龍種の里と新たな仲間
さて、レンの同行者である筈のベルフェ王は今現在何処に居るのかと言うと、闘技場の貴賓席で当代の龍種の長と観戦していた。
「しかし、屈強な龍種に対して翻弄し続けられるレン君には驚かされてばかりですね。確か赤龍って攻撃特化型の龍種じゃありませんでしたか?」
長は溜息混じりに懇切丁寧に説明を始めてくれる。
「何も赤龍だけが攻撃特化な訳では無い、属性が"火"な為に周囲への被害が拡大し易いと言うだけの事だ。
例えば、大地属性である黄龍は大地震を起こせるし、水属性の蒼龍は大陸の中央でも大津波を呼べる。
其々属性こそ違うが、"極めれば"天災級の力を引き起こせるのが龍種よ。」
是迄歴史を紐解いても龍種による被害はほぼ皆無、それは今日まで龍種自身が全くと言っても良い程人種、亜人種、魔族に対して関わりを持たずに暮らして来た証左でもある。
それ故に龍種の生態や生活様式等数多くの謎を内包して来た。時折観測される他は創世記神話の中にしか登場しない幻の種族とされて来たのだ。
辛うじて魔族とエルフ族は存在だけは確認出来ては居たが、その調査を行うにはこの広大な魔の森を突破しなければならず、更に突破出来たとしても龍種と事を構えても無事に帰り着ける者が皆無な為調査を行う事は夢のまた夢であった。
「何にせよ長年謎に包まれていた龍種国と会合する機会に恵まれて僥倖です。」
「そんな大層なモノでは無い。それに国等とは烏滸がましい、集落で充分だよ。」
「そう言えば長は何故王を名乗らないのですか?小規模でも民が居り街があるなら統率する者は王を名乗っても差し支えないと思いますが?」
「ベルフェ王よ、国と言う枠組みを決めるのは何だと思う?」
「やはり民でしょうか。」
「それは大前提だろう。民の居ない国など国とは言えん、それは民を護り、食わせ、働かせると言う事だ。
だが、龍種は食いたければ森で狩りをし、外敵も天敵も居らず、働く程の仕事も無い。日々を怠惰に過ごし、暴れたければ闘技場で対戦し、時折珍しい物を見つければコレクションするだけの穀潰しの集団だ。
そんな集団に王を名乗ったって滑稽なだけであろう?」
成程至言ではあるが、ならば支配欲も無いと言えるのだろうか?
「ならば他種族を支配しようとは一度も思わなかったのですか?」
長は少し考え込んでからポツリポツリと話し始める。
「かつては過去にそう言った者も居ったと伝え聴いている。だが、その試みは失敗に終わったそうだ。」
「何故です?龍種程の力があれば幾らでも支配出来るでしょう。」
「サイクルが違い過ぎるのだ。」
「サイクル?」
「生活サイクルの事だ。龍種は一度食べれば一ヵ月程は食べなくても平気だし、眠りに着けば三ヶ月は起きる事は無い。」
「そりゃまたノンビリしたもんですな。」
「だろう?だがそれが崩壊の元だった。」
「?」
「寝ている間に民の全てが逃げ出してな……それも金目の物も何一つ持ち出されて無くなって居った。」
あ、これ長の経験談じゃないのか?多分恐怖支配した挙げ句に耐え兼ねた民が眠りと共に夜逃げしたのだろう。
知らなかったとは言え古傷を抉ってしまったのかも知れない。ここは話題を変えないと。
「此方ばかり話しておるのも不公平ではないか?今度は此方の質問に答えて貰おう。」
「ほい、何が聞きたいのでしょう?」
「あの人種の子供は何者だ?」
「ふむ、何者かと問われましても、霊峰の南西に遥か遠く入江近くに居を構える規格外の子供としか。」
「通常人種に限らず魔族もエルフ族もドワーフ族に至るまで龍種には勝てる道理が無いのだ。例外として勇者が匹敵する力を持っておるが、龍種に大群で攻められたら抗う術は無い。何故だか分かるか?」
「単純に力の差、体格差、物量の差でしょうか?」
「いいや、各種族は同格では無い物の圧倒的数の多さでは人種が一番だろう。ドワーフならば力と技術、魔族ならば圧倒的な魔力、エルフならば精霊との親和性。どれもが一長一短があれど、総合的な力は同じなのだ。」
「……総合力が同じ?ならば何故人種だけがああも繁栄しているのですか?力も魔力も他種族よりも劣っているのに。」
「人種か、あれの真骨頂は繁殖力だよ。獣人の様に繁殖期がある訳でなく、魔族やエルフの様に長寿でも無い。弱いからこそ、短い生命だからこそ繁殖力がずば抜けて高くなり繁栄出来る、それが答えだ。」
「なら、レン君は……何故。」
「龍種に勝てない道理の事を話して無かったな。それは他の種族は神の創造物であるのに対し、龍種だけは神竜様の子孫であるからなのだ。」
「半人半神。」
「そうだ、創世記にも記されている様に、各其々の神々は自分の姿に似せて生物を創り上げたが、神竜だけはどんなに頑張っても知性ある生物を創れなかった。
そこで折衷案とでも言うのか、人種の神が提案して来た。神竜本人と人種の間に子を設け自分の種とする事を。
その代わり龍種となる者は人種に限り力を示した者との間に盟約と婚姻を約束させたのだ。
それが追々人種を護る要になるだろうと。」
「では、外野に徘徊する竜は。」
「うむ、嘗て神竜様が試行錯誤の末生み出した失敗作の子孫だ。」
謎を解き明かすどころか、衝撃の事実に行き当たった様な顔でベルフェ王は押し黙る。
「そんな顔をしなくても良い。魔族で言うなら魔族とレッサーデーモンの様な関係性に過ぎん。」
言われてベルフェ王も額を叩き"成程"と納得した。ペットにはなり得るが、同族としては受け入れないモノ。
そう考えれば何も問題は無い。
「その上であの子供は龍種と互角どころか完全に上を行っておる。世代を重ね神竜様の血が薄まったとは言え神の眷属に対抗出来るのは神を除けば同じ半人半神と神に指名された勇者のみ。あの者は勇者なのか?」
「いえ、勇者ではありません。それだけは確実に言えます。」
「何故だ?」
「数日前に簡易プレートではありますが、彼のステータスを見せて貰ったので。」
「成程、適正職業はなんと?」
「彼の信頼を裏切る事になるので私からはお教え出来ません。」
「そうか、出来れば友好関係を築きたい所だな。親父がかなり強引な事をしたと聞いていたからな。」
「大丈夫でしょう。あの子はあれで中々のお人好しですから。」
「お人好しか、それだけに怒らせた時どうなるか恐ろしくもあるな。」
「それも御息女が身を以て体験したので大丈夫でしょう。」
流石の長もギョッとした顔でベルフェ王に詰め寄ってきた。
「あの愚娘は一体何をやらかした?!」
「ああああ、お、落ち着いて、落ち着いてくだダダダダ。」
ベルフェ王の肩を激しく揺すり大慌ての長。
「此れが落ち着いていられるか!親父が一人っきりの孫だからと甘やかすから碌でもない事をしでかす!戻ったらキツく折檻してやらねば!」
「うわぁ!何か物凄い悪寒が駆け抜けた。」
「お姉ちゃん大丈夫?病気だったら寝たほうがいいよ?」
「いや、多分大丈夫。我の未来の旦那様の勇姿を観戦しようぞ。」
一瞬素が出たが、直ぐに弟分の前だからと中二病スタイルに戻るククル。それをレンが見ていたなら間違い無く素の方が好感を持たれるだろう事は本人も気付いてない。
龍種の価値観なのか、より強者を演出する方が好かれると思いがちなのだろう。
長がベルフェ王と戯れ、ククルが悪寒に悩まされている間も闘いは続いている。
「流石は龍種、中々タフですね。」
「舐めるな!龍種が人種如きに簡単に負けてたまるか!」
「その粋だと言いたい所ですが、いい加減満身創痍の御様子。そろそろ終わりにしてあげます。」
赤龍は強がっているが、レンの言う通り彼方此方腫れ上がり鱗も所々剥がれ落ちて出血も見られる。
当の赤龍も最初の闘いの理由すら忘れ、単純に勝つ事しか頭に無かった。単純な奴程忘れっぽくて羨ましい限りである。
「一つ聞きたい。」
「どうぞ。」
「お前魔法はその甲冑しか使えない訳じゃ無いんだろう?何故使わない。」
「使うと被害が尋常じゃ無いので。」
「分からねえな。威力の調節も出来ない程魔力操作が下手な訳じゃ無いだろうに。」
言いたい事も最もだが、レンにも使いたくても使えない理由はちゃんとある。
「ん〜まぁ理由としては、成長を続ける魔力量に対して魔力操作の熟練度が追い付かないからと言いましょうか。」
「何だよそれ!普通魔力量は増えても一度に増える量は微々たるもんだろうが。」
「そうなんですか?僕は人種に会ったのもつい最近なので、その辺の機微は分からないものですから。」
「因みに攻撃魔法を最小威力で放てばどの程度になる?」
「そうですね、目一杯抑えてフリーズアローを放ってこの里の半分を氷漬けにする感じでしょうか?」
「オイオイ、そりゃまた盛り過ぎってもんだぜ。」
ですよねー、普通そんなの誰も信じないよね。
曖昧に笑っていると赤龍も察したのか驚いた顔に変わる。
「え?もしかしてマジ?まじなのか?」
後ろで観戦しているククルの方へと赤龍が視線を投げかけると、ククルもウンウンと首を縦に振っている。
「ぐわぁ、手加減されてこの体たらくか。辞めだ辞めだ!俺の負けだ、もぅ好きにしやがれ!」
そう言って腹を見せて大の字に転がってしまった。
ククルの方へと視線を向けると、珍しく此方の意図を察してくれたのか説明してくれた。
「それは降参のポーズです。もぅ抵抗しないから煮るなり焼くなり好きにしろって意味ですね。
この場合命の遣り取りである時は、なるべく苦しまぬ様に止めを刺してやるのが礼儀です。」
それを聞いて僕も赤龍もギョッとした顔になる。
「ククルそれは幾ら何でも。」
「何を今更、赤龍のヤツは闘いの初めに"其奴を殺せば盟約も切れるし"と言ってたではないか。詰まり此れは試合では無く、死合と言う事だ。」
それを聞いた赤龍も絶望感溢れる顔でククルを見ていた。
「俺はそこ迄嫌われていたんだな。いいよ殺せ、どうせなら一思いに頼む。」
最早覚悟を決めたのか哀愁漂う表情で、序に龍化も解いて大の字に転がっている。
流石に哀れ過ぎる。僕はゆっくりと赤龍の元へと歩み寄り覚悟を決めた顔を見下ろす。
赤龍も涙を溜めた目をギュっと瞑り最後の断罪を待つだけになった。
「赤龍、これで終わりにしよう。」
僕は手を赤龍に翳し魔法を放つ。
固唾を呑んで見守っていた観客達が"え?!"って座喚く。
そう、僕が放ったのは回復魔法。回復魔法なら傷が回復すれば余剰魔力は空気中に拡散して他には影響が出ないのが利点だ。
只のヒールでさえ僕の魔力量なら部位欠損でも無い限り完全に完治する。
「!」
何時までも死が訪れない事に違和感を感じた赤龍がそっと目を開けた。それどころか傷が全て治っている事に不思議そうな顔で僕の方を見る。
「僕は最初から"死合"では無く"試合"と思ってたからね。負けを認めたなら後はノーサイドだよ。さっきのククルの言った事は、多分悪巫山戯だったんじゃないかな?幾ら嫌っていても相手の死を望むなら僕はククルを許さない。」
ククルの方へと向いて"ね?"って合図を送ると、流石のククルも固い表情で首を縦に振っていた。
「いやぁ、ダーリンなら優しいから回復するって信じてたよ。」
あははと態とらしい笑いで誤魔化して御茶を濁すククル。今回はそう言う事にしといてあげるよ。
丁度貴賓席らしき所から物凄い怒気を孕んでいる人もいる事だしね。
「じやあ、僕の勝ちって事で、勝者の命令を聞いて貰いましょうか。」
「あれ?それって……イヤイヤ此れは俺が暴走して仕掛けた喧嘩であって……。」
言い掛けた所で赤龍の肩を叩いて黙らせる蒼龍と緑龍。(赤髪が赤龍だったから多分合っていると思う)
「往生際が悪いぜ赤龍、俺等も付き合うから大人しく沙汰を待とうや。」
「アニキ此処は最後まで男らしく行きましょう。」
観念したのかガックリ項垂れている。
「じゃあ言うよ。君達三名は今後悪さをせず、虐めをせず、他者を貶める様な行為を禁ず。此れを破ったと言う知らせを受けたら僕が直々に鉄槌を下しに来るからね。」
キョトンとした顔で三名は呆けた顔で僕を見ている。
「………はぁ?」
「くくくあははははは。良かったじゃねえか赤龍、これからは真面目に生きろとさ。」
「オイオイ俺達は勝ったらお前を奴隷にして死ぬ迄玩具にする気だったんだぞ!そんな温い要求で良いのかよ、」
「良いんですよ、どうせ三人束になって掛かって来ても僕の勝ちは揺るぎませんでしたから。」
「アニキ、人の好意は素直に受け取るもんですよ。」
蒼龍、緑龍の言葉と沙汰の内容のどっちが原因かは分からないが、涙目になった赤龍はその場に跪いた。
「寛大な沙汰痛み入ります。就きましてはククルの旦那様にお願い申し上げます。俺を配下に加えて頂きたい。」
赤龍の言葉に蒼龍も緑龍も跪く。
「赤龍が決めたなら俺達も配下に加えて頂きたい。」
えー、流石に配下とか要らないんだけど。寧ろ里の為に何か役立つ事しろよ。
「旦那が乗り気じゃないのは重々承知だ、迷惑は掛けねぇ。俺達は旦那の住処の近くにでも小屋を建てて住まわせて貰う。
何が入用があれば呼んでくれればいい。例え乗り物扱いされても文句は言わねぇ。寧ろ喜んで騎龍を務めさせて貰う。
だからどうか受け入れて欲しい。」
困った顔でククルの方を見ると、ククルはニヤニヤしながら此方を見ていた。どうやら味方は居ないらしい。
「分かったよ、取り敢えず受け入れる事にするよ。でも、用事があるかは分からないからね。」
「有難き幸せ。誠心誠意仕えさせて頂きます。」
こうして四人の龍種が仲間に加わったのだった。
どうしてこうなった……トホホ。
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消えない様に気を付けていても、更新が始まったり一夜明けると何処にも無かったりします。
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