初の地竜討伐
「よし、此処まで来ればブレスは届かないだろう。」
逃げて来たのはいいが、目的のアンブロシアの瘤根なる物が此方に生息しているのか分からないし、古龍のブレスが着弾した面の方が遥かに登り易かった為急斜面を登る事になったのは痛恨の極みと言えよう。
ただ、アンブロシアは中々見つけ難い所を好んで生息するらしいから、もしかしたら急斜面の方にこそあるかも知れない。
カイルが手で静止の合図を送る。ゲイズとサリシャに緊張が走るが、アリスだけは表情も変えずにその場に留まる。
「どうやら一難去ってまた一難ってやつみたいだ。」
「マジか……。」
「うそ……。」
ゲイズは全員に静かに撤退の合図を送るが、アリスから更に絶望的な報告が成された。
「どうやら撤退は無理な様です。後ろからも地竜が現れました。」
「やるしかねぇってか?流石魔の森、一度外に出れば災害級の魔物の宝庫だな。」
「ゲイズ様提案ですが、前の地竜を御三方でお相手願えますか?」
「オイオイ、姉ちゃん一人で後ろのを相手する気か?」
アリスは少しだけ微笑みながらゲイズ達に告げる。
「この中で地竜を一人で相手出来ると自負しております。それと、どうか主様の造った装備を信じてあげて下さい。」
「そうか、アリスの姉ちゃんは地竜何か目じゃねぇ訳か。ならそっちは任せたぜ。」
「はい、お任せ下さい。」
そう言い残してアリスは後方の地竜へと走って行った。
「恐れも何も無しか、俺達がビビってちゃ格好が付かねえよな?」
「だねぇ、僕達も少しは良いところ見せないと落胆されてしまうね。」
「頑張る、この杖になってから魔法の威力が段違い。」
気合いを入れ直した三人も前方から迫って来る地竜に突撃を掛ける。
確かディフェンダーである俺には盾こそが真骨頂とか言ってたな。
「チェンジ、タワーシールド!」
ゲイズの掛け声と共に左腕に装着されていたバックラーがゲイズの魔力を吸ってタワーシールドに変化する。それだけでは無く、少量の魔力で形成されているとは思えない程の強固な魔力シールドまで表面に展開されているではないか。
「凄え…説明は聞いてたが、これ一つでアーティファクト級の価値があるぞ。」
どう言う理屈かは解らないが、腕を保護するだけのバックラーが身体全体を隠す程のタワーシールドに変化するのだから驚きを隠せない。
他にも既存の盾の形状ならば変化可能で、更に仲間を保護する盾も作り出せると聞いている。
それだけの代物使い熟すには時間も掛かるだろうが、こればかりは何度も練習あるのみ。
この実戦の中でもいくつか使い熟して見せなければならない。でなければ仲間を見す見す見殺しにしてしまうだろう。
もう目の前で仲間が傷付くのは見たくない。だからゲイズはタンクと言う役割をレンから教わったのだ。
ゲイズが後悔で苦悩している時にカイルもまた苦悩していた。
不意打ちだったとは言え、もうあんな無様は晒したくない。ゲイズには心配を掛けただろう、サリシャも泣いていたかも知れない。
だから例え相手が地竜だろうと無様は晒さない。レン君に斥候の役割りの足りない物を教わった。
それは援護、タンクにだけ負担を掛けない様に適度に気を散らし、尚且ヘイトを稼ぎ過ぎない様に気を使う事。
だからいざと言う時の威力ある投擲武器は非常に有効だと言われた。タンクの窮地を助けるのも遊撃出来る斥候の役割りだと言う。
レンに後から渡された武器は威力には申し分無いが、それ程連発は出来ない上に再装填の間はどうしても隙が出来る為、ヘイトを稼ぎ過ぎると致命的になり易い。
その為余程な場合で無い限り使用は控え、実力で対処出来る方が遥かに有効だと教わった。
ゲイズとカイルが後悔と苦悩から闘志を燃やしている間、サリシャだけが自分の役割りのプレッシャーに押し潰されそうになっていた。
『魔法使いの役割はパーティの中で一番重要です。あらゆる事態にも対処出来る様に沢山の魔法を駆使し、どんなに仲間が熱くなっていても一人だけクールに状況を分析し、冷静に対処出来る心が求められます。
僕の持論では無く受け売りですが、この在り方には真理が籠められていると僕は思います。たとえば……。』
旦那様はいきなりは出来なくても徐々に慣らして行けば良いと言っていたけど、それが必要なのは今です。
教えて貰った手持ちの魔法だけでも対処出来る様に冷静に冷静に。
ゲイズに防御力上昇を掛けたいが、あれは神官の魔法だ。私には出来ないが、旦那様に教えて貰った動きを鈍らせる重力魔法……は難易度が高い上に魔力の消費が酷い。
ここはもう一つの魔法パラライズが難易度も低くて最適。ただ地竜相手だと成功率が極端に落ちる。
旦那様に成功率を上げるコツは魔力を余計に込めて威力の底上げをする事だと教わったけど、これも成功率は高くない。
旦那様は逆に威力と範囲を抑えるのが難しいって言ってたけど、とうしたらそんな境地になるのか私には分からないし想像も出来ない。
いや、今は地竜に集中しよう。『躊躇せず先ずはやって見る事、後悔するのも反省するのも全てが終わってからです。そうすれば自ずと改良点や足りない物が見えて来る筈です。』
「パラライズ!」
教えられた通りに余計に魔力を込めて見たが、成功したかどうかはまだ分からない。
手応えはあったと思う。魔力も余す事なくパラライズに乗せられた気もする。
「グロロロログキャァァァ。」
地竜が動かない、呻くだけで倒れた。
「ナイスだ!サリシャ。」
ゲイズが褒めると同時に地竜の喉元に斬りつけるが、鱗が硬くて表面を浅く傷付けるだけに留まっている。
カイルも腹を斬りつけているが、同じ状況みたいだ。
駄目だそれでは魔力を刃に乗せなければ地竜の鱗は貫けない。それで無くてもゲイズは魔力操作が致命的に出来ない。カイルも詠唱する事で何とか最低限の魔法を使っているに過ぎない。全くそれで良くもBランクまで上がれた物だと呆れた事もあったが。
バフ系魔法は神官の魔法、自分には出来ない。けど、旦那様は抜け道を教えてくれた。バフは対象の人に掛ける魔法だ、人に掛けれないなら武器や防具に掛ける魔法なら魔法使いの分野だと。
「エンチャント・シャープネス!」
「ウォォ!切れ味が上がった。サリシャの魔法か?いつの間にこんな魔法を。」
不味い、地竜が動き始めている。パラライズが切れるんだ。
「ゲイズ、カイル、一旦離れて!パラライズが切れる。」
思ったよりも早く切れた。考えろ何か対策は…教えて貰った魔法は4つ、パラライズは元から覚えてたが成功率が低くて滅多に使わなかった。
シャープネスは最初に使った、まだ持続している様だ。残るは3つアイスウォールとイヴィ・バインド、最後にヘビィ・グラビティを教わったが、これは魔力の消費が激しく今の私では使えば暫く動けない可能性が高いと言われた。
だから確実に仕留められるタイミングでのみ使う様に言われている。何故そんな魔法を教えたのかと聞いたら、『魔法使いなる者決め手となる大魔法の一つくらいは覚えて置くものだ。』と、それでも旦那様が持つ重力魔法では中級に当たるそうで、使いこなせれば範囲も広がるし大抵の魔物なら通用するからだとか。
しかも、それが昔好きだった英雄譚に出てくる大魔導師の教えとは畏れ入る。いつか機会があれば読んでみたいものだ。
って、完全に現実逃避してた。ゲイズは、カイルはどうなってる?
「サリシャ、大丈夫か?」
カイルが心配して様子を伺っている。そんな余裕も無いだろうに、本当に優しい仲間達だ。
呆けている場合じゃない。出来ないでは無く、やらなければいけないのだ。上手く出来なくても、間違っても冷静に淡々と役割を全うする事が魔法使いの役目。
ならば先ずは動きを阻害する!
「イヴィ・バインド!《蔦の戒め》」
流石森の中、そこいらから蔦が伸びて来て寄り合わさり丈夫な縄の様になって地竜の動きを阻害する。
如何な地竜でもこの拘束は抜けられないだろう。
「今だよ!」
「「ナイスだ!」」
弾かれた様にゲイズが地竜の頭にシールドバッシュを叩き込む。いつの間に変えたのかシールドはスパイクシールドに変化していた。あれは痛い。
カイルが離れた場所から金属製の筒を取り出すと"バン!"と言う大きな音を出して筒の中から火が吹き出してた。
そんなに火力がある様には見えないが、イヤ明らかに火が届いていないのに地竜は苦しんでいる。原理は解らないがチャンスである事には違い無い。弱りだした地竜だが悪足掻きなのかブレスを吐く体制を取った。
狙いは……ゲイズ!!どれだけ耐火性能が高くても至近距離では完全に火力を防ぎ切る事は難しい。ゲイズも気付いたがもう遅い。
数歩後退したけど、まだまだ近い。逃げ切る事は出来ない。
「アイスウォール!」
ゲイズと地竜の間に氷塊の壁が出現する。同時に地竜のブレスがゲイズを襲うが、氷塊に阻まれゲイズには届かない。
「うへぇ、あ、あぶねぇ。サリシャ助かった。」
地竜もかなり弱っている様だ。多分力を振り絞ってのブレスだったのだろう、睨み付ける視線が弱々しい。未だにゲイズにヘイトが向いている間に詠唱を始める。
「ゲイズ、カイル離れてこれで最後!」
逃げる様に二人はサリシャの隣まで引き返す。
「ヘビィ・グラビティ!」
直径にして6〜7メートル程の円形の範囲が見えない何かに押し潰された様に地面事陥没する。
流石の地竜も息絶えたのか見動き一つしない。サリシャも魔力を使い果たしたせいなのかその場に倒れ込む。
地面に倒れる前にサリシャの身体を何かが支える。カイルが優しくサリシャを抱きかかえている。
「無理し過ぎだよサリシャ。」
「本当に何でこれでモテないのかしらね。」
力無く呟いて気を失うサリシャを気を悪くしたでも無く軽く笑いながらカイルも一言返す。
「余計なお世話だよ。」
そんな二人を微笑ましく見ているゲイズだった。
背後から接近する気配にゲイズが警戒を顕にし、カイルは気を失っているサリシャを護る様に木の陰に移動する。
そんな二人の緊張も杞憂に終わる。現れたのは先程後方の地竜を迎え撃つ為に別れたアリスだった。
「あ、此方も終わりましたか?」
拍子抜けした顔でゲイズが苦言を呈する。
「姉ちゃん、空気読め無いってよく言われないか?」
「さぁ、誕生して間もないので分かりませんが。」
ゲイズは力無く頭を垂れる。しかも、疲れた様子も無く単独撃破とか自信を無くしそうだが、普通の冒険者でも討伐は無理な話のはずだから坊主の周りだけが特殊なのだろうと納得して置く。
「そういやそうだったな。」
「そんな事よりあちらをご覧下さい。多分地竜が暴れたお陰で露出したのでしょう。」
「此れがアンブロシアってやつか?」
成程、中々見付けられないとはこう言う事かと納得してしまった。
岩と岩の間に咲いている様だ。偶々片方の岩が砕けた為に花が露出したのだろう。寧ろこの岩を砕いてから掘り出す事を考えると鶴嘴だの大ハンマーだの荷物に入っていたのも納得した。
「地竜との戦闘の直後に掘り出す作業は正直だりぃな。」
「しかし、他の地竜がやって来ないとも限りません。手早く終わらせてしまいましょう。」
「……だな。」
何にせよ地竜を自分達だけの力で倒せたのは冒険者に取っても大きなアドバンテージになる。アイテム鞄に収納してギルドに売り付けてやろう。
思わぬ大獲物を倒した高揚感で、最初はダルいと溢したゲイズも作業は左程苦も無く完了出来た。
アンブロシアの根瘤は大きな物が7〜8個も付いた大物だったので、これ一つで予定数量の倍の収穫になったのは嬉しい誤算だ。
眠っているサリシャを背負い、早々に下山して帰路につくとしよう。飛んだ大冒険になってしまったが、少しはレンへの恩返しが出来たかなと満足して貰える顔を想像しながら口元が緩むのを止められない。
ふと、立ち止まる。そう言えば探索予定の期日が迫っている。これ以上ノンビリしていたら依頼失敗に加えて死亡認定されそうだ。
帰ったら坊主に相談して帰り道を教えて貰おう。出来れば護衛付きで……情けないが仕方無い。また借りが出来てしまうなと肩を落としながら再び歩き出すゲイズだった。
マトリフの教え(笑)




