダーだ。看過できない。そして本艦が一番距離が近い」

「ということは、やっとハイメガ波動砲のテストをやれるな!」

「その通りだジャック、これからXENO-08dの性能試験を兼ねたベイダー殲滅(せんめつ)作戦に入る。概要はこうだ。ジャックが08dデュランダルに搭乗、狙撃を担当。メイリンとハヤミはゲイボルグ一号機と三号機に搭乗、誘導を担当。ゲイボルグ二機で目標をデュランダルのハイメガ波動砲の射線におびき寄せ、これを撃滅する。ハイメガのカタログスペックは従来の波動砲の五倍の出力とのことなので、ヴァーチャー級なら一撃だろう。今回レイブンの二号機は待機ね」

「待ってくださいギア隊長、レイブンじゃなくて新入りのコイツを使うって言うんですか?」

「お前とメイリンとでフォローしろ。今回は手頃な相手だし、実戦経験を積むにはいいでしょ」


 ギアはジャックとメイリンに順番に肩を叩いた。メイリンは敬礼するがジャックの方は髪を掻き上げ、じっと時矢を睨んだ。


「おい新入り、足引っ張ったら二階級特進だぞ」

「はいそこ、脅かさない。ハヤミをノーマルスーツに着替えさせてハンガーに連れていってくれるな?」

「了解であります」

「それじゃ各自、健闘を祈る」


 隊長が再び手を叩くとそれは解散の合図だった。ギアがブリーフィングルームを出るとジャックは時矢の(えり)に手をひっかける。


「来い新入り」

「……おっす」

「ジャック中尉、あまりハヤミ君をいじめないように。彼は右も左もわからないんだから……それじゃあ後でね」


 メイリンはそれだけ言うと隊長の後に続いた。するとジャックは時矢を手繰り寄せて、耳に吹き込む。


「メイリンに気があるならやめとけ」

「は?」

「お前みたいなガキはああいう女にちょっとでも優しくされたらコロッと落ちるだろうが、あいつ、男には興味がないって言うんだぜ」

「それってメイリンがレズってことか?」

「あのなぁ、バカが短絡的に考えるなよ。眼中にねぇから適当に断ってるだけだっての!」

「そう言うっつーことは振られてんのかよ、ジャッキー少尉」

「ジャック中尉だ!」


 怒ってジャックは時矢の頭を思いっきり押さえつけた。そんな馬鹿馬鹿しいやりとりを見てもレイブンは眉一つ動かさなかった。




 深緑に塗られたXENO-08dデュランダルを見上げるジャックに整備士の男は機体を指差して言う。


「コイツのハイメガ波動砲は通常より出力が上がってる分エネルギーの充填に時間がかかる仕様だ、もっとも二発目のことは一発撃ってみなきゃ何もわからんと言っていい。試作段階だから過信するなよ」

「ったく、いつものことだなマッケイン。それにしても本当にアイツを出していいのか?」


 ジャックはカタパルトに移動するゲイボルグ三号機を見やる。


「異次元から来た坊主の性能テストをやるってんで言うんでしょ」


 整備士のマッケインはそうドライに言ってデュランダルから離れると、ジャックもジャンプしてコックピットブロックに取り付き乗り込んだ。


「後がつっかえてるんだ、さっさと出ろよハヤミ・トキヤ」


 ジャックのぼやきなど聞こえないゲイボルグ三号機のコックピット内で時矢は大きく息を吸い込む。昂る気持ちを抑えようと。


「なぁ~んか、アニメの主人公になった気分だぜ」


 そう言う声が緊張で震えているのに彼は無自覚であった。

 三号機のモニターに眼鏡を掛けた女性通信士が映る。


「オペレーターを務めますアレックス・ゾーパーです。よろしく」

「おう? 美人さんじゃん。よぅろしく。ところで彼氏いる?」

「ハヤミ君、目の前の三つの信号が全て青になったら発進するわ。いいわね?」


 調子に乗る時矢をいなして事務的な対応をするアレックス。メイリンの方が反応が面白いと時矢は思いつつ、左右のレバーを握る。

 カタパルトの信号が赤から青に切り替わる。


「こういう時なんつーんだっけ……うわっ」


 機体が弾丸のように発射されて、衝撃で背中を打ち付けた時矢は掛け声を言いそびれた。

 赤いXENO戦闘機が闇色の宇宙に投げ出される。時矢はすぐさまゲイボルグのバーニアを吹かし、シミュレーション通りに機体を制御してみせる。この時彼は何もない宇宙を見て、物に溢れた自宅の風景を思い出した。あるいはいつか両親に連れて行ってもらった島の外の遊園地を。そこではぐれて迷子になった記憶が蘇る。どうして今になってそんなことを思い出すのか、彼自身はわからず困惑する。


「なんで俺、こんなとこにいるんだ……?」

「ゲイボルグ三号機、コースから外れてるわ。注意して」


 不意にモニターに先行する一号機のメイリンが映った。時矢は慌ててレバーを倒し軌道を修正する。そういうことは出来てしまう少年だった。


「どう、大海原に初めて漕ぎ出した感想は」

「すっげぇ……一人って感じっすね」

「安心して。あなたは一人じゃない。ブリッジも動きを把握しているし、私も付いてるから」


 初任務に挑む少年を気遣うようにメイリンは言う。それに気を良くして時矢はペダルを踏み三号機を一号機に並べる。


「ちょっと、だからって近づけすぎないの!」

「目と目を合わせるのが会話の基本っしょ、へへへ……」


 時矢は無邪気に笑ってみせるも表情が強張ってるようにメイリンには見えた。

 わけわからぬまま戦場に投入されている少年の境遇を思い、彼女は言葉を口にする。


「私、さっきは父の影を追って軍人になったって言ったけど、本当は他の選択肢を考えたくなかった……自分の将来を決めるということから逃げていたのかもしれないの」

「へぇ?」

「もしも自分に向きあえてたら地元の飲食店の看板娘だったり、商社でバリバリキャリアを積んだり、あるいはアイドルにだってなれたかもしれないわ」

「メイリンがアイドル?」


 少し小馬鹿にしたようなニュアンスに「似合わないでしょ」とメイリンも肯定する。


「自分の生き方に後悔はしていない。でも時々考えるわ。違う道があったんじゃないかってね。今更考えてももう遅いのに。だからあなたはよくよく考えて、選択した方がいいわ。自分の意志で」

「ああ、説教か」

「違う、この道の先輩のちょっとタメになる話」

「ふーん、でもまぁ期末テスト五分前みたいな気分が紛れたぜ。ありがとなァ」


 時矢がゲイボルグ一号機に向かってサムズアップする。ちょうどその時一号機は急上昇して逃れたように見えた。一瞬時矢は嫌われたのかと思ったがそうではなかった。先程まで一号機がいた空間に光の奔流が走る。


「目標に察知された、想定より射程が長く反応が早い!」


 ベイダーの放つ熱光線を避けてメイリンはオペレーターに報告する。一号機と三号機のモニターにトリスメギストス艦橋にいるギア隊長の姿が映る。


「修正したデータを送る。一号機、三号機、距離を取りつつポイントAまで誘き寄せろ」

「了解」

「お、おう?」


 時矢はカメラの最大望遠でイソギンチャクに似た敵ベイダーの姿を捉えた。長い触手の先が光り、熱光線が発射される。狙いは正確、真っ直ぐにゲイボルグ三号機を撃ち抜かんと迫る。それをギリギリのところで三号機は潜り、かわした。


「当たるかよ、ボケ」


 悪態をつく時矢。レバーを前に倒して接近し、トリガーを必要以上に強く握って三号機の二本のアームに装備したバルカンを斉射した。命中するが傷一つつかないベイダー。代わりに無数の触手から何か霧のようなものが噴き出される。


「今度はなんだ……避けられねぇ!」

「目標ヴァーチャー級、ベイダーバトルフィールドを展開。ハヤミ君、落ち着いて対処して」


 オペレーターのアレックスの声が響くも霧のようなVBFに包まれて時矢は冷静を欠き、レバーを無茶苦茶に動かそうとする。暗闇の宇宙に色がついて見える。その色は、澄み渡るような青だった。少なくとも時矢はそう感じた。

 海と繋がる空の青。時矢は幻視する。生まれ育った離島の原風景を。


「ありゃ、もしかして家に帰れんのか? 俺……」


 時矢はペダルを思いっきり踏む。吸い込まれるように、敵の懐に飛び込んでいくゲイボルグ三号機。ベイダーの方も呼応して接近し、一本の触手が急激に伸びていく。三号機を絡めとらんと。


「三号機、ハヤミ君、戻りなさい!」

「だってよ、あそこにうちの島があるんだぜ」

「VBFが見せる幻です! 敵を見て!」

「うわ!」


 アレックスの呼びかけむなしく、三号機に触手が巻き付く。衝撃にのたうって時矢はようやく正気に戻った。恐怖が少年を満たす。

 だが機体も彼も押し潰される前に、触手は千切れた。一筋の光に焼き切られて。一号機が放った波動砲である。三号機はバーニアを思いっきり吹かし触手から逃れる。


「ハヤミ君! 今のうちに離脱!」


 メイリンがモニターに割り込んで声を掛ける。だが三号機は逆に再びベイダー本体に接近しようと飛び出した。


「三号機!」

「よくもやりやがって、落としてやらぁ!」

「ちょっと、私達の任務は誘導よ。勝手な真似はやめなさい!」


 メイリンの制止も聞かず、時矢はゲイボルグ三号機を加速させる。ベイダーはさらに他の触手を伸ばしてこれを捕まえようとするが、三号機は巧みに避けた。そしてカメラでベイダーの触手の根元にある大きな赤い半球状の器官を見つけると、無謀な少年は波動砲の照準を合わせた。


「もらった!」


 三号機の波動砲が目標を撃ち抜く。するとベイダーの触手が本体から抜けていった。


「やったか?」

「ダミーコアよ! 分裂しただけ!」


 メイリンが叫ぶ。各触手は宇宙空間を這うように動き、XENO戦闘機達に襲い掛かる。当然距離の近い時矢の三号機から狙われた。なすすべもなく襲い掛からんとしたその時、非常に大きなエネルギーの塊が通り過ぎて根こそぎ触手共を彼方へ消し飛ばした。

 元は40メートル級のベイダーが分裂して広がったのにそのほとんどが後に残っていない。これがXENO-08dデュランダルのハイメガ波動砲の威力であった。しかし搭乗するジャックは焦っていた。


「おい、今のでショートしちまったのか!? エネルギーが再充填されねぇ!」


 目の前のベイダーが消えてぽかんとする時矢だったが、わずかにハイメガ波動砲を逃れた生き残りの触手がいた。メイリンの一号機の方に向かったものである。急転換して時矢の三号機が狙われないよう彼女はバルカンを撃って引き付ける。そして波動砲のスイッチを押した。しかし驚愕すべきことにベイダーの群体は察知して散開、次の波動砲が撃てないタイムラグの間に一号機に取り付いた。


「一号機、ベイダーに掴まりました! 侵食されていきます!」


 オペレーターの声がトリスメギストスのブリッジに響く。ギア隊長はメイリンに通信を送る。


「メイリン、落ち着いて自爆コードを入力後脱出しろ」

「了解」


 メイリンは真っ赤なモニターと鳴りっぱなしのアラートに震えながらも、自爆コードを入力する。そしてコックピットブロックの切り離しを図ろうとしたが、装置が作動しなかった。メイリンは何度も脱出ボタンを押す。だが諦めて手が止まる。


「駄目、かぁ……お父さん……」

「三号機」

「へ?」

「一号機を波動砲で撃破しろ。いいな」

「あ?」


 突然のギアからの命令に時矢は戸惑う。そんなこと、出来るわけがない。だってメイリンが乗っているのに――


「どうしたのハヤミ君。早く一号機を撃ちなさい! これは命令です」


 アレックスが急かす。だが時矢は首を横に振った。


「おかしいだろ、一号機を撃ったらよぉ……メイリンが無事じゃすまねぇだろ」

「ベイダーには同化吸収能力があるの。あれはもうベイダーなのよ、ハヤミ・トキヤ君」

「撃てるかぁ! クソ、俺が助け出してやる!」


 宇宙を漂っていた自分が助けられたように。時矢は三号機のアームからバルカン砲を外し、一号機に向かって加速する。しかし一号機は逃げ出した。同型機のはずなのに機動性が段違いで追いつけない。三号機はアームを伸ばすが届かない。流星のように消えていく。


「嘘だろおい……」

「作戦終了。三号機、トリスメギストスに帰投しろ」

「隊長サンよぉ、メイリンが行っちまうぜ……?」

「これ以上の命令無視はその場で銃殺刑だよ、ハヤミ・トキヤ君。ジャックに蜂の巣にされたくなければ帰投しなさい。いいね?」


 VBFが消えてレーダーに接近するデュランダルが表示されていた。時矢は思わずモニターを叩く。だがもうどうにもならなかった、何もかもが。後ろ髪引かれる思いで機体を反転させる。

 トリスメギストスはデュランダルと遅れてゲイボルグ三号機を収容した後、戦闘のあった領域から離脱する。

 メイリンの一号機は戻らなかった。この時は、まだ。




 更衣室でパイロットスーツを脱ごうとしていた時矢は、ジャックが入ってきたのを見て躊躇(ためら)いがちに声を掛けた。


「ええと……その……」

「なんだよ」

「ジャン中尉、メイリンはどうなったっすか……」

「おい!」


 ジャックはいきり立って時矢の胸元を掴んだ。


「何ヘラヘラしてやがる、てめぇの馬鹿のせいでメイリンは死んだんだぞ! わかってんのか!」


 時矢の目が泳ぐ。少年は震える声で力なく言う。


「ハハ、全部夢なんすよね……おかしいと思ったんだよなぁ、いきなり宇宙に放り込まれてさぁ……」


 ジャックは思いっきり時矢の顔を殴りつけた。時矢は勢いで吹っ飛ばされ、ロッカーに頭を打つ。


「目ぇ覚めたか? まだってんならもう一発お見舞いしてやる」


 時矢の胸元を再び掴み、手繰り寄せるジャック。だが後ろから大男に肩を掴まれる。同じ戦闘機パイロットのレイブンである。


「やめておけ」


 短いが威圧的な言い方だった。ジャックは時矢から乱暴に手を離す。


「いいか、この船でやっていくなら弁えろよ。それと、俺の名前はジャック・ロウだっつてんだろ!」


 ジャックは時矢を指差すと、着替えることなく更衣室を出て行ってしまった。レイブンも用は済んだとばかりに後に続く。去り際にこの巨漢は言い残した。


「気に病むな、お前のせいじゃない。今日がメイリンの天命だったというだけだ」


 一人残される時矢。顔面を赤くして、彼は呟く。


「そんな冷たい言い方、ないよな……」


 自ら自分の頬をぶって、時矢の顔はさらに真っ赤に燃えた。

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